2013年07月02日

傍観者ではいられない 白井晃演出 「オセロ」

othello13.jpgシェイクスピア四大悲劇の一つ「オセロ」は、劇団☆新感線の「港町純情オセロのように翻案された作品をはじめ、数々の舞台にかかっていますが、私が一番印象に残っているのは、彩の国シェイクスピアシリーズ・蜷川幸雄さん演出・吉田鋼太郎さん主演の「オセロ」。カーテンコールで号泣した作品です。2007年。もう6年も前なんだ。
今回は白井晃さんこだわりの演出で。

「オセロ」
原作: ウィリアム・シェイクスピア
翻訳: 福田恆存
構成・上演台本・演出: 白井晃
出演: 仲村トオル  山田優  赤堀雅秋  加藤和樹  
高田聖子  水橋研二  有川マコト  白井晃 ほか

2013年6月29日(土) 6:00pm 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 1階I列センター


劇場に入ると、客席の後ろの方まで、天井のそこここに照明(蛍光灯)が吊り下げられているのに気づきます。
客席の前方(ちょうど私の座った列でした)に演出家席があって、舞台上手には楽屋を思わせるような洗面台が並び、下手には丸椅子が置かれ、と、「オセロ」とはかけ離れた雰囲気。
やがて舞台上にオセロとデズデモーナが現れ、無言で何度も同じシーンを繰り返します。演出家席でマイクを使って指示を出すのはイアーゴ役の赤堀雅秋さん、隣の演出助手は妻エミリア役の高田聖子さん。まるで稽古場かリハーサルを覗いているような感覚です。
役者さんたちは客席通路を頻繁に行き来するばかりでなく、時には客席に座ったり、そこから舞台に話しかけたり。
そして観客である私たちも、単なる傍観者としてではなく、ある時はヴェニスの議員、またある時はサイプラス島の群集に見立てられ、起立を求められると全員が立ち上がるといったように否応なしに劇中に巻き込まれていくという展開です。
これ、世田谷パブリックシアターでは舞台と客席の高さの差がほとんとなかったとおっしゃっていましたが、その装置で観たかったな。多分客席の意識もまた違ったと思います。

実に刺激的でスリリングな舞台でした。昨秋、白井晃さんの演出で話題になった「4 four」につながる感じでしょうか。
正直なところ、遊◎機械/全自動シアターの舞台や「ア・ラ・カルト」以外での白井さんの演出は苦手。でもこの作品は、斬新な演出ではあるもののスタイリッシュ過ぎず、演出の意図もちゃんと見える(その理解が正しいかどうかは別として)とともに、舞台の楽しさも堪能できて、とても面白かったです。

“演出家”を兼ねるイアーゴは、演出の指示ばかりでなく、自らの謀略や心の闇の部分までマイクを通じて劇場に響き渡らせます。物語の上ではオセロを、二重構造になった現実世界ではそのオセロを演じる主演俳優を破滅へと導こうとしているのでしょうか。
「嫉妬」という感情をキーワードに、二つの世界がシンクロして目の前で繰り広げられる面白さ。

物語としての「オセロ」は至極オーソドックスに展開します。
武勇に優れ、功なり名を成し遂げたムーア人の将軍オセロ(仲村トオル)が、同僚キャシオ(加藤和樹)の出世を妬むイアーゴ(赤堀雅秋)の陰謀によって、若く美しい妻 デズデモーナ(山田優)の貞淑を疑い、破滅へと導かれる物語。

他者を妬んだり嫉妬したり、異質なものを差別・排除するという人間の負の部分の感情-それをこうして二重構造で、現実世界とリンクして描き出されることで、400年前に書かれたこの物語の普遍性がより際立った印象を受けました。
ラスト、物語が終焉したと思わせた後にやってくる衝撃の結末。これこそが白井さんが私たちに放った銃弾なのかもしれません。
本当の死を迎えた2人の顔を黒く塗る周りの人々。2人を殺したのはイアーゴ(演出家)だけど、異端者の死を悲しむのではなくむしろ安堵しているようにも見える周りの人々もまた同じ罪びと、そしてそれを観ている私たちの心にもまた同じ嫉妬や差別の感情が渦巻いているのではないかと。

よく通る低い声、長身痩躯、苦味走ってカッコいい仲村トオルさんのオセロ。
イアーゴの口車に乗り、嫉妬と猜疑心から狂気の暴走をする姿は見ていて痛々しいほど。
ただ、オセロがあんなにもたやすくイアーゴの策略に嵌ってしまうのは、彼自身の心に、自分がヴェニスの貴族社会の中でマイノリティであること、そして若く美しい貴族の娘である妻へのコンプレックスがあったからだと思うのですが、そのあたりが感じ難いかなぁ。カッコよすぎて(笑)。若さはともかく、ビジュアルでは絶対キャシオに負けてないもん。
ポストトークで白井さんは、「黒人の役ですが仲村さんに黒塗りしてもらうなんていうのはない話。そこはご覧になる方のイマジネーションで」とおっしゃっていましたが、そのイマジネーションを働かせるには、物語をよく知っているか、台詞を注意深く聞き込む必要があって、そのあたりのハードルは少し高いかな、と。
デズデモーナの山田優さんがとても清廉で美しいけれど、大人っぽいビジュアルのため、オセロが my girlと呼ぶような、年齢の離れたカップルに見えなかったことも一因でしょうか。

憎々しいけれどもどこか醒めて飄々とした雰囲気も持つ赤堀雅秋さんのイアーゴ、それまで抑えたいた感情を最後に一気に爆発させる高田聖子さんのエミリアの存在感が印象的。
不安を駆り立てるように響くアコーディオン・チェロ・コントラバスの生演奏もステキでした。

翻訳は福田恆存さんのものを敢えて選んだという白井さん。格調高く古典的な文体で、役者さんたちはかなり苦労されたよう。仲村トオルさんはポストトークで、「400年前のシェイクスピアより、福田先生の日本語の方が遠い」とおっしゃっていました。


トオルさんオセロに真横に立たれてナナメ前に座られた時には気になり過ぎて舞台に集中できませんでしたあせあせ(飛び散る汗) のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 1123 わーい(嬉しい顔) vs 1122 ふらふら)
posted by スキップ at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
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