
松山ケンイチくんが初めて舞台に挑戦した作品。2000年に解散した惑星ピスタチオの西田シャトナーさんの作・演出です。
「遠い夏のゴッホ」
作・演出: 西田シャトナー
出演: 松山ケンイチ 美波 安蘭けい 石川禅
田口トモロヲ 手塚とおる 福田転球
吉沢悠 筒井道隆 ほか
2013年3月7日(水) 6:30pm 新歌舞伎座 1階7列センター
蝉のゴッホ(松山ケンイチ)とベアトリーチェ(美波)の恋物語。
「蝉になったら僕の一番上手い歌を聴かせる」「一番かどうかは関係ない。ゴッホの歌を私は聴く」と約束した蝉の幼虫の恋人同士。
ところが、来年一緒に羽化するはずだったのにゴッホは自分の歳を1つ間違えていて、一人で今年羽化してしまいました。羽化した蝉はその夏限りの命であることを知り、来年ベアトリーチェに会って歌を聴かせるために、不可能と思える「越冬」に挑むゴッホ。舞台まん中に大きなケヤキの木が立っていて、そこここから出てくる蝉や蟻やミミズ、カマキリ、ハチ、クモ、クワガタやカブトムシといった昆虫たち。
リアリティを追求しているのではないけれど、それぞれに楽しく凝った扮装をしていて、まるで三次元の絵本のようです。
一幕は松山ケンイチくんの「蟻もやります」に始まって、ゴッホとミミズのホセのやり取りとか、散りばめられたゆる~い笑いが不思議とツボにハマって、思わず声をあげて笑ってしまう場面もしばしば・・・これってこの作品の趣旨とは違うよね?と思いながら(笑)。
寒さや体力の衰えや、いろんなものにボロボロになりながら生き延びようとするゴッホに切なさが増す二幕。
自然の摂理に逆らってでも愛するベアトリーチェに会うために懸命に生き抜こうとするゴッホ。
歌わず飛ばず、できるだけ成長しないように、自分の時間を進めないように生きてきたゴッホが、ベアトリーチェのために、最後の力を振り絞って羽を震わせて飛ぶ場面(ここ、フライング!)はかなり感動的でした。
一方で、その自然の摂理を受け容れ、他の虫に食べられるという自らの死をも自然界の生命の連鎖だと納得して死んでいく虫たち。
そして、冬でも寒くならない「四角い森」の描写は、人間のつくった文明へのアイロニーとも取れるのかなと思ったのですが、このあたりはそれほど踏み込まれず。
ゴッホたちに羽化の心得を教える先輩蝉・スタスキー。「転球さん?あれって転球さん?」と二度見、さらにオペラ上げて三度見(笑)。
松山ケンイチくんと安蘭けいさん以外ほとんどキャストを知らなかったので(というのはいつものことですが


石川禅さんはクワガタだし、田口トモロヲさんカエルだし、カマキリのセルバンデスの細貝圭さんはやたらエキセントリックだし、手塚とおるさんや竹下宏太郎さんなんて働き蟻だし・・・と何気に豪華キャストなんですけど~。
初舞台の松山ケンイチくんはイメージしていたより不器用な印象でした。
だけどその不器用さがゴッホの素朴さや純粋さと重なって、最後までゴッホの生き様で客席を吸引していった感じ。
カーテンコールでは「松山さ~ん」「松山さ~ん」と黄色い声援多数。人気あるのね。中には「清盛ぃ~」という声も。清盛って・・。
もう一人、羽化の際のアクシデントで不能になったため、他の蝉より長く生きられるアムンゼン・筒井道隆さんが、屈折を抱えて生きる、ナイーブだけど醒めた蝉で、さすがの印象を残しました。
あとはやっぱり安蘭けいさんの女王蜂エレオノーラ。鉄板の女王キャラ。そして相変わらず美声で歌をたっぷり聴かせていただきました。
キセキのように生き延びたゴッホ。羽化したベアトリーチェと再会してキスをかわす二人。
幸せなハッピーエンドの向こうに、この二人の明日はどうなるの、という切なさも透けて見える、やさしくて哀しいファンタジーでした。
とは言っても細かい部分は忘れてしまってほんとごめんなさい の地獄度


