カーテンコール。
松たかちゃん、大きなチューバを吹きながら後に続く大東駿介くん以下ラッパ隊引き連れて、歌いながら客席を練り歩き、ステージに戻っては串田さんに促されてロックスターみたいに脚を前後に広げてジャンプして、ダンって降りてキメてみせた。
途中、う~ん?と思うところもあったけど、このカテコの楽しさですべて吹っ飛びました。
Bunkamura25周年記念 「もっと泣いてよフラッパー」
作・演出・美術・衣裳: 串田和美
作曲: 越部信義 八幡茂 乾裕樹
音楽監督・編曲: ダージリン (佐橋佳幸/Dr. kyOn)
出演: 松たか子 松尾スズキ 秋山菜津子 りょう
大東駿介 鈴木蘭々 太田緑ロランス 大森博史
真那胡敬二 串田和美 片岡亀蔵 石丸幹二
ミュージシャン: 佐橋佳幸(Gt) Dr.kyOn(Pf) 黒川修 (B) 木村おうじ純士 (Drs) 黄啓傑 (Tp) 花島英三郎 (Tb)
2014年3月15日(土) 1:00pm シアターBRAVA! 1階F列センター
1977年に初演されたオンシアター自由劇場代表作の一つ。
同じく代表作の「上海バンスキング」は大好きで何度も観たのにこの作品は初見。
精神的にも物理的にもこどもだったから、ムラがあったのね、あの頃のスキップ(笑)。
舞台は1920年、禁酒法時代のシカゴ(という架空の街)。絵空事のWindy City。
ギャング団の抗争が続くこの街で繰り広げられる物語。
夢を抱いて田舎から出てきた踊り子ジル(松たか子)と八百長試合を生業とするボクサー・チャーリー(大東駿介)。
シカゴタイムスの新聞記者(石丸幹二)の婚約者フラポー(鈴木蘭々)と彼女に想いを寄せるギャングのボス・アスピリン(松尾スズキ)。
Club LA LIBERTEのスター・お天気サラ(秋山菜津子)と彼女にひと目惚れしたコミ帝国の皇太子(片岡亀蔵)。
男に騙されてばかりいる踊り子・青い煙のキリー(りょう)と彼女につきまとう人の良い不器用なギャング・オニオン(大森博史)。
こんな人たちの物語が、ジャズの生演奏と歌とダンスで綴られます。
時に不思議なネズミたちの世界や人形の物語も織り交ぜながら。
退廃的で享楽的で華やかで、そして切なくほろ苦い大人の音楽劇。色彩にあふれ華やかなクラブのショー、猥雑で雑多なバックステージ。
踊り子たちは、毎日華やかに着飾って、酒を飲み、楽しそうに歌い踊っているけれど、ステージを降りると切ない人生を背負っていて、いつもほんの少しボタンをかけ違えて、手にしたと思った幸せはスルリと彼女たちの手からこぼれ落ちていきます。
そんな切なさや悲しみを抱えながら、だけど今日もまた舞台に立って、笑顔で歌って、踊ります。
その姿は、しなやかで強く、たくましい。
♪もっと泣いてよフラッパー と歌いながら、肩を寄せ合いスウィングしながら、背筋を伸ばしてホリゾントへ向かって歩いていく彼女たちの後ろ姿を見ながら、何だかカラリと明るい気分になりました。
物語のところどころにネズミや人形の世界が挟み込まれて、自分的に切り替えが大変かなぁ、と感じるところがあったのですが、その中で断片的に好きな場面が。
●ホリゾントの奥をステージに見立て、そこでライトに照らされて踊るサラをこちら側(舞台袖)から見つめる皇太子がシルエットで浮かぶシーン。ステキな構図だったな。
●ギャングのボス・アスピリンが恋した真面目な女のJ子フラボー、その恋が実った瞬間に永遠の別れが訪れるシーン。切なくて印象的でした。
●ホテルの部屋で、ジルがシーツをドレスのようにまとってフワリと歩いて、「何だかいいんだけど」とチャーリーに見せようと呼ぶシーン。あのジルの得意気な顔とちょっと不安気な声。
あの時、チャーリーがもう帰って来ないんじゃないかって、不安になったな。その不安はもっと後で的中することになるのだけど。
●最後にまるで祝祭のように、かつてその街にいた人々が次々笑顔で現れるシーン。アスピリンは笑い、チャーリーはシャドーボクシングやっていて、床屋のチャンさんもあの大きな犬とともにいて・・・涙出そうでした。
