
その借金を取り立てに来た、自身もノルマに苦しむヤミ金融の末端社員・山田星児(溝端淳平)。
エリートサラリーマンだったものの投資詐欺にひっかかり、職も家庭も失った冨士夫の息子・鉄馬(佐々木蔵之介)。
人生の負け組とも言えそうな行き場のない3人が、かつて富士夫が経営していた町の廃工場で繰り広げる一夜の物語。
二兎社公演37 「こんばんは、父さん」
作・演出: 永井愛
出演: 佐々木蔵之介 溝端淳平 平幹二朗
2012年11月25日(日) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール B列下手
冨士夫と鉄馬という父と息子の葛藤を中心に据えながら、家族の情景ばかりでなく、その向こうに社会が透けて見えます。
かつて、物づくりの現場が輝いていた時代、その舞台となった工場と、今の廃墟のような現状との対比が、まるで日本が駆け抜けてきた時代と負の遺産に苦しむ今とを映し出しているように感じられて、切ない。高度成長期、日本の製造業の繁栄を支えた年代の冨士夫。
バブルの時代に人生を狂わせた鉄馬。
学歴も技能もなくワーキングプアの星児。
3人それぞれが持つ痛みが厳しく、絶望的な状況なのに会話はどことなくユーモラスで悲愴感が薄いのは永井さんの筆致によるものでしょうか。
借金を取り立てる側であるにもかかわらず、一番切羽詰まった感があるのは星児。
「店長になれば何でも経費で落とせる」「そのために周りがどんどん辞めて行く中で頑張って残って来たんだ」と気が狂ったように借金のカタに冨士夫の指輪を探す星児には悲愴感さえ漂います。
溝端淳平くん。平幹二朗さん、佐々木蔵之介さんという芝居巧者の先輩に囲まれて大健闘です。
あまりの様子に冨士夫は指輪などはじめからないことを告白しますが、それでも探し続ける星児に、今度は鉄馬が自分の息子のために買っておいた高級腕時計を差し出すのでした。「ここにいた自分たちのことをよく覚えておけ」と告げて。
この二人の親子の問題は何も解決していなくて、この後も借金返済に追われることになるのでしょうが、ともにどん底に落ち、これまで目を背け封印していた過去と向き合ったことで、やっと心が通い合った父と子。そこに微かな希望が感じられるエンディングでした。
勝馬と名づけた息子-これまで冨士夫に会わせることのなかった孫-のことを語り合う父子が哀しくて温かい。
屈折した心を抱えた少年時代、自信に満ち溢れたサラリーマン時代、落ちぶれた今・・・細やかな表情や声の変化で演じ分ける佐々木蔵之介さん。
落ちぶれていても何だか人を食ったようなところもあり、どことなく芸術家みたいでカッコいい平幹二朗さん。相変わらずいい声で、生活感のある台詞を話す平幹二朗さんは新鮮。茶目っ気たっぷりな可愛い表情も見せていただきましたが、やはり、シェイクスピアやギリシア悲劇で、朗々と台詞を紡いでくれる平さんが好きだなと思ったのでした。
平幹二朗さんの「リア王」がまた観たい のごくらく地獄度



