2014年04月30日

ぼくには何でもできるってことじゃない? 「夜中に犬に起こった奇妙な事件」

yonaka2.jpg2003年に発表され、全世界で1000万部を超えるベストセラーとなった小説を2012年にロンドンで初演。その斬新な演出と感動的な物語が観客に圧倒的な賞賛を持って迎えられ、翌年のローレンス・オリヴィエ賞を7部門受賞するなど高い評価を得た作品なのだとか。

今回の日本版では、舞台を日本に置き換え、ロンドン版とは違う形で少年の頭の中を表現、日本オリジナルの舞台作品としての上演となっているそうです。

「夜中に犬に起こった奇妙な事件
原案・原作: マーク・ハッドン
劇作・脚本: サイモン・スティーヴンス
上演台本: 蓬莱竜太
演出: 鈴木裕美
出演: 森田剛  高岡早紀  小島聖  西尾まり  久保酎吉  入江雅人  木野花 ほか

2014年4月24日(木) 7:00pm シアターBRAVA! 1階P列上手


物語: 主人公はアスペルガー症候群15歳の少年・ユキト(幸人/森田剛)。父の誠(入江雅人)と二人暮らしです。
情景を録画するように記憶する能力を持ち、数学や物理では天才的な能力を発揮しますが、自閉症のため他人とうまくコミュニケーションが取れなかったり、予想外のことに対応できなかったりするユキトをやさしく見守る瑛子先生(小島聖)。ある日、隣家で犬が殺される事件が起こり、ユキトは犯人を探す中、2年前に死んだと聞かされていた母(高岡早紀)が生きていることを知り・・・。

舞台は学教の教室。
黒板と枠だけのドアがあって、出演者たちは舞台の上手下手に分かれて並んで椅子に座り、真ん中で繰り広げられることを見つめ、場面に応じて出て行って演技する形。
シンプルな舞台装置ですが、シーンごとに机や椅子を役者さんたちが動かし、学校の教室はもちろん、みどりの窓口になったり銀行のATMになったりもします。
そこに多用されるプロジェクションマッピング。ユキトが一人で静岡から東京の母のもとへと向かう場面。
舞台に映し出され、流れていく種々雑多な看板のネオン・・・私たちが普段何気なく見過ごしているものたちが、こんなにも街に溢れ返り、ユキトを取り囲み、まるで追い詰めて行くようにさえ感じました。

ユキトが彼の想像世界の中で宇宙遊泳するシーンはとても印象的。
宇宙について夢中で語るユキト。たくさんの星々が映し出される夜空で、男性陣にリフトされてスローモーションのように宇宙遊泳するユキトの姿は舞台が本当に無重力の世界にも感じられて、とても美しいシーンでした。

全体に笑いを散りばめてはいるけれど、内容的にはとても重くて切ない。
「ずっとここにいたい」と願うユキトと「好きなだけここにいていいのよ」と応える母。
だけど少しずつ軋んでいく二人の心。
静岡に戻ることになったユキトに母が「しばらく黙ってて!」と声を荒げてしまった時、「しばらく」の意味が理解ができず喚くユキト。それに気づいて「30分黙ってて」と言い直す母。
アスペルガー症候群の子と一緒に生きていくって、そういうことなんだなと厳しい現実を突きつけられたようでした。
それと同時に、母が家を出てしまった後、父が一人で、どれほど辛抱強く愛情を持ってユキトと対峙していたかも強く感じました。

森田剛くんはほぼ出ずっぱりで、常に台詞を話している感じ。
あの膨大な台詞を一分もブレることなく「ユキト」として発する力量には感嘆します。
リアル15歳の少年であり、極めて自然に、アスペルガー症候群の少年として舞台の上に存在していました。
元々口跡に少年の甘さの残る役者さんですが、その立ち居振る舞いも含めて、これまで私が観た森田剛くんが演じた役の中でもダントツのハマり具合ではないかしら。

周りの役者さんも皆よかったです。
瑛子先生の声や話し方がとても好きで、でも席が遠くて誰かわからなくて、オペラあげてやっと「小島聖じゃん。そりゃ上手いはずだワ」と思った次第。

「ぼくには何でもできるってことじゃない?ね、瑛子先生。ぼくには何でもできるってことじゃない?」とうれしそうに繰り返すユキト。
大冒険の末、お母さんのところまで一人で行けた、ベージュという新しい友だちができた、数学検定準一級にも合格した・・・ユキトの現実はこれからも続くし、それはきっと厳しいものに変わりはないけれど、そこに一筋の光が見えるようなエンディングでした。


数学検定の問題をどんなふうに解いたかを書こうとするユキトに、「説明してくれなくてもいいのよ。みんなはあまり面白いとは思わないと思う」と言う瑛子先生。
「ぼくの大好きな問題だよ。ぼくにとっては面白い」と反論するユキト。
「じゃあ興味のある人だけ見るように、カーテンコールにしましょう」という前振りが劇中にあって、カーテンコール。
「ここに残ってくれてる人たちは、ぼくの解き方が気になるんですね」という森田剛くんユキトはキラキラスパンコールの衣装。ライブのように歌い踊りながら(赤い服着た他の役者さんも一緒に)きっちり6分間でピタゴラスの定理使った証明問題解いてみせて、「V6の森田剛」をちょこっと見られたような得した気分。



入江雅人さんの咳についてのツイートが物議を醸していましたが、さもありなんの静謐な舞台。
アレ、大阪の会場のことだと思うとちょっとハズカシイ の地獄度 ふらふら (total 1173 わーい(嬉しい顔) vs 1176 ふらふら)
posted by スキップ at 23:50| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おお! レポありがとうございます。
パブリックシアターの先行抽選を失念してしまい、すっかり意欲がうせたので心の中で無視してました(汗)。Jはほんとにハードルが高いし。でもがんばって、見ればよかった……。
森田剛くんの声は特徴的ですよね。15歳の少年が想像できますわ。
アスペルガーって、最近はよく聞きますが、息子の幼少期に一般的になってたら、悩んでたに違いありません。時刻表とかチャート図がとても美しく見えてるんだろうな、と思ったことはあります。まあ普通に学校に行って就職してますけれど、悩みを持った親御さんに共感できる部分はあります。
Posted by きびだんご at 2014年05月01日 11:46
♪きびだんごさま

感想を書こうとすると結構手強くて、あまり参考にもならないような
伝え切れない拙いレポでお恥ずかしい限りです。
でも物語として、舞台作品として、とても興味深かかったです。

アスペルガーに限らず、自閉症にかかわるお悩みは、お子さんを
お持ちの親御さんは皆さん、人ごとではない感覚がおありなのでしょうね。

それにしても、ほんとにJ系の人が出る舞台のチケットの取り難さは
毎度のことながら・・・です。
今回私はこの作品の公式サイト先行で取れたのですが、めげるくらい
後方席で、もっと前で観たらいろいろ見えたのになぁ、と思いました。
・・・だって、舞台に出てきたベージュというゴールデンレトリバーの子犬、
てっきりぬいぐるみだと思っちゃったくらいですもの(>_<)
Posted by スキップ at 2014年05月01日 23:47
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