2014年04月25日

四国こんぴら歌舞伎大芝居 第ニ部 「女殺油地獄」

IMG_7621.jpg四国こんぴら歌舞伎第二部は「女殺油地獄」。
この演目が発表になった時、金丸座のあの空間で繰り広げられる「豊嶋屋油店の場」はどんなだろう、絶対観たいと思いました。
結局、当初の予定から1回追加して、修学旅行メンバーが帰った後一人残って再度観劇したのでした。

第三十回記念「四国こんぴら歌舞伎大芝居」 第ニ部
「女殺油地獄」
徳庵堤茶屋の場/河内屋内の場/豊嶋屋油店の場/
北の新地の場/豊嶋屋逮夜の場
作: 近松門左衛門
出演: 市川染五郎  中村壱太郎  尾上松也  嵐橘三郎  上村吉弥  中村歌昇  中村米吉  片岡亀蔵  
市川高麗蔵  澤村宗之助 ほか

2014年4月19日(土) 3:30pm 金丸座 1階 に3/
4月20日(日) 3:30pm 1階 ろ5 


染五郎さんが河内屋与兵衛を演じるのは3年前のル・テアトル銀座以来3度目。
あの時、「受け継ぐ河内屋与兵衛」というタイトルで感想を書いたのですが、今回観て、やはり仁左衛門さんの河内屋与兵衛を継承するのは染五郎さん以外にないという思いを強くしました。

今回、染五郎さんの与兵衛を観ていて感じたのは色濃い“悲しみ”。
お吉がどうあっても金を貸してくれないと悟った時、不良少年が狂気の殺人者へと変貌するまさにその刹那、たとえようのない深い哀しみの色がその瞳に浮かんだように見えました。
もう、戻れない、と。
そして、その先に待ち受ける地獄を、受け容れるしかない、と覚悟を決めた眼。

お吉を殺してしまって豊嶋屋から逃れていく花道。
油まみれになり、犬の声に怯えながら逃げようとする与兵衛の顔が、恐怖で、というより悲しみで歪んでいるように見えました。
油と汗でぐっしょりの顔に涙が浮かんでいるように見えて、その厳しさ、切なさに落涙たらーっ(汗)
小心者で自分に甘く、どうしようもないダメ男な与兵衛に感情移入してしまった、不思議な感覚でした。
救いようがないダメ男ながら、ぼんぼんとしての育ちのよさやどこか憎めない可愛らしさがあって、美しさも色っぽさも備えているという何とも魅力的な与兵衛。もう一つは、これは前回も感じたことですが、この物語は与兵衛とお吉ばかりでなく、それを取り巻く家族の悲劇でもあったのだなということ。
互いに隠して与兵衛に金を与えようとするおさわ(吉弥)と徳兵衛(橘三郎)の温情。
あんな人間でも兄と慕い、かばい続ける妹のおかち(米吉)の憐憫。
継父として、ずっと与兵衛を気遣ってきた徳兵衛が、捕らえられた与兵衛を思わず殴りつけて、その後、手ぬぐいで頬かむりさせてやる気持ちが切ない。あの時、やっと本当の父親になれたのに、その時が別れという皮肉。
捕らえられた与兵衛になおも必死で掴みかかろうとする七左衛門(松也)の姿に、この家族の悲劇も感じたのでした。

キレやすい若者と甘やかす親世代。すれ違う心と寄り添う情。
江戸時代に書かれた物語なのに、何という普遍性。やはりおそるべし!近松門左衛門。

それにしても、金丸座で、あの密室のような小屋で、仄明かりだけの薄闇の中で繰り広げられる惨劇は凄まじかったです。
イッてしまった眼をしてお吉を追い詰めていく与兵衛。
その刃から必死に逃げまどうお吉。
二人の息づかいまで感じられ、お吉の恐怖がリアルに伝わって、まるでその場に居合わせているような緊張感。
「息をするのも忘れるくらい」というのはまさにあのこと。

前回観た「鯉つかみ」のように、派手な宙乗りやスッポンを使った演出もありませんでしたが、この油店の場も金丸座ならではの雰囲気をつくり上げていて、これを観るだけでも金丸座に来た甲斐あったと思うくらいです。

壱太郎くんのお吉は、「子を残して死んでいく無念」はいく分希薄のようにも感じましたが、所作が綺麗でちゃんと27歳の若奥様で、それでいてどこかスキがあって色っぽい「女」の部分を醸し出していました。

逮夜の場。
3年前は引っ立てられる時に自嘲ともとれる酷薄な薄笑いを見せていた与兵衛。
今回は、自分の所業をちゃんと悔いていて、一応は(笑)反省している感じ。
3年前と今回の違いはもちろん、私が観た2回でもまた違った表情を見せた与兵衛。
これからも染五郎さんが描き出す与兵衛を見続けていきたいと思いました。


逮夜の前、「北の新地の場」ではルテ銀の時と同様、片岡千壽さん扮するお茶屋の仲居お駒さんを伴って客席に笑顔を振りまき、いじりながら歩く与兵衛さん。
上手の花道から登場して、まさか金丸座のあの平均台のような横通路を渡るとは思っていなかったので、最初に観た時はテンション上がりました。

それがさらに。

2回め、つまり千穐楽の日はなーんと、私の列を横切ったではありませんか。
しかもすぐそばで止まって、例の、この人(お客様)と与兵衛とどっちが男前か、をやってくれました。至近距離でガン見よ目
周りのおばさま方があんまり触るので、「相撲取りやないんやから!」なんておっしゃっていた与兵衛さんですが、私の前通る時に手を出したらちゃんとロータッチしてくださいました。

千穐楽 第一部では開演前に挨拶された琴平町長。第二部ではここで、「お地蔵さんがおる」と与兵衛さんにひっぱり出されて花道でご挨拶なさっていました。

この場では二題ずつ謎かけを披露する与兵衛さん。
1日目:
・染五郎の女性の好みとかけて   うどんととく  
 そのココロは  どちらもめんくいでしょう
・うどんとかけて  お代官さまぁ どうかお許しを~ ととく 
 そのココロは どちらも手打ちでしょう

2日目:
・こんぴら歌舞伎千穐楽とかけて  宇宙飛行士ととく  
 そのココロは どちらも打ち上がるでしょう
・こんぴら歌舞伎の市川染五郎とかけて  伝書鳩(←最初、伝書箱と言って千壽さんにツッコまれてた)ととく  
 そのココロは  どちらも必ず帰ってくるでしょう (やんやの拍手ぴかぴか(新しい)

千穐楽の時は、「謎かけ、ようやってきたなぁ~」と千壽さんと顔見合わせておっしゃっていたので、毎日ネタを考えるのも大変だったのではないかしら。
その染五郎さん与兵衛を盛りたてる千壽さんお駒さんの間がすばらしくて息もぴったり。千壽さんといえば「大當り伏見の富くじ」の犬の小春ちゃんを思い出しますが、上方の役者さんをこうして引き立ててくださる染五郎さんの心意気がうれしい。

IMG_7513.jpgそういえばもうお一人、片岡松十郎さんも与兵衛に金を取り立てる綿屋小兵衛で目立っていましたが、私が松十郎さん(当時 松次郎さん)を認識したのも、2008年歌舞伎座の「竜馬がゆく 風雲篇」で三吉慎蔵役に抜擢された時だったなぁ、と思い出しました。
染五郎さん、本当にありがとう(・・と私がお礼言うのもヘンだけど)。


染ちゃんの頼もしさと美しさ満喫 のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1170 わーい(嬉しい顔) vs 1174 ふらふら)
posted by スキップ at 23:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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