2014年05月14日

いずれ春永に 「ハルナガニ」

harunagani.jpg今年のゴールデンウィークはリベンジ週間?
木皿泉×内藤裕敬×薬師丸ひろ子のタッグで2012年に上演された「すうねるところ」。
これもチケット取っていたのに急な仕事が入って観に行けず(泣)。作品は違うものの、同じトリオの新作ということで、またまたリベンジです。

木皿泉さんという脚本家を最初に知ったのは「やっぱり猫が好き」。その後、「すいか」「野ブタをプロデュース」といったお気に入りのドラマでお名前を拝見していたのですが、ご夫妻で共同執筆されているペンネネームだと知ったのは最近のことでした。

「ハルナガニ」
脚本: 木皿泉
演出: 内藤裕敬
原作: 藤野千夜 「君のいた日々」
出演: 薬師丸ひろ子  細田善彦  菊池亜希子  菅原大吉  渡辺いっけい

2014年5月4日(日) 1:00pm シアター・ドラマシティ 12列下手



「ハルナガニ」は能の別れの言葉「いずれ春永に」から木皿泉さんがつけたタイトルだそうです。「いつかまた時間のある時に会いましょう」という意味で、三島由紀夫さんも手紙の終わりに好んで用いられた言葉なのだとか。

舞台はマンションの一室。
♪そばにいて く~れる だけでいい~ とカラオケで歌う春生(渡辺いっけい)。
その姿を見て、「母さんが死んで1年になるんだから、いい加減に立ち直れ」とあきれて言う高校生の息子・亜土夢(細田善彦)。
そこに何事もなかったかのように帰ってくる母・久里子(薬師丸ひろ子)。
亜土夢には二人が見えているのに春生と久里は互いに「春生/久里子は一年前に亡くなった」と言い、相手の姿は見えない。
そして、それぞれぞれに「久里子さん/春生さん)に会いたいなぁ」とため息をつく。
翌朝、夫婦の共通の友人・西沢(菅原大吉)と春生の部下・三浦(菊池亜希子)がやって来るのですが、この二人には夫婦どちらも見えているような感じ・・・。基本コメディなのかな?
夫婦の諍いや周りの人たちの困惑の様子を笑いながらのぞき見ている感じ。

亡くなったのは久里子なのか春生なのか、もしかしたら二人とも死んでいるのか、いや、実は二人とも生きていて、1年前に何かがあって相手を亡くしたことにしてお互いが「見えない」演技を続けているのか、最後までよくわからなかったというのが正直なところ。

だけど、もしかしたらそんなことはどうでもいいことなのかもしれません。
三浦さんがこのマンションに住みたかったという思いを語り、その思い出に触発されて若かりし頃、亜土夢が生まれたばかりで互いに仕事を抱え、いっぱいいっぱいの中で辛辣な夫婦げんかをした日のことを思い出す春生と久里子。
夜通し喧嘩して夜明けを迎えて、やがて心が歩み寄る二人。
あの二人のやり取りの中で、若かりし日の夫婦げんかを見せられて、今、目の前にあるものの大切さや、かけがえのない人との何でもない日々の暮らしにどれほどの幸せが詰まっているかを感じ取ることができれば。
観る人によって感じ方も受け取るものも違うでしょうが、ワタシが受け取ったのはそんなメッセージ。

お互いの存在は見えていないけれども同じ空間にいて、いかにも見えていないように、ぶつからないように、さらりと自然に動く役者さんたちの演技はちょっと感動モノだったり、互いに聞こえていないテイの会話が何となく成立しているようにも感じられる脚本もおもしろかったです。

舞台で拝見するのは初めての薬師丸ひろ子さん。
良くも悪くも映像のイメージ通りでしたが、泣いたり怒ったり笑ったり、活き活きと表情豊かでとてもチャーミング。ちゃんと生活感があるのに少女の面影を残す愛らしい妻でお母さんでした。
これを受ける渡辺いっけいさんは、いつもに比べて技巧も声も抑えめな印象でしたが、とても自然な演技が好感。
二人に振り回される息子・亜土夢の細田善彦くんの緩急のある演技も印象的でした。

この日は千秋楽で、いっけいさんがご挨拶を仕切った後、「それでは座長の薬師丸ひろ子から・・」と薬師丸さんをご指名。
「楽屋のモニターで皆さんが客席に入っていらして客席がだんだん埋まってくるのが見えるんですが、それを見るのが大好きでとても幸せです」とおっしゃっていたのが印象的でした。薬師丸さんの人柄が垣間見えるようなすごく自然体のご挨拶。
「この舞台を見て、『すごくよくわかる』とおっしゃってくださる方もいれば、『むずかしくて全然わからない』とおっしゃる方も。それぞれに感じていただければ・・」と。


パンフ(買わなかった)に掲載された木皿泉さんのコメントを後日教えていただきました。
「何が違うのかといいますと、藤野さんの小説では、登場する夫婦はどうやら、それぞれ別の空間で生きているようなのであります。が、演出家は夫婦は実は同じ空間に生きているのではと考えているようなのです。そして、私たちは、この夫婦はすでにどちらも亡くなって、どこにもいないと思って書いているのです。」


え?そうなの!?目 の地獄度 ふらふら (total 1182 わーい(嬉しい顔) vs 1187 ふらふら)
posted by スキップ at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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