「眠らない男 ナポレオン」の回想シーン思い出しちゃった。
ジルを演じた松たか子さんは美しくて華やか。お芝居はもちろん、のびやかな声のボーカルも圧倒的な存在感。
田舎から出てきて、危険を避けるためにダボダボの男物のスーツを着ている(・・というより着られている感じ)ような子が、都会を知って、恋をして、切なさも苦さも味わって、生きていく覚悟とか強さが感じられるようになる変化がくっきり見えて、上手いなぁと思いました。
まだ男装している若い頃のジルは、可愛くつくった声に、ちょっとたどたどしいというか、うまく表現できないのですが、棒読みチックな話し方。不思議ちゃんという感じ。物語自体が不思議ワールドではあるのですが。
それがクラブのショーで堂々とセンターを張る輝くばかりのスターになって。
ただ、あの最後の場面は、女のたくましさというか、強さの方が際立ったかなぁ。
クラブで「誰かタバコ、タバコちょうだい」と、もらったタバコをくわえ、差し出されたライターに、「火はいいの」と、チャーリーが遺したライターで火をつけるシーン。
ほんとはすごく切なくて儚げで泣けるシーンなのじゃないかなと思うのです。
これは好みの問題かもしれませんが、松さんのジルは何だかもうふっきれていて、「男なんていなくても一人で生きていけるわ」みたいな、たくましい生命力の方が勝っていて、「そうそう、あんなダメ男と駆け落ちしなくてよかったよ」とでも言いたくなるような印象。
ここ、オリジナルキャストの吉田日出子さんのジルを観てみたいと思いました。
まぁそれを言えば、クラブの踊り子さんたちは、みんな一人でたくましく生きていけそうな人たちだったかな。中でも秋山菜津子さんサラの大人のオンナ感は際立っていました。
ジルの恋のお相手 八百長ボクサーのクリンチ・チャーリーは大東駿介くん。
大東くんを舞台で拝見するのは「港町純情オセロ」以来ですが、あの時も今回も、よかったです。特訓したというチューバもがんばってました。もっと用いられていい役者さんなのではないかしら。
ホテルで過去のトラウマと、だけど八百長でも「ボクシングをしている方がマシ」とジルに告白するシーン、好きでした。その後の彼に訪れる結末は、多分そうなるんだろうなという通りの切ないドラマになるのだけど。
このシーン、初めてチャーリーの裸を見た松たかちゃんジルが、「すごい筋肉!きもちわる~い」って言ったのには笑っちゃった
大東くんといえば一時松坂桃李くんに似てると言われて二人でCMに出てたりもしましたが、今回の舞台では小栗旬くんに似てる印象でした。
次回作はその小栗旬くんと共演の舞台「カッコーの巣の上で」。楽しみです。
松尾スズキさんのアスピリンも好きでした。
あんなふうにヘラヘラした弱そうな感じの人が実は一番冷酷で力を持ったボス、という設定はわりとよくありますが、その凄味を感じさせるのはさすがです。
笑いながら犬を殺すような男が普通の若い女の子に恋して、ちょっと悲哀すら感じる中年男になっちゃうところもよかったな。
市川亀蔵さんの、いかにも他の役者さんたちと肌合いが違う感じが、異国の皇太子という役にぴったりで、その最期も切なくて印象的でした。
あと驚いたのは真那胡敬二さん。
オンシアターの役者さんで串田さんのお芝居の常連さんですが、床屋のチャンさんとサラのお兄さんが同一人物だったなんて、不覚にも最後まで気づきませんでした。
舞台奥に2階建ての櫓があって、上段には松たかちゃんの旦那サマ・佐橋佳幸さんはじめプロのミュージシャンによる贅沢な生演奏。
下段では役者さんたちが役の衣装を着たまま、物語ではいなくなったり死んじゃったりした人たちも楽器を手に演奏するビッグバンド。
カーテンコールの高揚含めて、祝祭劇の趣きでした。
♪もっと泣いてよフラッパァ~ が頭の中をグルグル のごくらく地獄度 (total 1149 vs 1155 )
2014年03月19日
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください
この記事へのトラックバック