2014年02月17日

そのつばさは双翼 「翼ある人びと」

tsubasa.jpg謝肉祭の夜。
クララが薦めるルイーゼとの結婚話を断るヨハネス。
「わかりました」と立ち去ろうとするクララ。
高まる音楽。
「なぜか理由を聞かないんですか? 僕は・・・あなたを愛しているから!」と叫ぶヨハネス。
まさにその刹那、片翼だけを広げるようにして橋から身を投げるロベルト。
そこに降りてくる幕。

一幕終わりのこの場面、息が止まるかと思いました。


宝塚歌劇 宙組公演
「翼ある人びと ―ブラームスとクララ・シューマン―」
作・演出: 上田 久美子
出演: 朝夏まなと   緒月遠麻  伶美うらら  純矢ちとせ  澄輝さやと  すみれ乃麗  
凛城きら   愛月ひかる   春瀬央季 ほか

2014年2月9日(日) 12:00pm シアター・ドラマシティ 2列上手 
   

若き日のヨハネス・ブラームス(朝夏まなと)を主人公に、彼の才能を見出したロベルト・シューマン(緒月遠麻)、その妻で有名ピアニストのクララ(伶美うらら)、3人の出会いと別れの物語。
ある秋の日、デュッセルドルフに住むシューマン夫妻のもとに、ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒム(澄輝さやと)の紹介状を持った一人の貧しい青年が訪ねて来ます。酒場でピアノ弾きをしていたというその青年 ヨハネス・ブラームスの才能をひと目で見抜いたシューマンは彼を自宅に住まわせ、弟のように息子のように、温かく見守りながら指導し、世に出そうとします。ブラームスもまた、シューマンを尊敬してついて行きますが、やがて彼は美しいクララに心惹かれてゆきます。それを時を前後して、ロベルトには深刻な病が・・・。


プロローグ。
オレンジ色の秋の夕景の中で踊るブラームスとロベルトとクララ。
ブラームスの後ろにクララが立ち、白い手袋をした腕と肘で羽根を作って翼を与えるような振り。その時のブラームスの穏やかで幸せそうな表情。
ここで一気に物語に引き込まれて、あぁ、この舞台好きだなぁ、と思いました。

「ハンガリー舞曲」「子守唄」といったブラームスの曲やシューマンの曲はもちろん、、物語に登場するリストやワーグナーやベートーヴェンといった音楽家たちの曲も劇中でふんだんに使われています。ショパンのワルツも素敵だったな。
主題歌はブラームスの交響曲第3番第3楽章。この美しくも叙情的なメロディに切ない歌詞が乗せられて、聴いていると涙がこぼれそう。ブラームスと、彼の才能を世に出そうとするシューマン夫妻の3人を軸に、実在の音楽家たちも登場させて当時の音楽界を取り巻く事情も描きつつ、史実をふまえながら恋模様やそれぞれの人物の心の揺れ動きを切なく品よく織り込まれた脚本がとてもよかったです。
上田久美子先生、デビュー作の「月雲の皇子」もとても好評だったとお聞きしていますが、連続クリーンヒットです。

そしてそれを演じるキャストがいずれもイメージぴったりの好演。
特に、ロベルト・シューマンを演じた緒月遠麻さん、すばらしかったです。
シューマンの、すべてを包み込むようなやさしさ、温かさ、自分の才能の限界を知った時の焦燥、一転して病魔のために自分で自分をコントロールできなくなって陥る狂気。
ヨハネスとともに散歩から帰ってきたクララを、彼の目の前で抱きしめ、キスし、「離れていかないでほしい。君が必要なんだ」と言ったくらいクララを愛していたロベルト。
そのロベルトが死の床で、「クララを愛しているのかい?」とヨハネスに静かに問う場面。
答える代わりに、ロベルトに背を向け、「お怒りに、ならないのですか」と言うヨハネス。
涙を流すヨハネスに、「泣くな、ヨハネス。顔をあげなさい」「「ぼくは、君と君の音楽を愛している」とたらーっ(汗)

そこに駆けつけて何も言わずロベルトに抱きつき、首元に顔をうずめて涙を流すクララは伶美うららさん。
落ち着いた大人の女性。品があって美しい立ち姿。特に横顔の美しさは特筆ものです。演技も申し分なく、緒月さんとも朝夏さんともバランスよくて。これで歌唱力が加われば、間違いなく95期3人目のトップ娘役誕生だと思います。

安酒場でヨハネスを見出し、それからも何かと見守る、いいかげんそうだけど実はスゴ腕のヴァイオリニスト ヨーゼフ・ヨアヒム 澄輝さやと、華やかでエキセントリックでちょっぴりブラック、だけど最後にはいい人のフランツ・リスト 愛月ひかる、抜擢なのかな?端正な美しさ際立つリヒャルト・ワーグナー  春瀬央季、そして、何だかわからないけど台詞の勢いすごくて存在感際立つベートーヴェン?の凛城きら とまわりもキラ星ぴかぴか(新しい)中日劇場組と二手に分かれてなおこの充実ぶり。宙組すごい。

そして、朝夏まなとさん。
ちょっと硬質な雰囲気がこの役によく合っていて、頑なだった心がシューマン夫妻の広い心と音楽で溶かされ、それがやがて恩師の妻に心を寄せてしまうという苦悩もよく表れていました。
憂いを含んできらきら輝く瞳、長い手足。ビジュアル完璧ですね。ダンスも綺麗だったな。

ロベルトの死後、実家のあるベルリンへ帰るクララとウィーンで音楽を目指すヨハネス。
最後にもう一度だけ、「一緒にウィーンに来ませんか?」とクララに告げるヨハネス。
「あなたは前を見て行きなさい」というクララの言葉通り、振り返りもせず、背筋を伸ばし、まっすく前を見据えて客席通路を歩いて行くヨハネスの凛とした美しさ。
その背中にはきっと、ロベルトとクララが与えてくれたふたつの翼が羽ばたいていたのだろうな。
「あなたたちがくれた翼で飛ぶ空は、果てしなく広くて、淋しくて、哀しいくらい美しいです」たらーっ(汗)

クララ・シューマンというと、宝塚の娘役・遥くららさんの芸名の由来が「遥かかなたの道を目指すクララ・シューマン」だったことをいつも思い出しますが、この作品で前を見据えて遥かかなたの道を目指したのは誰あろうヨハネス・ブラームスその人でした。


物語は年老いた女性が亡くなった人の遺品を整理している場面から始まるのですが、最後にもう一度その場面が登場して、その部屋が生涯独身を貫いたブラームスの部屋だとわかって、その老女は昔彼を慕っていたルイーゼ(すみれ乃麗)で、「クララが生きていたらしたと思うことをしたのよ」とつぶやくのを聴いてまたブワッと涙がたらーっ(汗)


位置情報シューマンが見せてくれたベートーベンの直筆のスコアに目を輝かせて大興奮するヨハネス。
 落書きしようとする子どもたちに、「これに落書きしたらダメだ。子供はあっちいけ!」「ヨハネスだって子供だろ~」「僕は大人だ」というカワイイやり取りの後、シューマンとヨハネスが前で芝居する後ろで子どもたちがスコアをぐちゃぐちゃにして落書きもしているのが気になって気になって前の2人の台詞に集中できなくてコマッタ



副題は「ブラームスとロベルトとクララ・シューマン」でいかが? のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1136 わーい(嬉しい顔) vs 1143 ふらふら)
posted by スキップ at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | TAKARAZUKA | 更新情報をチェックする
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