マーティン・マクドナーの作品を観るのは多分2008年の「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」以来。
演出はこのところご活躍が目立つ小川絵梨子さん。
今回は翻訳もご自身で担当されたとか。
実は翻訳現代劇はいささか苦手。
でもこのキャストの魅力には抗えなかったのよ。
シス・カンパニー 「ロンサム・ウェスト」
作: マーティン・マクドナー
翻訳・演出: 小川絵梨子
出演: 堤真一 瑛太 北村有起哉 木下あかり
2014年5月24日(土) 6:00pm 新国立劇場小劇場
THE PIT A2列上手
舞台はアイルランドの田舎町。
中央に暖炉があり、その上に祭壇のように十字架を掲げた部屋。
登場人物は4人。
コールマン(堤真一)とヴァレン(瑛太)兄弟は、父親の葬儀を終えたばかりだというのに些細なことで喧嘩が絶えません。
この町に赴任してそれほど長くないウェルシュ神父(北村有起哉)は、兄弟や殺伐とした町に疲れ、自分の無力感に絶望して酒に溺れています。
17歳の少女ガーリーン(木下あかり)は酒の密売をして稼ぐしっかり者ですが、ちょっとあばずれ風で何かと神父にまとわりついています。
町の住民の一人が湖で自殺した夜、神父は兄弟への手紙をガーリーンに託し・・・。兄弟はいつも喧嘩をしています。
弟の酒を兄が勝手に飲んだとか、ポテトチップスの銘柄のことだとか、保険の掛け金をちょろまかしたりだとか・・・小学生ですか、と思えるようなやりとりは時に無邪気にも映り、客席からは笑いも漏れます。
小学生といえば、気になる人の前で素直になれず悪ぶって憎まれ口ばかり叩いているガーリーン。小学生ですか(笑)。
この兄にしてこの弟あり、という感じではあるのですが、その一見「微笑ましい」を「空恐ろしい」に切り替えるのは兄のコールマン。
ヴァレンが集めて暖炉の上の棚に大切に飾っているたくさんの聖像を一気にバケツに放り込み、ストーブで溶かしてしまうあたりから、観ている私たちの背筋に冷たい感覚が走り始めます。
言葉ではっきりとは語られませんが、そこには母親の不在や父親による虐待の影がちらついたり、仕事もなく狭い地域社会の中で生きる閉塞感が充満していて、じわじわと息苦しさが増していきました。
神父が遺した手紙を十字架の下に貼り、「兄弟仲良く」という教えを守ろうと、互いに過去の悪行を暴露合戦しながら許し合おうと努める兄弟。
それがエスカレートして、ヴァレンのかわいがっていた犬の耳を切り取って殺したのは自分だと告げるコールマン。
ついにはヴァレンに向かってライフル銃を構えるコールマン。
私の席からはヴァレンと対峙するコールマンを背後から見る角度だったのですが、その背中にコールマンの「狂気」が見て取れて、言葉を失う思い。
堤真一さん凄まじい。
一方、自殺する者を救えず兄弟の争いを止められず、神父としての在り方を見失い絶望した末に自分の魂の救済を兄弟愛の復活に求め手紙を遺すウェルシュ神父。
彼は自分に向けられた愛には最期まで気づくことはありませんでした。
キリストの母と同じマリアという本名を持つガーリーンの愛もまた、神父の心の闇の深みにまで踏み込めず、彼を救うことができません。
湖に突き出た桟橋で、同じ湖面を眺めながら見つめるものが違う二人。心が通じ合うことのない二人のシーンが切なく、苦い。
マリアという名前、兄弟の家に掲げられた十字架、ヴァレンがコレクションしている聖像・・・キリスト教の影がつきまとうこれらのものは、このリアリティあふれる一見救いようがないような物語に神話のような寓話性を持たせているような気も。
生粋日本人の私にはそのあたりの感覚が本質の部分では理解できないのではないかという思いがあって、そこが私の翻訳劇苦手意識の源でもあるかなぁ、と改めて感じました。
ただ、小川絵梨子さんの翻訳はさすがに今を感じる若者言葉(「死ねばいいのに」とか)で、兄弟の会話(というか喧嘩だけど)はかなり自然に耳に入ってきました。
乱暴者で粗野でしたたかで、だけど何だか愛嬌たっぷりの堤さんコールマン。
金に汚くずる賢そうに見えてどこか純粋さを感じる瑛太くんヴァレン。
二人の丁々発止のやり取りは見応え聴き応えありました。堤さんの上手さは刷り込み済みですが、ワタシ的には瑛太くんが「お!やるやん」でした。
ラスト。
「絶対あいつに酒は奢らないからな」と言いながら、どこかうれしそうに兄の後を追って出て行くヴァレン。
殺したいほど憎々しく思いながら、この兄弟を結びつけているものは?
ヴァレンも、そしてコールマンも、どちらかが家を出て一人きりになってしまうのがたまらなく寂しく、怖いのではないかしら。
・・・やっぱり小学生じゃん(笑)。
永遠の兄弟喧嘩 のごくらく地獄度 (total 1190 vs 1196 )
2014年05月29日
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