昨年見観た「The Library of Life まとめ*図書館的人生(上)」と対になった作品といえるのかな。
(上)が短編集だったのに対し、こちらは、2008年に上演された短編が元になっているとはいえ、1本の長編作になっていました。
イキウメ 「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」
脚本・演出: 前川知大
出演: 浜田信也 伊勢佳世 安井順平 大窪人衛
岩本幸子 盛隆二 森下創 加茂杏子/池田成志
2013年6月14日(金) 7:00pm ABCホール B列下手
カーテンのような幕が何枚も天井から下がった場所(その意味は物語が進むにつれてわかるようになるのですが)。両袖に石化したような書架の列があって、それが「図書館的人生」を表しているよう。
物語の始まりは2096年。
「御柱様」と神のように崇めるものをある家族が参詣します。幕が上げられ一瞬現れるそれを拝み、両親はとても幸せそうに有り難がっていますが息子の亘(大窪人衛)だけは醒めていました。
時は88年遡り、2008年。
幕に覆い隠された向こうにあるものは何だったのか。そもそものコトの発端をたどっていきます。
天文マニアの二階堂望(浜田信也)が拾った隕石は、見る者にとてつもない幸福感を与え、思考能力を奪い、やがて死へと導く不思議な力を持っていました。1年後、世界の人口密集地に巨大な柱が降り立ち、隕石と同じ効果を及ぼします。
先に出てきた2096年は、柱を信奉しその力と共存する時代でした。
この二つの時代が時空を超えて交錯し、柱の謎解きと、柱の力に屈したり抗って立ち向かおうとする人々が描かれます。
劇中でも引用された「黙示録」に代表される聖書の世界観が、前川知大さんのSF的な筆致とシンクロして、何とも想像力や好奇心を刺激される作品です。
神なき世界と言われる現代へ警鐘を鳴らすかのような聖書をメタファーした終末観と、夫婦や兄妹、恋人といった個の心情の描き方のバランスが絶妙で、一つひとつの「物語」に引き込まれます。
発端が2008年というところに、これから迎えることになる2011年の影が心をよぎりますが、学生の頃に読んだ聖書の「七人のらっぱ吹きの物語」を改めて役者さんの台詞として聞くと、「地上の1/3を焼き払う」「地上の川の1/3を毒にする」・・・「雷や大地震を起こし、さらに大粒の雹を地上に降らす」・・と、環境問題や原発、核ミサイルの脅威にさらされ続けている今の私たちの状況とあまりにも符合していて震撼すら覚えます。
けれど前川さんは、必ずしも明確な答えを提示してくれている訳ではありません。
なぜ柱が降って来たのか、そもそも柱とは何を表しているのか、なぜ人口密集地にだけ柱は降ってくるのか、88年後、柱が見える人の出現は何を意味しているのか。
らっぱ屋率いる300人の難民を受け容れる代わりに300人の志願者を募って自分達は出て行き別の場所で新たな共同体を作ろうという山田輝男の行動を「希望」と取るのか。
・・・その「気づき」と「答え」は観る者の心に委ねられているよう。
多分、柱が伝えようとするもの読み取ろうと深く考えること、そしてそこから自分なりの答えを導き出すことこそがこの作品のメッセージなのかもしれません。
イキウメの役者さんは派手さはないけれど皆さんとても芝居巧者で、いつもそれを演じている人がほんとにこんな人なのでは?と感じるくらいリアリティがあります。
そんな中、やはり客演の池田成志さんは異彩を放っていました。
セカンドバッグを持って町金みたいな雰囲気のいかにも胡散臭そうならっぱ屋。
その過去の中で、病に冒され、死ぬために柱を見ようとした妻を制して後ろから抱き抱え、その目を覆った手がとても逞しく温かくセクシーでドキッとしました。
当初のフライヤーはこんなふうに(上)と対になっていました。
イキウメはおもしろいけどない頭もすごく使うから観た後ちょっと疲れる のごくらく地獄度 (total 1115 vs 1116 )