2014年04月24日

四国こんぴら歌舞伎大芝居 第一部 「菅原伝授手習鑑」

30thkonpira.jpg市川染五郎さんが座頭で花形がズラリと並んだ今年のこんぴら歌舞伎。一部、二部とも金丸座では初めて上演される演目なのだとか。
「若い座組ですが、とにかく『毎日全部出しきってやろう』『この舞台をすごいものにしよう』と話しています」と染五郎さんが制作発表でおっしゃっていた通り、若さ迸る熱い舞台を見せてくれました。

第三十回記念 四国こんぴら歌舞伎大芝居 第一部
「菅原伝授手習鑑」    
加茂堤/車引/寺子屋
出演: 市川染五郎  尾上松也  中村壱太郎  
中村歌昇  中村米吉  片岡亀蔵  市川高麗蔵  
澤村宗之助  上村吉弥 ほか

2014年4月20日(日) 11:00am 金丸座 1階ろ2

  

「仮名手本忠臣蔵」 「義経千本桜」とともに三大狂言の一つと呼ばれる「菅原伝授手習鑑」ですが、実はちょっぴり苦手。見取りで何度か観たことがありますが、通しで観た経験はなく、「寺子屋」で意識が遠のいたニガい思い出もあり。
少し不安でしたが、金丸座マジックか役者さんたちのアツいお芝居のお陰か、最後まで集中力が途切れることなく、おもしろく拝見しました。


「加茂堤」
物語の発端となる「加茂堤」。
賀茂神社の神事を抜け出した17歳の斎世親王(廣太郎)と菅丞相の養女である16歳の刈屋姫(米吉)のデートを舎人の桜丸(松也)と妻の八重(壱太郎)夫婦が算段するお話。三つ子の末弟・桜丸はどこか中性的で華奢なイメージを持っていましたので、松也くん桜丸が出て来た時は「でかっ!」と思いましたが、やわらかな所作と毅然とした覚悟のバランスがよい塩梅でステキな桜丸でした。
車の中を改めようとする清行に、「知らぬと言ったら奈落の底から天まで知らぬっ!」ときっぱりと言い放つ大きさがよかったです。もちろん美しさは申し分ありません。

壱太郎くんの八重と並ぶと、とても現代的なビジュアル。ちょっとしたキスシーンあったり、歌舞伎も新しい時代に入ったなぁと感じました。それにしても二人の会話はかなり色っぽく際どい内容で聴いているこちらが赤面してしまいそうでした。
その壱太郎くんは、台詞よし、所作よしで花形の中ではやはり安定感バツグンです。八重が梅の枝を折って牛の頭をバンバン叩いたのにはちょっと笑っちゃいましたが。

美しいといえば米吉くんの狩屋姫。もう、超キュート(贔屓目)揺れるハート
赤姫は人生初とブログに書いていらっしゃいましたが、この拵えがとてもよくお似合い。パッと華が咲いたような、可憐で艶やかなお姫様でした。そりゃ斎世の君も夢中になってしまいますでしょうよ。


「車引」
梅の花が薫る吉田神社前で、梅王丸(歌昇)と桜丸(松也)が出逢ったところへ、二人にとっては敵方になる藤原時平(橘三郎)を乗せた牛車とともに、その舎人である松王丸(染五郎)が現れ・・・。

両花道から笠をつけたまま梅王丸と桜丸が登場。舞台正面でもしばらくそのまま話した後、同時に笠を取ると鮮やかな隈取、「歌舞伎だなぁ」と思いました。

特に印象的だったのは、歌昇くんの梅王丸。
正義感にあふれ、全力全開で噴火しそう。
元より口跡がよい上に力のこもった名調子の台詞、刀の柄頭が舞台につきそうなくらい低い姿勢で決まる元禄見得、引っ込みの飛び六方は弾むように力が漲り、花道の板を踏み割りそうな勢いでした。

染五郎さんの松王丸は、対する印象として少し抑え目な感じに映ります。
が、大きさも華やかさもあり、 2 vs 1 で堂々渡り合える松王でした。

筋隈の梅王丸、むきみ隈の桜丸、そして二本隈の松王丸、それぞれにちなんだ柄の極彩色の綿入れを着て、三人並んで見得をキメる姿は錦絵のように美しく、花形ならではの華やかさ。


