
以来、4回目となる上演ですが、これまで私が観たのは前回1998年の公演のみです。
今回山内圭哉演じる「山田のおじさん」は古田新太。
チェーンソー持って顔じゅう体じゅうに返り血を浴びてニタリと笑い、「よろしいですかぁ~」と言う声が、とにかく強烈な印象で忘れられませんでした。
PARCO&cube Presents 「こどもの一生」
作: 中島らも
潤色: 桝野幸宏
演出: G2
出演: 柿沼/谷原章介 (中村有志) 三友/吉田鋼太郎 (生瀬勝久) 藤堂/玉置玲央 (升毅) 淳子/中越典子 (西牟田恵) ゆみ/笹本玲奈 (芳本美代子)
院長/戸次重幸 (入江雅人) 看護師・井出/鈴木砂羽 (小沢真珠)
山田/山内圭哉 (古田新太) ・・・ ( ) 内は1998年版の配役
2012年11月29日(木) 7:00pm シアター・ドラマシティ 5列センター
舞台は孤島にある臨床心理治療所。
社会から遮断されたこの施設に、ワンマン社長の三友とその秘書柿沼が強制入院させられるところから物語は始まります。このクリニックでは、薬と暗示で心を「こども返り」させることで社会生活からくるストレスを解消しようとするMMMという治療が行われていました。子ども化する5人の患者たち。やがて彼らは、いたずら心からある遊びを考えつき・・・。スプラッタ・ホラーと言われる作品ですが、今回特に強く感じたのはスプラッタの部分よりむしろ人の心の怖さ。
ビジュアルの怖さと、精神的な怖さの両方からジワジワと攻められた感じです。
弱いものいじめとか、仲間はずれとか、一人をよってたかってスケープゴートにしようとする群集心理とか、歯止めがきかなくなる集団の暴力とか。
患者たちの職業は時代に合わせて変更されていますが、仕事のストレスが心身に変調を来たすところやパワハラなども含めて、突拍子もない設定と思われがちな中島らもさんの本のリアルな普遍性が際立ちます。
役者さんたちの達者な演技に笑っていられた前半。
こども返りしたみんなが横暴な「みっちゃん」(三友)への仕返しに、「みっちゃんにだけわからない会話で盛り上がる」という意図でつくり出した架空のキャラクター「山田のおじさん」。この人物が実際に現れたあたりから様相が一変。
それでも、ここはまだ登場人物たちにとっての恐怖で、客席で見ているこちら側は恐怖というより、「どういうこと・・?」という感じです。
そして、彼らがパソコンに入力しておいた「山田のおじさん」の設定が知らない間に書き加えられていることに気づくところから一気にスプラッタへ。コワイよっ

「次々と人を殺す」という設定通り、最初に三友が、そして看護師、医師、藤堂と殺されて行く中、逃げ場を失った3人が逃げ込んだ洞窟で見つける一面に生えたキノコ。
ここで、「自分たちが見ている山田のおじさんは幻覚だ」「自分たちは子どもなんかじゃない」と突然覚醒する柿沼。
他の2人を叱咤激励し、ヒーローのように山田のおじさんと戦って勝利した柿沼に待っていたもう一つの真実の恐怖。
山田のおじさんの言う 「人は誰かに意識されることで存在する」という台詞が印象的。
「山田のおじさん」は、抑圧された人間の心がつくり出したモンスターで、「山田のおじさんにやられた~」と訴えたり喚いたりする、ストレス過多の現代人は多いはず。
だけど、それは全部自分の心が生み出したもの。ほんの小さなきっかけで誰の心にも「山田のおじさん」は出現するよというらもさんの声が聞こえるようでした。
ほら、いるでしょ?あなたの心にも、私の心の中にも、山田のおじさん。
8人の役者さんは男女ともそれぞれキャラが立っていて好演。
吉田鋼太郎さんがあのコワモテで子ども返りするところなんて、あんまりキュートで客席から拍手が起こっていました。
前回観た時の生瀬さんの三友が超憎たらしいイヤな奴だったのと比べるとあまり憎めない感じがしたのは私が鋼太郎さんを好きだからでしょうか。
谷原章介さんを舞台で拝見するのは「あわれ彼女は娼婦」以来かな。
いい声だしタッパもあるし、最後の山田のおじさんと戦う場面のアツイ台詞も聴かせてくれて、映像でのご活躍が目立ちますが、もっと舞台でも拝見したい役者さんです。

個人的には「小林製薬のボーナスナクナール」っていうのにウケました。

それでも状況変わらず、「立つなら立つ!立たないなら立たない」と繰り返す僧正。
やっと総立ちになった客席に「だんだんのスタンディングオベーションありがとう」と

吉田鋼太郎さんは「だんだんのスタンディングオベーション、一生忘れません」と苦笑いしておっしゃっていました。

「見ろ、総スカンや」と僧正。「ラピュタやって~」という客席の声に、「アホか、お前」と戸次くん。「大阪やなぁ〜。何かやってって言うんや」と僧正。
頭の先までぴーこぴこ のごくらく度



98年版ご覧になったのですね。
今回は基本、そのままで演出はよりスタイリッシュというか、
モダンになった印象でした。
吉田鋼太郎さんの三友は、とてもよかったですが、ワタシ的には
憎々しさがいささか足らないかなぁ、と感じました。魅力的すぎて(笑)。
そうそう、あの結末の後すぐにはなかなか立てないですよね~。