シェイクスピアの不朽の名作の一つに数えられる「ロミオとジュリエット」。これまで数限りなく上演されてきましたが、新演出となるとどうしても現代テイストを採り入れたくなるのが演出家の性でしょうか。
「ロミオ&ジュリエット」
原作: ウィリアム・ シェイクスピア
翻訳: 松岡和子
上演台本: 青木豪
演出: ジョナサン・マンヴィ
出演: 佐藤 健 石原さとみ 石野真子 姜暢雄
長谷川初範 キムラ緑子 橋本さとし 賀来賢人
菅田将暉 尾上寛之 ほか
2012年6月6日(水) 7:00pm シアターBRAVA! 1階H列下手
14世紀 イタリアの古都ヴェローナでの物語をこの舞台では時代設定を曖昧にしているのだとか。それでも、登場人物の服装や言葉づかいや、若者たちが集まるクラブ(DJまでいる)などから、観ている私たちは現代を連想します。
そこにまず違和感。
スマホは出てこないまでも(笑)、こんな現代なら、ヴェローナからわずか40キロばかり離れたマントヴァ(この作品ではマンチュアと言っていた)までなんて、すぐに辿り着くことができそう。だから、ヴェローナを追放されたロミオの、「ジュリエットに逢えないことは死ぬのも同じ」という悲嘆が実感として伝わり難い。結局のところ、「ロミオとジュリエット」という作品において中途半端に時代設定を脚色すると痛い目を見る、ということを改めて感じました。これは、青木豪さんの脚本の問題なのか、ジョナサン・マンヴィさんの演出のなせるワザなのかは定かではありませんが。演出といえば、日本を意識してか龍虎図や般若の絵、バルコニーのシーンでは桜、ジュリママの着物なのだか中国風なのかビミョーなドレス、現代感を表すのにラップやDJというのはステレオタイプすぎてかえってひいてしまいます。
冒頭の星降るような電球の場面とか、最後の霊廟の場面とかいい感じだったのに、同じ人の演出とは思えないくらいです。
私の「ロミオとジュリエット」の一番の泣きポイントは二人が死んでしまうラストより結婚式のシーン・・・幸せの絶頂にいる二人の輝きと美しさの後ろに迫る過酷な運命を思っていつもウルウルするのですが、そのシーンが短いのも不満。ウルッときた涙もひっこんじゃったじゃないか(笑)。
とはいうものの、ストーリー展開はごくオーソドックスな「ロミオとジュリエット」。
言葉づかいは現代的に直してありますが、よく聴いていると内容はほぼ原作通りなのもわかります。バルコニーのシーンも、ミュージカル版みたいにロミオがわっしわっしと上っていくのではなく、ちゃんと上と下で、というのも好感。
佐藤健くんのロミオ。
この舞台のためにロンドンで演劇ワークショップにも参加して、鳴り物入りの舞台デビューです。
率直な感想は、「タケルはもっとできる子のはず」(笑)。
ビジュアルはすごくいいのに。
ナイーブな雰囲気もとてもよく合っているのに。
まず声。「え?タケルの声ってこんなだっけ?」と思ってしまいました。舞台ということを意識してか、そのためにつくり上げたのか、これまで映像で知っている佐藤健の声とは違っていたなぁ。話し方も結構平板な印象を受けました。そしてこれは演技のみならず演出の問題もあるかもしれませんが、全体としてロミオがおとなしくて覇気がない。もっと若さの暴走というか、いかにも男の子というやんちゃなきらめきも欲しいところです。佐藤健23歳。今さらながら藤原竜也が22歳で演じたロミオのキラキラ輝きっぷりが愛おしい。
あ、でも舞踏会でジュリエットと出会った瞬間に恋に落ちる場面はとてもよかった
ジュリエットは石原さとみ。
キャりアからいっても、さとみちゃんジュリエットの方がお姉さんに見えるのではないかと思っていたのですが、杞憂でした。とても可愛いジュリエット。正直のところ、苦手な女優さんではあるのですが、恋も知らない純情な女の子が愛することを知って豹変する姿をイキイキと見せてくれました。
「ロミオとジュリエット」という作品は、特に後半は「ジュリエットの物語」だといつも思うのですが、まさしく後半の舞台を一人で支えていた感じ。パリスとの結婚を決められ、信頼していた乳母にも裏切られて、一人家族との訣別を決意するくだり(「死ぬ力だけは残っている」という低い声!)、ロレンス神父からもらった薬を飲むまでの葛藤・・・すばらしかったです。
橋本さとし演じるロレンス神父はとても人間的。二人にとって頼れる相談相手ですが、決して聖人君子ではなく、人間の強さも弱さも見せてくれました。大人でありながらそのツメの甘さが悲劇の一端を招いたこと、それを大公の前でひれ伏して懺悔する姿が印象的でした。
キムラ緑子さんはとても好きな女優さんで、乳母はこの舞台で楽しみにしていた役の一つですが、うーん。これは演出なのかご本人の演技プランなのか、あそこまで落とさなくても、とは思いました。ただ、ジュリエットにパリス伯爵との結婚をすすめた後、一人去っていく時の苦渋に満ちた表情とか、ジュリエットが亡くなっていることがわかった時の嘆きとか、細やかな演技。そして、どんなに早口でもちゃんと聴き取れる台詞術もすばらしい。
ロミオのまわりの若者群の中ではマキューシオの菅田将暉くんがお気に入り。一人金髪なのも目立っていました。
最後の霊廟の場面。
ロミオが毒薬を飲もうとするまさにその刹那、ジュリエットが覚醒して空(くう)へと手を伸ばす・・・叶わないとわかっていても、「ロミオ、振り向いて!ジュリエットを見てっ!」と心で叫ばずにはいられませんでした。
「ロミオとジュリエット」・・・暴力の連鎖や報復の虚しさがテーマにあるとはいえ、二人の若者の永遠の愛の物語であることには違いありません。
タケルはカーテンコールの笑顔が一番チャーミングでした の地獄度 (total 941 vs 941 )
2012年06月16日
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ほんとに同じような感想で、なんだかほっとしちゃいました(笑)。
石原さとみちゃんのジュリエット、
きっと私が観た頃より更に進化していたのでしょうね。
あの薬を飲むまでの葛藤は、蜷川演出の鈴木杏ちゃんの演技も大好きなのですが、
また違った趣というか感情の流れがあって、見入っちゃいました。
二人とも素敵な女優さんですねv
「ロミオとジュリエット」はシェイクスピア作品の中でも
結構思い入れもあり、回数も観ているので自分的には
少し辛口になったかもしれません。
そういえば、石原さとみさんも鈴木杏ちゃんもヘレン・ケラー経験者。
若くて実力のある女優さんが通る関門ですね。