
黒いスーツに身を固めた男女がメタリックかつ浮遊感のある独特なダンスを踊るオープニング。あぁ、第三舞台ってこんな感じだったよなぁ~と10年以上の時を一気にタイムスリップする思い。
第三舞台封印解除&解散公演 「深呼吸する惑星」
作・演出: 鴻上尚史
出演: 筧利夫 大高洋夫 小須田康人 長野里美 山下裕子 筒井真理子 高橋一生 荻野貴継 小沢道成 三上陽永
2011年12月25日(日) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール G列下手
黒い服を着た人たちは自殺したある若者のお葬式に何某かの縁があって集まった人たち。その中の一人が、「TwitterとかFacebookとか、その人が死んだらどうなるんだろう」とつぶやきます。あるブログが気になっているのだが、それを書いた人はもう死んでしまっているのではないか、と。そしてそのブログに書かれた物語・・・「その惑星の名は希望・・・」から物語はSFの世界へ。地球連邦軍が駐留する惑星アルテア65。
アルテア人の首相(小須田康人)が統治し地球人の軍人(大高洋夫)が駐留するこの惑星では、軍人の自殺率が異常な高さを示していて、その原因を解明しようと地球から研究員・桜木(長野里美)が派遣されてきます。その世話係は西田(山下裕子)というアルテア人で、地球人と結婚してできた息子・銀河(高橋一生)はハーフアース。優秀さを買われて首相の秘書官となります。一方、惑星の共同墓地で6年前に倒れていたところをレイ(筒井真理子)に助けられた神埼(筧利夫)にはそれ以前の記憶がありません。彼にはいつも自分のそばにいて話を聞いてくれる“友人”(高橋一生/二役)がいますが、その姿は神崎にしか見えません。
架空の星の物語でありながら、アルテアと地球の支配関係に日米関係が透けて見えたり、環境問題や社会の危機的状況といった今の日本、今の世界が重ね合わさったり。シリアスの狭間にギャグを織り交ぜ、第三舞台の昔と今を交錯させながら、やがて浮かび上がるのは、心の奥底に封じ込められた青春時代の悔恨と痛み、喪失感。
キリアスの花に由来する幻覚と自殺の謎解きもさることながら、やはり主題は、桜木と神崎=富樫と橘の学生時代に封印された“想い”。
桜木の幻覚の中で、橘(高橋一生)が富樫(筧利夫)に、「ここから飛び降りたくなることがあったら、その時はどこにいても駆けつけよう」と言い、「ああ」と富樫が応える場面で泣きそうになり、結局先に命を断ってしまった橘が最後に、「僕のブログを読んでくれてありがとう」と富樫と抱擁するシーンではもうダダ泣きです。
もう一つ。アルテアに駐留している地球軍の仲井戸(大高洋夫)がレイ(筒井真理子)に言った「また自分の人生を愛することができる日が来るなんて」という台詞。
軍の幹部の娘と不倫して以来、ずっと辺境の惑星にばかり駐留させられ、自分の人生も、自分自身さえも見限っている仲井戸をそんな気持ちにさせる力が人の愛にはあるのだなぁ、としみじみ感じました(レイさんの愛は本物ではないってところはこの際おいておくとして)。生きていくことの切なさといとおしさが感じられる台詞の数々。鴻上さん、相変わらずやってくれます。
第三舞台という劇団の、第三舞台に対するオマージュのような作品。
私はずっと第三舞台を観続けてきた者ではないし、鴻上さんにも役者さんたちにもことさら思い入れがあるという訳ではありませんが、それでも、たとえば長野さんの着ぐるみのように、「そうそう、これ」と懐かしむ場面があったり、自分が第三舞台のお芝居を観ていた頃の心情が蘇ったり、自分の今の思いを見透かされたような台詞があったりで、中盤以降はずっとウルウルでした

役者さんたちはもう何も言うことはありません。
もちろんあて書きなので、それぞれのキャラが立っていて10年のブランクなんか全く感じさせないくらい軽快な動きで息もぴったり。
そんな中、第三舞台には初参加の高橋一生くんの佇まいが何ともステキでした。あの端正なお顔のポーカーフェイスと、対照的にくしゃっと崩した笑顔。たまりませんね。
クライマックスで天から降り注いでくる黄色いキリアスの花びらをいっぱい浴びたせいという訳でもないけれど、大千秋楽ライブビューイング参戦決定!です。
そのキリアスの花吹雪舞う中で皆が幻覚と闘う場面で流れたスピッツの「恋する凡人」をはじめ、音楽もかなりキュンキュンものでした。


筒井真理子さんには、「昔からバケモノだったけど、ますますバケモノです」と。ほんとに変わらずお若くお美しい。

♪恋する凡人 試されてる 狂った星の上 のごくらく度


