
2008年の鈴木勝秀さん演出・篠井英介さん主演版、そして昨年は蜷川幸雄さん演出「ミシマダブル」の東山紀之さん主演版。いずれもオールメールのキャストで、登場人物は女性のみだというにもかかわらず、女優さんが演じるこの作品を観るのは初めてだということに、観ていてふと気づきました。
「サド侯爵夫人」
作: 三島由紀夫
演出: 野村萬斎
出演: 蒼井優 美波 神野三鈴 町田マリー
麻実れい 白石加代子
2012年3月25日(日) 1:00pm シアター・ドラマシティ
12列センター
篠井英介さん主演版の感想を書いた時に冒頭に挙げた三島由紀夫の言葉を今回の役者さんの名前を入れて再掲。
「サド侯爵夫人(蒼井優)は貞淑を、夫人の母親モントレイユ夫人(白石加代子)は法・社会・道徳を、シミアーヌ男爵夫人(神野三鈴)は神を、サン・フォン伯爵夫人(麻実れい)は肉欲を、妹アンヌ(美波)は女の無邪気さと無節操を、召使シャルロット(町田マリー)は民衆を代表して、これらが惑星の運行のように、交錯しつつ廻転してゆかねばならぬ」 by 三島由紀夫18世紀末 絶対王政が絢爛を極め、退廃の色濃いパリ。数々の乱行から逮捕・投獄を繰り返し、猟奇的なスキャンダルがつきまとう夫に貞淑であることを貫くサド侯爵夫人・ルネ(蒼井優)。体面や道徳を重んじる母・モントレイユ夫人(白石加代子)は二人を別れさせようと画策しますが、ルネの決意は固く、対立する母娘。年月を経て夫がついに解放される日がやって来た時、ルネの取った行動は・・・。
舞台に幕はなく、最初から半円形に石垣に覆われた部屋が見えています。
袖から登場した召使シャルロットが床に降ろされていた鉄のシャンデリアを引っ張り上げるのを合図に芝居が始まります。二幕も同様ですが、三幕では、シャルロットはシャンデリアを引っ張り上げず、少しだけ宙に浮く形。そしてその幕の終わりにはそのシャンデリアが落ちてゴトンという音を立てて転がるのでした。
野村萬斎さんの演出は、奇をてらったところがなく原作に忠実でオーソドックスという印象。
最初のシーンから6年後に二幕、さらに13年後に三幕、と戯曲通りに舞台は進行します。上述したシャンデリアがその時間の経過や状況の変化、ひいてはサド侯爵自身の立場までもを象徴しているように感じられるのが目を引きました。
衣装(半田悦子さん)はかなり凝っていて斬新。二幕のアンヌやサン・フォン伯爵夫人はミニスカートでした。いや~、麻実れいさんのおみ脚、相変わらずお美しい。
「芝居の極限はセリフだけがアクションであること」と三島由紀夫さんはおっしゃったそうですが、今回の演出にあたって萬斎さんが掲げたテーマは「言葉の呪縛」。三島由紀夫の修辞をこらした膨大な台詞に演出家も役者も大格闘といった観あり。この芝居は「観る」というより「聴く」ものだと改めて感じました。
蒼井優さんは、口跡がいささか甘く、七五調の台詞には苦心されているご様子でしたが、芝居巧者の白石加代子さんや麻実れいさんを向こうに回して、まさに全身全霊で演じてるといった雰囲気。二幕で白石加代子さんのモントレイユ夫人と堂々と渡り合って激しく対峙した後、「アルフォンス(サド侯爵)は私です」と凛と言い放つ姿、そして三幕の修道院に入る気持ちを告げる長い一人台詞は圧巻でした。この幕切れの台詞 「お帰ししておくれ。そうして、こう申し上げて。『侯爵夫人はもう決してお目にかかることはありますまい』と」 も聴かせてくれました。
ただ、やはりルネという人物は感覚的に理解しにくいです。スキャンダラスな獄中の夫と離婚もせず長い年月を献身的に尽くし、やっと釈放されたとなると今度は自分から拒絶するに至るルネ。
「貞節」という言葉を繰り返すルネや、いつも十字架とともにあるシミアーヌ男爵夫人よりむしろ、本能のままに生きて歯に衣着せず物を言うサン・フォン伯爵夫人(麻実れいさん。カッコよかった!)や、姉の夫とヴェニスへ逃避行し、そのことをあっさり忘れて結婚してその夫とともにフランスを逃げ出そうとするアンヌの方がより人間的に感じられるのは、私が俗物だからということでしょうか。
カーテンコール。
大楽ということもあってか、すでに感極まったような表情を浮かべていた蒼井優さん。
3回目のカテコで客席がオールスタンディングとなり驚いたように目を見張って深々と下げた頭を再び上げた時にはぽろぽろ涙をこぼしていました。そんな彼女を愛おしそうに抱き寄せる白石さん。まるでほんとの母娘のようでした。
大量の台詞 集中して聞き過ぎて頭痛くなりました の地獄度



むぅ…やはり台詞は膨大!長台詞!私は蜷川演出のサドからしか知りませんが、これはじっくりと耳を傾けて行かないといけませんね。
私も初日だったか…観る予定でしたがジッとしているのが少々ツライ状況のため嫁がせたんですが、ほぼ台詞劇ともなると今の私じゃ集中できそうになかったのでスキップさんのレポとちょっと違うけど蜷川サドの情景とを浮かべながら脳内で再現させました。
ホント、ありがとうございました♪
いつも読んでいただいてコメントも残していただきありがとうございます。
お体だいじょうぶですか?
この作品はほんとに台詞の量がハンパないし、上演時間も長いので
ジッとされているのが辛い状況では楽しめなかったかもしれませんね。
早く全快されますようお祈りしています。
「シレンとラギ」の初日には間に合いますように。