「寺子屋」
菅丞相の忠臣武部源蔵(松也)は寺子屋を営みながら菅丞相の子・菅秀才をかくまっていましたが、敵方に居所をつきとめられ、首を討てと迫られます。窮地に立った源蔵は、その日に寺入りしたばかりの小太郎の首を菅秀才の身替りとして差し出します。その首実検をするのは松王丸(染五郎)でした・・・。

この演目を苦手と感じる原因は実はこの幕で、「伽蘿先代萩」にしても「熊谷陣屋」にしても、親が忠義のためにわが子を犠牲にして・・というのに抵抗を覚えたりもする訳です。
ましてあの世界観を花形で、と少なからず不安を覚えたのですが・・・。

すばらしかったです。
もちろん数々の名舞台を生み出してきた演目ですので、花形世代では足りない部分や描ききれていない世界もあるとは思うのですが、それそれが役に真摯に取り組み、とても見応えのある幕になっていました。

「持つべきものは子でござる」という松王丸の絞り出すような叫びに思わず落涙たらーっ(汗)

実はこの演目を観て泣いたのは初めて。
「寺子屋」のテーマが、決して忠義のすすめではなく、忠義のために子供すら犠牲にしなければならなかった封建社会や権力への怒り、そのために自分の子でさえ手にかけなければならない悲しみなのだということを、改めて思い知りました。

染五郎さんの松王丸、よかったです。
自分の心を現わさずクールな敵役に徹した首実検の前半と、子の親として、子の母の夫として在る後半との落差が鮮やかで、それだけに一層、悲しみが胸に迫りました。嘆く千代を叱る松王が本当に苦しそうで。
染五郎さん、このお役は吉右衛門さんに習ったとお聞きしましたが、声や表情、時々驚くほど幸四郎さんに似ていると感じる場面がありました。

松也くんの源蔵がまたよくて。
松也くん、この公演は昼夜三役ともクリーンヒットでした。
源蔵はさすがに若くて、菅秀才を守ること一途で悩み抜いてというよりスパッと小太郎の命を奪ってしまうようなところがありますが、松王夫婦の心情を知り、そこに心を寄せ、ともに涙する様がとても温かい源蔵でした。

その松也くんと昼夜三役とも夫婦役の壱太郎くんの戸浪も、若さに似合わず落ち着きがあってしっかり者の風情。
同じ女として千代に向ける眼差しがやさしく切なかったです。
高麗蔵さんの千代はこのメンバーの中だとちょっと年上に見えてしまいますが、武家の妻としての矜持は崩さない中で母としての哀しみを見せてくれました。松王に「泣くな」と言われてなお涙が止まらない千代の切なさ。
吉弥さんの御台園生の前が短い出ながら格を感じさせて、場面をピシリと締めていました。

門火も焼香もホンモノの火を使っていて、あの空間に流れるお香の香りが、首のない小太郎の野辺の送りと重なって、何とも悲しみを増幅させました。


この悲劇に先立つ寺子屋の場面。
子を思う親の情も描いて、楽しさが次の悲劇を際立たせています。
涎くりは宗之助さん。ちょっとおとなし目でしたが、さすがに達者でした。
花道で「灸まん買うてくれないやや」という台詞聴いて、帰りに灸まん買っちゃったよ(笑)。


大作狂言に、若い役者さんたちが役に臆することなく想像以上のがんばりを見せ、それを牽引する染五郎さんが一層大きく頼もしく感じられた公演。
よい舞台でした。


kanamaruza.jpg開演前に町長さんのご挨拶や金丸座についての説明があったのですが、天井の提灯「真ん中に市川染五郎さんの紋・・」と言われて見上げると、確かに染五郎さんの定紋・三つ銀杏や替紋の四つ花菱が入った提灯も。壱太郎くんの「壱」の紋もあります。

「あの提灯って、出演する役者さんごとに変えてるんだひらめき」と3回目にして知った次第。人生いつまでも勉強だな。



「菅原伝授手習鑑」 通しでも観てみたくなりました のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1169 わーい(嬉しい顔) vs 1174 ふらふら)
posted by スキップ at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
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