2014年02月04日
飛び散る涙 「眠らない男 ナポレオン」
退位宣言に署名する翼なき荒鷲・ナポレオン。
翼を失ってもなお皇帝としての矜持を失わず、「今、祖国のために私はここを去る。だが、諸君はフランスのために仕えてくれ。さらば 愛しいわが子らよ」と兵士たちに語りかける瞳にみるみる涙があふれライトに輝く。
♪我らがナポレオン 革命の守護神 フランスの英雄・・・敬礼した兵士たちの歌に送られ、意を決したように凛と右を向いた瞬間、ナポレオンの瞳からその涙が粒となって銀橋に飛び散ったのが見えました。
宝塚歌劇 星組公演
ル・スペクタクル・ミュージカル 「眠らない男 ナポレオン ―愛と栄光の涯に―」
L’Homme sans sommeil: Napoleon ~Au-dela de l’Amour et de la Gloire
作・演出: 小池 修一郎
作曲; ジェラール・プレスギュルヴィック
出演: 柚希礼音 夢咲ねね 紅ゆずる 真風涼帆 礼真琴 美穂圭子 北翔海莉 ほか
2014年2月1日(土) 3:00pm 宝塚大劇場 2階12列センター/
2月2日(日) 3:00pm 1階10列センター
昨日大劇場で千秋楽を迎えた星組公演。
観れば観るほどハマってしまって、今も♪嵐のように 生きた男~ とか ♪僕は眠らない~ とか ♪ナポリオーネ・ブォナパルテ おかしな名前だぜ とか ♪ジョセフィーヌ ジョセフィーヌ とか ♪生きる 女王になる~ とか ♪君のうなじが 月明かり浴びて~ とか ♪もしあなたが 父に会えたら とかが頭の中をぐるぐる回っています。
重厚な歴史物と思っていたのに、全編に漂うこの切なさはどうしたことだ、という感じ。切なさその1: ナポレオンとジョセフィーヌ
ジョセフィーヌが人間的に成長して、本当に愛しているのはナポレオンだと自覚するにつれて不幸になっていくのが切ない。
ナポレオンが再婚してナポレオンⅡ世が誕生した喜びに湧く洗礼式のこちら側でひとり、「後悔なんてしない このために身を引いた 私の愛は報われた」と涙を流して歌うジョセフォイーヌにナミダ
(ここ、「ジョセフィーヌは、本当に私の誕生を喜んでくれたでしょうか?」とグランマルモンに聞く天寿さんナポレオンⅡ世の表情もとてもよかった。)
裏切られても苦しめられても、家族中に反対されても、愛することをやめられなかった人を、帝国を守るために見捨ててしまったナポレオン。
そしてすべてを失った時、「王冠よりも価値のある人と悟った時は 君ははるかに」と気づくナポレオンが切ない。
自分の本当の気持ちに気づくのが遅れたジョセフィーヌ、何よりも大切なものに気づくのが遅かったナポレオン。
少しずつ遅すぎてすれ違った二人。
かつてナポレオンが「ジョセフィーヌ ジョセフィーヌ 抱きしめたい この腕で」と歌った同じメロディで、「ナポレオン ナポレオン あんなに あなたに愛されてた」と歌うジョセフィーヌと、遠くエジプトでジョセフィーヌを思って歌うナポレオンが銀橋に並ぶシーンも好きでした。
その雰囲気、美しさ、切なさを含めて、ちえねね完成形を見せられた感じ。
円熟期のちえねねだからこそできた配役だと思います。
切なさその2: ナポレオンとマルモン
前回の感想にも書いたのですが、士官学校時代の雪合戦の後の二人の会話がやはりその後の二人を暗示していて、今回は一幕目からウルウル。
「最後の最後まで戦い抜く」と言うナポレオンに「もし負けるとわかったら?」と聞くマルモンに「そう思った時が負けだ」とナポレオン。それに対して、「もし負けるとわかったら逃げるかも」と応じたマルモン。「お前ならな」と笑うナポレオン。
この時の会話が、何年も経ってあんな形で二人を分かつことになると思うと切ない。
下級貴族の出身ながら能力と正義感にあふれ、皇帝にまで登りつめた後、独裁者として国を追われることになったナポレオン。
弱虫で要領も悪かったけれどナポリオーネ先輩を心から慕い尊敬し、やがて袂を分かって「皇帝を裏切った者」として歴史に名を残すことになるマルモン。
パリを離れ国境を守り、最後の最後まで戦い抜こうとした皇帝ナポレオン。
