2013年04月01日

中村屋の底ヂカラ 「怪談乳房榎」

IMG_6586.jpg以前にも書いたことがありますが、「怪談乳房榎」は私が初めて観た歌舞伎の舞台。場所は道頓堀の中座。
主演は勘九郎さん時代の勘三郎さん。
「勘九郎さんってこんな凄いことできるんだ」「歌舞伎ってこんなにおもしろいんだ」と大変衝撃を受けた忘れられない作品ですが、それ以来ご縁がなく、今回二度目の観劇でした。

赤坂ACTシアター5周年シリーズ 
中村勘九郎襲名記念 赤坂大歌舞伎 
三遊亭円朝 口演 「怪談乳房榎」
中村勘九郎三役早替りにて相勤め申し候

出演: 中村勘九郎  中村七之助  片岡亀蔵  中村獅童 ほか

2013年3月24日(日) 12:00pm 赤坂ACTシアター 1階O列下手


武士から転じて絵師となった菱川重信には、美しい妻お関(七之助)と生まれたばかりの真与太郎がいます。お関に一目惚れして重信に弟子入りした浪人の磯貝浪江(獅童)は、菱川家の下男・正助を脅して手伝わせ、重信を殺害してしまいます。やがてお関と夫婦になった浪江は、今度は正助に滝つぼへ真与太郎を棄てるよう命じます。さらに、その正助も殺害しようと、昔の悪仲間の三次に後を追わせ・・・・。
重信・正助・三次の三役を勘九郎さんが早替りで演じ、本水を使った大掛かりな滝つぼのセットなど歌舞伎のケレンたっぷりの舞台。いや、凄かったです。勘九郎さんの早替り。
勘九郎さんが早替りで出てくる度にどよめきが起こっていました。
初めてこの演目を観た時は歌舞伎の早替りのからくりなんて全く知らなかったので、とにかく驚いて、特に滝つぼの後、正助と傘をさしてやってくる三次が花道で出会い頭に入れ替わる場面なんて、「どうなってるの?どーなってるのっ目」と大騒ぎしたものでしたが、それから何100回?といろんな早替りを観てきた今でも、あの早替りには驚愕です。
もちろん、姿形が変わるだけでなく、目つきや仕草、声色、体全体から醸し出す雰囲気などがガラリと変わります。まるで魂まで入れ替わったように瞬時に別の人間になる勘九郎さん。
端正でストイックな芸術家・重信、素朴で小心者の下男・正助、したたかな小悪党・うわばみ三次・・・色合いが違う三人の演じ分けが本当に鮮やか。「ともすれば早替わりショーになりがち。それは駄目だ」という勘三郎さんの教えをしっかり受け継いで、押しも押されもせぬ持ち役です。

三人の中ではやっぱり三次が好き。
勘九郎さんは侠客とか渡世人の似合いっぷりハンパないです。
「め組の喧嘩」の藤松しかり。「一本刀土俵入り」の駒形茂兵衛しかり、「瞼の母」の番場の忠太郎しかり。そして、「夏祭浪花鑑」の団七しかり。三次が団七と同じ型の見得を決める場面があって、その重心の低さ、型の美しさ、力強さにホレボレムード

七之助さんのお関は、ただ綺麗な奥様、やさしい母なだけではなく、色っぽくて「女」の部分を感じさせる役づくり。旦那様の重信にはない何かを、本能的に浪江に感じ取ったのではないかしら、そしてそこが浪江につけ入る隙を与えたのではないかしら、と思わせる雰囲気でした。

その浪江は獅童さん。
悪人なのだけど恋心めちゃストレート(笑)。綺麗だしカッコいいのですが、私の好み的にはもう少し屈折した色悪ぶりが欲しいところかなぁ。
二幕の料亭花屋二階の場面で、最中を「食べろ」と浪江に言われた正助が「疲れているから甘いものがおいしい」と言いつつむせながら完食した後、浪江にも「おめぇが食べろ」とすすめていたのは千穐楽バージョンだったのかな。
「俺がこれを食べるとこの後話す予定のことを少し待たなくてはならなくなるが、いいのか」とか「今甘いものは控えているのに」とか言いながらやっと食べる獅童さん浪江に客席大笑い。
・・・この最中、二人の会話を聞いているときはずっと「悪党最中」だと思っていたのですが、正しくは「ACT最中」でした。ヒヤリング悪っあせあせ(飛び散る汗)

最初の幕は隅田川の堤で、対岸に中村座があるのを見つけて泣きそうになっていたところに茶店のお姉さん・小山三さん登場。「いつ見ても若いねぇ」と言われ照れ笑いしてやんやの喝采を浴びていました。ほんとにお元気そうでうれしかったです。

今回の席は真ん中より後方でしたが、中通路下手のドアに中村屋ののれんを下げて鳥屋に見立て、逆L字型のようにそこから舞台へと下手通路を花道代わりに使う形。通路側の席だったので、役者さんの出入りも花道もよく見えてゴキゲンるんるん
例の傘の早替わりもその下手通路でしたので結構近くに見えたのですが、ほんと、わかっているのに全然わからない(笑)。

この日は本来ならば千穐楽だったはずなのに夜の部が追加公演となりちょっとブーたれたりもしていたのですが、カーテンコールで勘九郎さんが、「本当はこれが千穐楽でした。千穐楽と思ってチケット買ってくださった方、すみません。でも追加公演ができるなんて役者としてはとても有り難いことなんです。」とおっしゃったのを聞いて、「許す!」という気になりました。
去年の五月平成中村座千穐楽でも勘三郎さん同じようなことおっしゃっていましたね。親子だな。

「赤坂は歌舞伎を知らない人や見たことのない人にも親しんでほしいということで父がやらせてもらって、今回が3回目。自分もやらせてもらってありがたい。たくさんのお客さんに来ていただいて、四月の歌舞伎座へよいはずみになりました」と勘九郎さん。
華も愛敬もあって、座頭で、すでに中村屋を背負って立つ風格すら感じました。
本当のことを言えば、私は勘三郎さんは空の上で安心なんてしてほしくない、「まだまだお前たちにゃあ任せられねぇ」とか言って戻って来てくれないかなと思っているのですが、勘九郎さんのこの姿をご覧になったら、安心しちゃうかも。

演舞場、ルテ銀と国立と赤坂、三月に花形歌舞伎興行が打たれた四座で唯一チケット完売で連日立見まで出る盛況。
遠いあの日、衝撃を受けたパワーやドキドキ感はそのままに、2013年の当代・勘九郎さんの「乳房榎」を見せていただきました。

chibusa1.jpg   chibusa2.jpg


中村屋の底ヂカラ ここにあり のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1076 わーい(嬉しい顔) vs 1077 ふらふら)
posted by スキップ at 23:26| Comment(2) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちはスキップさん、昨日の初日の七緒八お目見えも、このブログ記事も、このところ、うるうるしっぱなしですよ!来週、七緒八くん観てきます、天皇、皇后両陛下とね。また泣いちゃうなぁ
Posted by ケン坊 at 2013年04月03日 18:26
♪ケン坊さま

まぁ!天皇 皇后両陛下と同じ日に!
偶然とはいえステキですね~。
両陛下が七緒八くんをご覧になってどんな感想をお持ちになるか
ぜひお聞きしてみたいです(笑)。

ケン坊さんも楽しんでいらしてくださいね♪
Posted by スキップ at 2013年04月03日 23:57
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック