2014年03月24日

神々はわれらが胸のうちに 「神なき国の騎士 」

kaminaki.jpg会場に入ると舞台いっぱいのスクリーンにセルバンテス作「ドン・キホーテ」の有名な挿絵。
下の方に El ingenioso hidalgo Don Quijote de La Mancha と書いてあるのを見つけて「ラ・マンチャ」の文字に反応、あの物語がどんなふうに?と期待も高まりました。
が、これは私が知ってるドン・キホーテの物語とは違っていたようです。

「神なき国の騎士 ―あるいは、何がドン・キホーテにそうさせたのか?」
作: 川村毅
演出: 野村萬斎
出演:  野村萬斎  馬渕英俚可  木村了  深谷美歩  
谷川昭一朗  村木仁  中村まこと/大駱駝艦

2014年3月21日(金) 12:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階A列センター


物語: ドン・キホーテ(萬斎)はサンチョ・パンサ(中村まこと)を従え、醜悪な巨人と思い込んだ風車に戦いを挑むものの吹き飛ばされ、現代日本の歓楽街に迷い込みます。やがて彼はデモ運動の英雄に祭り上げられ、大統領にまで選ばれますが、やがて失脚し留置場送りに。さらにそこから逃げた先の町は・・・。

ドン・キホーテが現代の日本に迷い込んだら・・というお話かと思いきや(名前を名乗ったドン・キホーテに、風俗嬢(馬渕英俚可)が「どこのドンキ?」と聞くあたりなどは軽快)、物語は後半、くるりと違う顔を見せます。

ここからは私の“気づき”の物語。
あくまでも私が感じたことなので、誤解があるかもしれませんが。ドン・キホーテとサンチョが逃げ込んだ場所は、廃墟のような町で、他人の家に盗みに入って食料を漁っている輩がいます。
その廃屋には先にサンチョがいて、食料のありかなどを教えてやったりしています。
そのサンチョとキホーテの会話に「俺たちのご主人様」という言葉が出てきて、やっと気づく。
「キホーテとサンチョじゃなく、あの時逃したキホーテの愛馬・ロシナンテとロバなんだ」と。
そうすると、今度はこの二人と会話している“人”たちが人間ではないことに気づく。
その廃墟のような場所に取り残された動物たち・・・多分、牛と豚と猫だと。
そこに現れる「ここから世界の終わり」という柵。柵の中の彼らに向けられる殺戮の銃。
ああ、そうだったのか。
ふと思い当たる。
大統領となったキホーテが、まず第一にやろうとしたこと・・・「自分の思った時に、国から光をしばらく取り上げることにする」-あれは計画停電のことだったのか、と。

この作品は萬斎さんが川村毅さんに依頼して書いていただいた戯曲でつまり書き下ろし。
光のない暗闇の世界。遠くに海が見え、巨人のような風車がそびえ立っている町。
東京での公演期間が3年目の3月11日を挟んでいたのは「もちろん偶然ではない」という記述もどこかで見かけましたが、反原発を描くのにドン・キホーテでなければならない必然性は伝わり難かったかなぁ。

私は初めて拝見したのですが、麿赤兒さん率いる舞踏集団・大駱駝艦のメンバー8人が、全身白塗りのほぼ裸体の身体表現で、ある時は巨大な風車、またある時は木々、立入禁止の柵となりデモ隊となり、そして、まるで顔を持たないような民衆となる演出は刺激的でおもしろかったです。
ジャングルジムに象徴されるシンプルな舞台装置(美術:松井るみ)も印象的でした。
ベートーヴェンの「月光」のメロディでトリ(深谷美歩)が歌う哀しげな歌と、その透きとおった声も印象的でしたが、「月光」といえば高橋大輔くんのスケーティングが頭に浮かぶくらいにはフィギュア脳な私を自覚。

野村萬斎さんは相変わらず口跡よく台詞はとても聴きとりやすい。
ちょっと浮世ばなれした雰囲気が、信念と狂気の狭間を行くドン・キホーテによくハマっていました。

ドン・キホーテの狂気について考えてみる。
狂気とは、何かを揺るぎなく信じる心なのかもしれない、と。
自分の信念のままに迷うことなく行動するドン・キホーテは、迷いがあったり、目に見えないものしか信じることができない普通の人間には理解できなくて、それを「狂気」という言葉で囲ってしまうのかもしれない、と。
最後にドン・キホーテが放つ、
「この世に神はいない。だが、神々はわれらが胸のうちにある」
という言葉は、ドン・キホーテのように自分の道を信じて巨大なものにも戦いを挑み続ける者の心の中にのみ神はいると私たちに教えてくれているのと同時に、ドン・キホーテにただ「狂人」のレッテルを貼り、背を向けたままでいいのかと、問いかけているようにも聞こえました。


できれば今度は萬斎さんで正統派ドン・キホーテが観てみたい の地獄度 (total 1151 わーい(嬉しい顔) vs 1159 ふらふら)
posted by スキップ at 23:18| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なかなか手強い舞台でした! あの、ロシナンテとロバのところは特に。でも、いろいろ私なりにガッテンした時(ほんとに分かったかはあやしいけど)、不意打ちをくらったように心がザワザワしたのでした。
この「神なき国~」を見たすぐあとに、おなじ川村さん作・演出の「荒野のリア」を見ました。こちらも骨太でしたが、「わかりやすいものだけ」じゃなくて、わかろうとする、そこから考える、ということも大事だし、けっこう好きかも、と思ったのでした。
いろんな舞台に出会えるのは、幸せですね。
Posted by きびだんご at 2014年03月30日 20:59
♪きびだんごさま

いや~、手強かったです。
でも私もこの作品、嫌いではありません。
自分でも理解しきれたかどうか自信はありませんが。
おっしゃる通り、わかりやすい、とっつきやすいものばかりではなく
自分の想像力や思考する能力をかき立てられる作品に向き合うことも
演劇の醍醐味の一つだと思います。

「荒野のリア」にも興味あったのですが、さすがにそれを観に
遠征とまではいかなくて(笑)。
Posted by スキップ at 2014年03月30日 23:46
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック