2014年05月31日
善悪男女 ぜーんぶ染五郎さん 五月花形歌舞伎 「伊達の十役」
明治座五月花形歌舞伎の演目が発表された時、「え?!『伊達の十役』? どうして染ちゃんが?」と思ったものです。
上演が途絶えていた作品を三代目 市川猿之助(現・猿翁)さんが164年ぶりに復活上演させた舞台。「澤瀉屋さんの演目」という印象が強かったから。
11年前、猿翁さんから染五郎さんに上演が提案されたものの猿翁さんの病気のためかなわなかった企画。昨年10月、改めて猿翁さんから直々に上演を勧められ、「目標としてきた役。巡り合わせで上演できることになり感無量です」という染五郎さんのインタビューを後になって知りました。
猿翁さんの衣装を引き継いで勤めるという十役。観に参上しない訳にはまいりません。
明治座五月花形歌舞伎 夜の部
「慙紅葉汗顔見勢」(はじもみじあせのかおみせ)
三代猿之助四十八撰の内 伊達の十役
市川染五郎十役早替り宙乗り相勤め申し候
発 端 稲村ヶ崎の場
序 幕 鎌倉花水橋の場/大磯廓三浦屋の場/三浦屋奥座敷の場
二幕目 滑川宝蔵寺土橋堤の場
三幕目 足利家奥殿の場/同 床下の場
四幕目 山名館奥書院の場/問註所門前の場/同 白洲の場
作: 四世鶴屋南北
脚本・演出: 奈河彰輔
演出: 市川猿翁
出演: 市川染五郎 (口上・仁木弾正・絹川与右衛門・赤松満祐・足利頼兼・土手の道哲・高尾太夫・腰元 累・乳人 政岡・荒獅子男之助・細川勝元)
市川高麗蔵 中村亀鶴 中村壱太郎 中村種之助 中村米吉 大谷廣太郎
中村隼人 松本錦吾 大谷桂三 坂東竹三郎 中村歌六 片岡秀太郎 ほか
2014年5月25日(日) 4:00pm 明治座 1階1列センター
幕が上がると舞台中央に正座した染五郎さんの口上。
後ろには十役に扮した染五郎さんのパネル写真と役名。ちゃんと左側が善、右側が悪、と善悪に分かれています。
役どころを簡単に説明してくださった後、「演目の『慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)』は、文字通り役者が紅葉のように顔を真っ赤にして奮闘する物語ですが、それもお客様の温かいご声援あればこそ・・」にやんやの拍手を受けて開演です。発端は仁木弾正の父の亡霊・赤松満祐が弾正に旧鼠の術と一巻を授ける場面から。
この様子を見ていた絹川与右衛門は、満祐が「子の年、子の月、子の日、子の刻に生まれた男子の生血が満祐の片目に刺さっていた古鎌に注がれた時、術は破れる」と語った、まさにその生まれでした・・・と何やら因縁めいた出だし。
この三役はもちろん全部染五郎さんで、早替りで出てくるたびに客席から歓声が。元より、この後繰り出される鮮やかな早替りの数々に時にどよめき時に歓声、そしていつも拍手喝采でした。
他の演目でもそうなのですが、澤瀉屋さんの早替りって「早替りのための早替り」という感じがして、「そんなにまでして早替りして見せなくていいのに」と思うこともあるのですが、この「伊達の十役」については、そんな不自然さはなくて、本当に早いし綺麗だし楽しいし・・・で、やる方ももちろんすばらしいのですが、それは物語がしっかりしていて、それに早替りが溶け込んでいるということで、猿翁さんやっぱり凄いなと改めて思いました。
まだ歌舞伎を観始めの頃は早替りにいちいち「どうなってるの?」と驚いていたものです。
その最たるものは「怪談乳房榎」のあの花道の傘とござの早替りなのですが、今回同じ早替りがありましたが、間近で観たのに本当に目にも止まらぬ速さで、久しぶりに「どうなってるの?」アゲイン(笑)。
早替りのために物陰に隠れたり影武者が出てくることにも慣れっこ(カワイクない)のはずなのに、高尾太夫殺しの場で一か所本当に入れ替わったのに気づかなかったところがあって、思わず「えっ」と小さく声が出てしまいました。
染五郎さんの十役 いずれもとても楽しめましたが、ここで勝手に三賞
艶やかだったでしょう: 高尾太夫
細面で美形の染五郎さんですから、もちろん女方も違和感なく美しくお似合い。
これまでにも染五郎さんの女方は観たことありますが、花魁道中を観るのは初めてでした。
華やかな着物に身を包み、振袖新造を従えて高下駄履いて外八文字で歩く高尾太夫は艶やかそのもの。
男前だったでしょう: 細川勝元
これはいわゆる染五郎さんのニンの役。
歌舞伎座で花形で「先代萩」を上演することがあったら、この役あたりがまわってくるのではないかしら。
最後の方に出て来て、痛快な弁舌で悪人たちをやり込めて正義感あふれる捌きを見せるカッコイイ役。水もしたたる男前っぷりで青い着物に銀鼠色の裃もお似合いでした。
楽しそうだったでしょう: 土手の道哲
破戒坊主の悪役なのですが、憎々しさの中に何とも愛嬌があって、下卑た感じも生き生きしていて何だかご本人楽しそう。
この道哲観てると、染五郎さんで「法界坊」もできるのではないかしらと思いました。
女方の三役はいずれも魅せてくれましたが、圧巻は二幕。
そのまま「伽羅先代萩」の「足利家奥殿の場」と「床下の場」。
乳人政岡が片手に膳を持って登場。
幼君を守る気概と品格漂う毅然とした立ち姿に見惚れました。
「政岡を演じるため女形を経験してきた」と染五郎さんがおっしゃっていた女方の大役。
忠義の乳人もわが子を思う母心も、存分に見せてくれました。
わが子千松が目の前で八汐になぶり殺しされる時の感情をすべて呑み込んで押し殺したような表情が忘れられません。
悪の華 仁木弾正はこの演目では引っ込みが宙乗りで、そのゆったりとした浮遊感がいかにも「人外のもの」という雰囲気でしたが、迫力とか凄味にはもう一息というところでしょうか。引っ込みとしても面取りの灯りの中を不敵に静かに進む「先代萩」の方が好き。
三幕の立ち回りはさすがに動きにキレも美しさもあって、あれだけ激しく動いて息も切れない鮮やかさ。
ほんとに憎々しくて凄味もあった歌六さんの八汐(初役だなんてオドロキ)、他を圧する品格のある秀太郎さんの栄御前、あまりの可愛らしさに目が釘づけになった米吉くんの新造薄雲、出過ぎず地味になり過ぎず、相変わらず台詞もしっかりの亀鶴さん民部・・・染五郎さんの奮闘を盛り立てる周りの役者さんたちも熱演。
めでたしめでたしで大団円を迎え、染五郎さん勝元の「本日はこれぎり~」に機嫌よく打ち出されました。
これで染ちゃん また一つ階段上がったみたい のごくらく度 (total 1191 vs 1196 )
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