負けるとわかった戦いを放棄してパリを開門したマルモン。
「敵を目の前にして逃げたのか?」と問うナポレオンに、「ええ、大勢を救うためです」と答えるマルモン。「お前らしいな」と微かに笑みをもらすナポレオン。
あの雪合戦の日と同じ。
最後の回想シーンで、ナポレオンの心に浮かぶ様々な場面、たくさんの人たちの最後に登場し、楽しそうに笑って雪をまるめて投げるマルモンにナミダ
年老いたマルモンがナポレオンⅡ世に、ナポレオンの生涯を語って聞かせる形で進む物語。
プロローグ。グランマルモン(英真なおき)が、♪人はみな語るだろう 思い出のかけら拾い~ と歌い出す後ろから若き日のマルモン(紅ゆずる)が登場して ♪革命を終わらせた英雄~ と歌い継ぐ流れが秀逸だなぁ、と改めて。
切なさその3: ナポレオンと柚希礼音
凋落の「嵐のように生きた男」リプライズで ♪戦うことを止められず〜 という歌詞に心が激しく反応してダダ泣き
ストーリーを知った後に観た2回目以降は、プロローグの「アルプスの山を越え 海を渡りエジプトへ 雪積もるロシア彷徨った」という部分もかなりグッときます。
そして、戦い続けなければならなかったナポレオンの孤高ともいえる生涯と、トップとして大きなプレッシャーと闘いながら常に真ん中に立って光を放ち続ける柚希さんの姿が重なります。
何だか最後の方はさよなら公演のような気さえしてきました。
今からこんなんで本当のさよなら公演の時はどーすんだという感じですが。
柚希さんは一幕と二幕ではメイクを変えていらっしゃらないそうですが、眼光の鋭さや表情など明らかに違っていて、上昇志向の強い明るく正義感にあふれた若者が、権力を手にし、神をも恐れぬ傲慢さを見せるようになる姿を余すところなく表現していました。
それに、何と言ってもカッコいいしね(笑)。
フィナーレのデュエダンで、柚希さんがねねちゃんの手を握って中心になってねねちゃんを回す時(観ていない人は何のことだかわからないと思うが(^^;;)のねねちゃんを見つめる柚希さんのワイルドな表情が大好き
前回書けなかった個々の感想追記:
北翔海莉さんのタレーランがすばらしい。
いやこれ、前回にも書いたのですが、歌とかダンスとかの実力もさることながら、タレーランの存在こそがこの物語になくてはならないものと思わせています。
フィクサー的な抑えた雰囲気。あのいかにも「含んでます」といった趣の黒い笑顔。絶品です。
「メリー・ウイドウ」の公演があったため遅れて稽古に入り、わずか12日間でこの役を完成させた北翔さんの力量に改めて感嘆。
タレーラン・フーシェ(美稀千種)・シェイエス(美城れん)のおじさまトリオ(失礼!)は歌もお芝居もよかったな。
北翔さんが参加できない間、その代役を務めたという天寿光希さんのナポレオンⅡ世。
品よく美しく、生真面目で利発で、父の真実を本当に知りたいという気持ちも現れていて、とてもよかったです。
台詞もとても聞き取りやすいし歌はもちろん上手だし。
最後のグランマルモンの ♪もしもあなたが 陛下に会えたら を涙を流して聴いていた姿が心に残ります。
もう一人、雪合戦で上級生にいじめられていた泣き虫のブリエンヌこと壱城あずさ。
長じてからはいつもナポレオンの傍らにいる有能そうな秘書官で、その佇まいの美しさがとても印象に残りました。
静かで控え目な秘書官が、ひとたびフィナーレのダンスとなるや、あんなにキザってカッコいいオ・ト・コになるんだから、ヤラレます。
2/1はANA貸切公演。
柚希さん 終演後のご挨拶で「皆様ANAを利用して東京公演に何度でもお越しください」とおっしゃっていましたが、肝心のチケット完売でないじゃんねぇ
まだ観たかったなぁ、DVD出るの4月だし、東京もやっぱりチケット取っておけばよかあったなぁ~と後悔することしきり。
・・・と書きたいことはつきませんが、私のナポレオン、これにてひとまず幕でございます。
生きた 愛した 皇后になった あの人は いつか 蘇る 必ず のごくらく度 (total 1132 vs 1140 )
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