2013年09月23日
九月花形歌舞伎 夜の部 「陰陽師」
花形競演・歌舞伎座新開場初の新作歌舞伎・原作は人気小説と話題満載の夜の部「陰陽師」。
夢枕獏さんの原作も岡野玲子さんの漫画も野村萬斎さん主演の映画も未見で、事前情報も極力セーブして、白紙の状態で臨みました。
新開場記念 新作歌舞伎 「陰陽師 滝夜叉姫」
序幕 都大路 「晴明、百鬼夜行に遇いしこと」 より
三幕目 貴船山中 「将門復活。最後の戦いと大団円」 まで
作: 夢枕獏
脚本: 今井豊茂
補綴・演出: 齋藤雅文
出演: 安倍晴明: 市川染五郎/平将門: 市川海老蔵/興世王: 片岡愛之助/桔梗の前: 中村七之助/蘆屋道満: 片岡亀蔵/源博雅: 中村勘九郎/俵藤太 藤原秀郷: 尾上松緑/滝夜叉姫: 尾上菊之助 ほか
2013年9月21日(土) 4:30pm 歌舞伎座 1階9列上手
京の都に起こる怪事件や平貞盛の奇病を調べる陰陽師・安倍晴明が20年前に討伐された平将門に行きついて・・・という物語。
おもしろかったです。
脚本や演出的に練り切れていないと感じる面はあるものの、やっぱりあれだけ花形揃って、しかもキャストがそれぞれはハマリ役って、それだけで楽しい
き乃はちさんの美しい主題曲が流れて開幕。
舞台一面に浮かぶ大きな月に烏帽子の影が浮かび上がり、安倍晴明、源博雅、博雅の従者の3人がゆっくり歩いて来て、そこに百鬼夜行が現れ・・・という怪しくも幻想的な始まりでツカミは上々。
龍のような生き物に乗って、「おいで、おいで~」と操りながら去っていく滝夜叉姫の菊之助さのたなびく黒髪と十二単の裾が美しくて、博雅でなくても見とれちゃいますよね~、な幕開け。
そこから話は20年前に遡ったりまた現在に戻ったりするのですが、そんなにわかり難くはなくて、時々年月を表す字幕が出たりもします。物語として若干散漫な印象を受けるのは、花形勢揃いでそれぞれに見せ場をつくろうとするあまり、ドラマが分散してしまったからではないかと思いました。(原作を読んでいませんので、どこまで潤色されているのかわからないのですが。)
安倍晴明は別にして、前半観ていて、俵藤太こと秀郷が主人公だと思いました。引っ込んだと思ったらまたすぐ出てくるし、かつての友と対峙しなればならなくなった時、その友の妻はかつて自分が愛した人、なんてドラマチックだし。ところが、後半は「え?秀郷まだ生きてたの?」っていう位、脇に去られがち(笑)。将門しかり、滝夜叉姫しかりでいずれもちょっと中途半端な描かれ方。
だから、首尾一貫してヒールに徹した興世王が悪の華で目立ってしまう結果に(もちろん、愛之助さんの好演のタマモノでもあるのですが)。その興世王にしても、この世への憎悪の原因=藤原純友の怨差は人の口でちょっぴり語られるだけでしたし。
ここ、思いきって誰か一人に絞って主役にした方がドラマとしてのカタルシスは高まるのではないかと思いました。
新感線の舞台と比較する声を少なからず聞きましたが、私はそれはあまり感じなかったな。
染五郎さんが以前、インタビューで、「新しい歌舞伎座で初めての新作ですから、ぜひ歌舞伎の王道ともいえるアナログな表現でやってみたい。例えば真っ暗闇の場面でも、あえて客席の照明を薄く残しておいた方が凄みが出たり、ワイヤーアクションで体を浮かせるよりも、花道を行く方が時空を超えて移動しているように見えたり。あえてリアルじゃない方がスケールの大きい作品になる。そこが歌舞伎ならでは、です。」とおっしゃっていて、これは映像作品に対しての発言でしたが、まさにその通り。新感線や他の舞台とも一線を画した「歌舞伎ならでは」感、確かに受け止めました。(だからと言って、全体として歌舞伎らしいかといえばそうとも言えないのではあるけれど)
三上山の「藤太の大百足退治」とか晴明さんの操る狐ちゃんとかラストの白狐がつくる五芒星とかの歌舞伎らしいアナログ感。
特にあの18人(筋書で数えた)の役者さんたちの見事に統制されて蠢く大百足は見モノでした。あれ、三階から観た方がきっとおもしろかったのではないかしら。
最初にも書きましたが役者さんはいずれもイメージぴったり。
染五郎さんの安倍晴明。
美しさはもとより、涼やかさも色っぽさもあって、不思議ちゃんキャラとツンデレな感じが普段の染五郎さんともダブって(笑)。
この晴明と博雅の会話がとても好きでした。
晴明の屋敷で、咲き乱れる秋の花々を眺めながら、「見事なまでに移ろっていくなぁ」とつぶやく博雅。何が?と問われて「季節がだ」と。
終盤、蘆屋道満に「何のために生きておる?」と聞かれた時も、「風や花に問うてみましょうか」と応じていました。
そんな源博雅も、演じる勘九郎さんの誠実なキャラクターとどこか重なって。
こういう人物だから晴明もただ一人、心を許していたのでしょうし、この人が奏でる笛だから滝夜叉姫の心にも、将門の魂にも、柔らかく染み入るのだと思いました。
晴明が貞盛の屋敷へ行くことになった時、「私もゆく」と言う博雅。「ゆくのか?」と晴明。
「ゆくとも」「ではゆくか」「ああ、ゆこう」というやり取りと、博雅の「ああ、ゆこう」を聞いて、先を歩きながら博雅に気づかれないように一瞬フッと笑みを漏らした晴明の表情に激しく萌え
将門の海老蔵さん、秀郷の松緑さん、興世王の愛之助さん、桔梗の前の七之助さん、滝夜叉姫の菊之助さん、賀茂保憲の亀三郎さん、ほんとに皆さん適材適所でハズレなしでしたが、中でも特筆すべきは蘆屋道満の亀蔵さん。
「葛の葉」ではあんなに憎ったらしい道満がキュートですらありました。いつも大アゲハとともに登場していましたが、襷も蝶々むすびだったよ
今回、いただいた席が花道から遠くて若干凹んでいたのですが、染五郎さん晴明が客席通路から登場するところでほぼ真横に立ち止まられ・・・まぶしくてドキドキして目が開けられない・・いや、見る、ガン見する~ とワラワラしました。
桔梗の前が興世王に殺される場面で見せてくれた七之助くんのそれはそれは美しく見事な海老ぞり。あんなスローモーションで海老ぞりできるなんて・・・その場面の舞台写真が愛之助さんのコーナーにあると幕間に教えていただいて追加で買いに行ったら、私でラストの1枚。完売でございました。
幕間には新しい歌舞伎座になって初・スパークリングワインもいただきました のごくらく度 (total 1165 vs 1168 )
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