獄中の陽子に面会するマスター。
二人の間に生まれた子ども 月子を連れて。
何を話しかけられても能面のように表情ひとつ変えない陽子。
「本当の父親は誰なんだ。何か言ってくれよ」というマスターに、突然立ち上がってタコ踊りを始める陽子。
客席からは笑いが起こりましたが、私は笑えなかった。
壊れてしまった陽子が、それでもなお意識のどこかで助けを求めているように見えて。声にならない悲鳴が聴こえたようで。
パルコ・プロデュース
"ねずみの三銃士"第3回企画公演 「万獣こわい」
脚本: 宮藤官九郎
演出: 河原雅彦
出演: 生瀬勝久 小池栄子 小松和重 池田成志 夏帆 古田新太
声の出演: 橋本じゅん 菅原永二 坂本けこ美
2014年4月30日(水) 7:00pm 森ノ宮ピロティホール 3列センター
2004年「鈍獣」 2009年「印獣」・・・5年ごとにやってくるらしいねずみの三銃士企画公演。
「鈍獣」の冒頭で、キオスクのパートのおばさんに扮した生瀬・池田・古田の3人に爆笑して以来、毎回楽しみに観ています。
実際に起きた連続監禁殺人事件(尼崎の事件が記憶に新しいけれど、ベースは北九州の方らしい)を題材に、どんな人の心にも棲む獣、意識の下に潜んでいる獣が飛び出る恐ろしさを描いている・・・のかな。
ハロウィンの夜、開店準備をするマスター(生瀬勝久)と元不倫相手の妻・陽子(小池栄子)の喫茶店に、トキヨ(夏帆)という少女が助けを求めて飛び込んできます。近くのマンションに家族ともども8年間監禁され、毎年1人ずつ殺されていったと告白します。7年後、OLとなったトキヨが店を手伝うようになりますが、彼女の里親アヤセ(古田新太)が現れ、やがて態度を豹変させたトキヨは・・・。2階建ての舞台。
1階では現在の喫茶店で、監禁の経過が生々しく展開され、それと並行して2階では裁判の証言で凶行の真相に迫り、また、時を遡ってトキヨがヤマザキ(古田新太)に監禁されていた過去も織り込まれて描かれます。
「マインドコントロール」という言葉が改めて胸をよぎります。
日常から切り離され、抑圧され続ける中、思考が停止してしまう人間の脆さ。いとも簡単に善悪の境界を越えてしまう恐ろしさ。
監禁事件が明らかになった時、私たちは大抵「なぜ逃げられなかったのか?」と思います。
実際、ここでも陽子が最初にトキヨにそう言っていました。
だけど、逃げられない。
その陽子でさえ。
その「逃げられない」という心理状態に集団で追い詰められていく様をリアリティを持って、空恐ろしく見せつけられます。
最終的にマスターは妊娠した陽子を守るため、勇気を振り絞ってトキヨに反旗を翻します。「愛情からじゃない、体裁が悪いからだ」と言い放ちながら。
たとえ体裁からでも、それでも少し救われた思いがしたのもつかの間、トキヨの証言で立場が一転し、一気に深淵の闇に堕とされていく陽子。
トキヨのあの陽子に向けられた悪意はどこからくるのでしょう。
何だか夏帆ちゃんがすごく嫌いになった(笑)・・・それだけ上手い、ということなのですが。
人間の嫌な面をこれでもかというくらい見せつけられ、気分悪くさせられ、繰り返される陰惨な惨劇に背筋を寒くさせられ、なのにくだらないギャグにゲラゲラ笑わされて・・・宮藤&河原の思うツボです、私たち観客。
プロローグの落語場面は、「饅頭こわい」と「万獣こわい」をかけた、それこそ「まくら」だと思っていたのに、監禁されていたトキヨが好きな人の名前を言うとその人をヤマザキが殺すので、「こわいこわい」と言いながら逆に死んでほしい人の名前を挙げるようになったというエピソードに帰結させるクドカン脚本の凄味。
相変わらずキレのいいダンスも見せてくれてご馳走の古田新太を筆頭に役者さんもちろん誰一人穴はないのですが、何と言っても小池栄子さん。
ブレなく迷いなく、瞬発力もキレも緩急もある演技。
物語の中盤で「外の警察に助けを求める合図」として馬場(小松和重)に代わって咄嗟に窓際で踊るタコ踊りは、切羽詰まった状況であるがゆえに爆笑だったのですが、それを受けての冒頭に書いたラストのタコ踊り。
言葉を失う思いでした。
小池さんは次回「大人の新感線」にもご出演予定。楽しみです。
情け容赦なく観客を突き落としておきながら、そしてこの上なくあと味悪くさせながら、芝居として、作品としてとても満足できる舞台。
気分悪いのだけど、なぜだかもう1回観たくなったのでした。
プロローグで落語家・小松和重さんをイジるのは、狼男・生瀬、七つ目・古田、一角獣?・池田。
なるし~ 「空席がこわい」って、あのハサミのような手で客席バンバン叩いていましたが、これ、どの会場でもデフォのようですね。いつも空席つくってあるのかな。
観終わった後で「声の出演: 橋本じゅん」を知る。裁判官とかかな?全く気づきませんでしたワ
「5年の間に宮藤くんが『あまちゃん』であんなことになって・・」 by 生瀬勝久 のごくらく度 (total 1179 vs 1182 )
2014年05月08日
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