
今回は、三谷さんがご自分の原点とも言って敬愛しているニール・サイモン。数ある作品の中から三谷さんが選んだのは、こんな「家族の物語」。
パルコ劇場40周年記念公演 パルコ・プロデュース公演
「ロスト イン ヨンカーズ」
作: ニール・サイモン
上演台本・演出: 三谷幸喜
出演: 中谷美紀 松岡昌宏 小林隆 浅利陽介
入江甚儀 長野里美 草笛光子
2013年11月22日(金) 7:00pm 森ノ宮ピロティホール
C列上手
タイトルの意味は「ヨンカーズで途方に暮れて」。
1942年 第二次世界大戦中のニューヨーク州ヨンカーズを舞台に、厳格な祖母の家に預けられたティーンエージャーの兄弟の目を通して、家族の物語が描かれます。
母が死に、父が借金返済のため出稼ぎに行くため、祖母の家に預けられることになったジェイ(浅利陽介)とアーティ(入江甚儀)の兄弟。
厳格で人を寄せつけず、決して笑わない祖母ミセス・カーニッツ(草笛光子)。
彼女の4人の子どもたち・・・
兄弟の父親である、誠実で気弱な長男エディ(小林隆)
ギャングと関わりがありそうな少し危険な香りのする次男ルイ(松岡昌宏)
幼少時代の母親のトラウマのせいで時々過呼吸になる長女ガート(長野里美)
少し障害を持ちながら少女の心を失わず、幸せを夢見て明るく生きる末娘のベラ(中谷美紀)
ユダヤ系移民のこの家族の、愛憎と確執、そして再生の物語。もちろん笑いもふんだんに散りばめられているのですが、コメディというよりはシリアスでほろ苦い心の物語という印象です。
家族が次々登場して、その“変わり者ぶり”を披露していく明るい一幕、ベラの結婚騒動から祖母の真実が明らかになる二幕という構成。
ジェイとアーティの兄弟が狂言まわしのような役割をつとめているのですが、この2人がいかにも現代っ子で、家族のことをシニカルに眺めていたり、父親を気遣って空気を読んだりもします。
厳しいおばあちゃんは嫌いだけど表面では言うことは聞き、時には果敢に主張したり。やたらテンションの高いベラおばさんのことは苦手で、カッコいいルイおじさんには憧れる・・・そんな2人の存在が、家族の空気を緩ませ、不器用な家族が歩み寄っていく姿は温かい。
三谷さんが「東京の世田谷区の話じゃないかって思うぐらい、自然なセリフのやりとりができるよう、ボクらがしゃべる普通の言葉での翻訳を心がけた」とおっしゃる通り、いかにも翻訳劇といった不自然さがなくて、「マジかよ」なんて言葉もお芝居に自然に溶け込んでいました。
中谷美紀さんは、三谷監督作品「清須会議」でもイメージとは違った弾けた寧を熱演していらっしゃいましたが、子どものままの心を持つベラは活き活きと可愛くてとてもチャーミング。
いつも夢みる夢子さんなベラだからこそ、「お母さんは私たちが愛そうとしても決して愛されようとはしてくれなかった。私だって女の幸せがほしい。赤ちゃんもほしい。子どもができたら決して母さんのようには育てない」と言う叫びは切なく心に響きます。
草笛光子さんのミセス・カーニッツが、そんなベラと口論し傷を晒しあう合う場面の迫力と苦さ。
草笛さんカーニッツの感情を殺して決して笑わない姿は威厳すら感じる存在感。この存在感の大きさがあるから、対母、対祖母で子どもたちや孫、それぞれのキャラクターが浮かび上がってくるのだと思います。ベラの叫びが引き出したミセス・カーニッツが過去に「失くしたもの」の真実も胸に迫りました。
松岡くんのルイもよかったな。
ピンストライプのスーツをパリッと着こなし、いかにも10代の少年が憧れそうな、カッコよくて、ちょっとアブナイことにも足を突っ込んでいそうな雰囲気。ぶっきらぼうで一匹狼のように見えるけれど、本当は家族思いで、ベラのことも大切に気遣っていて。厳しく育てられた母親のことも、実はそれほど嫌いじゃなくて。
「あの人に育てられたから、俺は今こんなにタフだ」という言葉は印象的。
暗転では出演者自ら舞台装置や小道具を動かしたりするのですが、草笛さんが衣装を変えるのを手伝う松岡くんがそれはスマートに、この上ないくらいやさしい手つきで上着を着せかけていて、薄暗がりの中でそのジェントルマンっぷりにホレタ

カーテンコールでみんなが一列に並んだ時、両脚広げて仁王立ちした松岡くんがタンッと右足踏み鳴らして、それを合図に両端外側のジェイ兄弟から順番にポーズ決めていくのもカッコよかったです。
とはいうものの金曜夜で1週間の労働に疲れ果てており、時々記憶を失いました



