2014年01月15日

とても人形ワザとは思えない 文楽初春公演 「阿古屋」

201401bunraku.jpg今の歌舞伎界で演じることができるのは坂東玉三郎さんただ一人と言われている「阿古屋」
その格の高さは元より、一人で琴・三味線・胡弓を演奏しなければならない大役で、これを文楽で、ってどんなふうになるんだろうと、以前からとても観たいと思っていた演目です。

文楽初春公演 第二部
「壇浦兜軍記 阿古屋琴責の段」

出演: <大夫> 阿古屋/竹本津駒大夫  秩父庄司重忠/竹本千歳大夫   岩永左衛門/ 豊竹咲甫大夫  榛沢六郎 /豊竹芳穂大夫  ほか
<三味線> 鶴澤寛治  鶴澤清志郎  三曲/鶴澤寛太郎
<人形> 遊君阿古屋/桐竹勘十郎  秩父庄司重忠/吉田玉也  岩永左衛門/吉田玉輝  榛沢六郎/吉田清五郎 ほか

2014年1月11日(土) 4:00pm 国立文楽劇場 1列センター



お話は、源頼朝暗殺を企てた平家の武将・平景清の行方を聞き出すべく詮議されることになった恋人の遊女 阿古屋。知らぬ存ぜぬ、拷問もすればよいと言い放つ阿古屋に、源氏の知将・畠山重忠は琴、三味線、胡弓を弾くよう命じ、その澄み切った音色に阿古屋の言葉に嘘はないと判断するというもの。

見どころは、まぁ、阿古屋が順に楽器を弾いていく、というだけの話ではあるのですが、これが素晴らしすぎて震えました。

絢爛豪華な衣装を纏った阿古屋が下手からゆっくり登場した時、場内の空気が変わったように感じました。
細かいところまで手のこんだ華やかな衣装もさることながら、最上級の遊女としての格や品、場を圧するような存在感で、使い古された言葉でいえばまさにオーラ全開。
そしてこの阿古屋がひとたび楽器を弾き始めると、お人形が実は生きていて、本当に演奏しているように見えるのです。お人形だから表情はないはずなのに、その表徴さえ変化しているようにも見えて。
そしてその阿古屋の手や体の動きと、床で演奏される曲とがピタリと合っていて、本当に人間ワザ・人形ワザとは思えません。
まさに三業一体、文楽を観る、聴く、醍醐味と幸せを感じられる演目です。阿古屋の主遣いは桐竹勘十郎さん。
愛する人を思う女の強さを華やかで優美な遊君の姿に重ねてお見事。
普段は左遣いや足遣いは黒衣と頭巾をつけていますが、阿古屋では三人とも出遣い。
凛とした佇まいの左遣いの一輔さん、普段見えない動きまで見える足遣いの勘次郎さん。眼福です。

琴、三味線、胡弓を床で奏でているのは鶴澤寛太郎さん。
聞けば、共に床に座す人間国宝・鶴沢寛治さんのお孫さんだとか。
一人で三種類の楽器を見事に演奏するマルチプレイヤーぶりにも私舌を巻きますが、その寛太郎さんの演奏の細かい動きがそのまま人形の動きと完璧に重なっていて、勘十郎さんの至芸に見とれるばかりです。
しかも楽器の演奏ばかりでなく、首を傾けたり、目を閉じたりして、景清を思って弾いている様子がありありと感じられる表情。これも勘十郎さんのなせるワザ。
阿古屋は琴を演奏する時は「琴手」、三味線を演奏する時にはバチを持った「三味線手」をつかうのですが、いつその手を変えたのかわからいない早ワザ(最前列だったのにあせあせ(飛び散る汗))。

さらには。

琴を押さえたり、三味線の弦を調律したりという左手は左遣いの一輔さん。
これがとても左右別々の人間が動かしているとは思えないシンクロぶり。
瞬きする時間も惜しいくらいで、目の前の人形と上手の床とを何度も見比べて、忙しい(笑)。

本当にこれ、まだ観たことない人、絶対に観た方がいいと思います。
阿古屋の演奏に心奪われてつい自分も演奏する真似をしてしまう岩永左衛門(吉田玉輝)もとてもキュートでした。


夜の部はこの他に、面売りの娘がおしゃべり案山子の講釈に合わせてひょっとこやお多福の面を付け替えながら♪ズンベラ ズンベラと踊る、新春らしく華やいで楽しい「面売り」と、「近頃河原の達引 四条河原の段/堀川猿廻しの段」。
「近頃河原の達引」は初めて観る演目だったのですが、こちらもとてもおもしろかったです。

道具屋 井筒屋伝兵衛が、恋人である祇園の遊女おしゅんに横恋慕した亀山家の勘定役 横淵官左衛門に三百両を騙し取られ、将軍家所望の茶入れもを盗まれた末に壊されて、堪え切れすに官左衛門を殺してしまい、おしゅんと心中する、という物語。
おしゅんには、目の見えぬ母と猿回しを生業とする兄がいて・・・。

堀川猿廻しの段の切場に竹本住大夫さん登場。万雷の拍手で迎えられていました。
昨年11月の文楽の夕べではまだ一人で全場を語り切れないのがもどかしいとおっしゃっていましたが、情感たっぷりの語りは住大夫さんの真骨頂。いつまでも聴いていたい名調子です。

最後の猿廻しのお猿二匹は本当に可愛くて、一人の人形遣いさん(どなたでしょう?)が両手で操っていらしたのですが、何度か見たことがある実物の猿回しのお猿さんもあんな動きするよなぁ、と感心。
そこに重なるおしゅんの兄・与次郎(吉田玉女)さんの妹への思い、心中するのではなく逃げられるだけ遠くへ逃げてという母の願いが切ない。


位置情報 開演前のロビーでは洋服姿の鶴澤燕三さん、藤蔵さんがそれぞれ談笑していらっしゃるところを目撃。あら、お二人とも夜の部は出ていらっしゃらないのね、とこの時知る(笑)。

位置情報 着席するとお隣の席はハヌルさんでびっくり。後ろの列にはおとみさん、さらに幕間にはムンパリさんにも遭遇。Twitterを始める前からブログで交流させていただいいていた皆さま。何だか同窓会みたいでうれしかったです。ありがとうございましたムード



できれば「阿古屋」もう1回観たいなぁ のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1124 わーい(嬉しい顔) vs 1130 ふらふら)
posted by スキップ at 23:16| Comment(2) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>スキップさま
御無沙汰していました。御目にかかれてうれしかったです。阿古屋は何と言っても寛治師匠、清治師匠、玉三郎丈のお三方だけの演目ですから力入ります。
ばたばたしていまして失礼いたしましたが、また、ゆっくりおしゃべりさせていただきたいです。
Posted by とみ(風知草) at 2014年01月20日 21:32
♪とみさま

こちらこそ、ブログではご無沙汰いたしております。
先日は思いがけずお目にかかれてうれしかったです。

私は文楽で「阿古屋」を観るのは初めてだったのですが、
本当にすばらしかったです。
あの阿古屋のお人形、中には玉三郎さんのミニチュアが
入っているのではないかと思ったくらいです(笑)。

そのあたりのお話も、またぜひゆっくりお聞かせくださいませ。
Posted by スキップ at 2014年01月20日 23:44
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック