2011年12月26日

守ってきたものと失うもの 「みんな我が子」

minnawagako.jpgすべてが会話の中から生まれ、会話の中で明らかになっていくスリリングなサスペンス風味の会話劇。

「みんな我が子」
作:  アーサー・ミラー
演出: ダニエル・カトナー
翻訳: 伊藤美代子
出演: 長塚京三  麻実れい  田島優成  
    朝海ひかる  柄本佑  隆大介  
    山下容莉枝  加治将樹  浜崎茜

2011年12月21日(水) 7:00pm サンケイホールブリーゼ 1階D列センター


第二次世界大戦後のアメリカの一家のある1日の物語。
世界大戦中に飛行機の部品工場を経営していたジョー(長塚京三)は妻ケイト(麻実れい)、息子クリス(田島優成)と三人暮らし。クリスの弟ラリーは戦争で行方不明になったままでした。そんなある日、ラリーの恋人だったアン(朝海ひかる)が一家のもとを訪れます。アンは今はクリスと惹かれ合っていて、二人は結婚するつもりでいるのですが、ラリーが生きていると信じるケイトは頑なに二人の仲を認めようとしません。また、アンはかつてジョーの仕事のパートナーであり隣人でもあったスティーブの娘でもあります。大戦中、ジョーの工場から出荷された不良品が原因で、墜落により21人もの若者が死亡するという事故が起き、スティーブはその罪を問われて服役中でした・・・。いかにも古き良きアメリカを思わせる白壁のカントリー調の建物とウッドデッキがある広い庭のみで物語は展開されます。その庭の隅にある大木が、前夜の嵐によって折れて倒れてしまったことが何かを暗示するような朝。
事業で財をなした父とジュースを手づくりするような家庭的な母、両親のことが大好きな息子・・・いかにも幸せそうで裕福なファミリー。問題を抱えながらもギリギリのバランスで保たれていた家族の関係が、アンの来訪によってそれぞれの軋みや歪みが露わになっていくのでした。

物語が俄然緊張感を帯びてくるのは休憩後の2幕。アンを連れ戻しにやってきた兄ジョージ(柄本佑)の登場から。
ジョージは、獄中の父から「何か」を聞き出し、「確信」を持ってジョーの元を訪れます。
1幕の終わりでは、「どうする?彼がやってくるのよ」と敵意とも取れるような不安を見せていたケイトが、それをおくびにも出さすに満面の笑みでジョージを迎え入れ、昔と変わらず「息子も同然だ」と接するジョーに一度は心を許しかけたジョージでしたが、ケイトのひと言から二人の嘘を見抜きます。
このジョージを演じた柄本佑さんが独特のニュアンスですごく上手い。これまで映像でしか拝見したことがなかったのですが、上背もあるし、舞台でももっと活躍していただきたいです。

表向きは円満に見えた家庭や優しく誠実そうに見える人物も、やがて裏の顔が現れ、隠された真実が露呈していきます。本当だと思っていたものが嘘だとわかり、正義だと思っていたものが悪だとわかり、会話そのものにも表と裏があることを知ることになるのです。
互いに認め合い、よい関係を保っていた父(ジョー)と息子(クリス)に待っていたのは、真実を知る代わりに二度と埋めることのできない溝。
人は人への愛情を持ち合わせる一方で、金銭や保身に執着し、そのためには平気で人を裏切り、陥れもするということを目の当たりに見せつけられて、何ともやり切れない気分にもなります。

ジョーからイメージされるのは、アメリカン・ドリームを背負った世代の父親像。常にファイティングポーズを取っているような強く誇り高いアメリカの父。ですが、長塚京三さんのジョーはそれとは少し異質でした。陰影を滲ませ、少し屈折した、悔恨も抱えているようなシニカルな雰囲気は、現代の悩めるアメリカ人により近いように感じました。

対する麻実れいさんのケイト。現実を直視できない脆さ、繊細さと、夫と子供たちを支えて家庭を守ってきたというたくましさや自負も感じる母親像。当たり前だけど宝塚の男役でブイブイ言わせてたころの面影は微塵もありません。
カーテンコールの時、長塚さんと腕を組んで上手にはけながら、とびきりチャーミングな投げキッスを見せてくれました。


千秋楽だったので、カーテンコールではお一人ずつからのご挨拶があり、口々にこのカンパニーのすばらしさを語る役者さんたち。
浜崎茜さんは感極まって涙を浮かべていらっしゃいました。
そして山下容莉枝さんは、「またいつかこのカンパニーでやりたいから、さよならは言いません・・・またね」と。


いやしかし、会社帰りの疲れた頭にはいささかハード の地獄度 ふらふら (total 866 わーい(嬉しい顔) vs 868 ふらふら)
posted by スキップ at 23:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
同じ日にわたくしも観ておりました!

でも,バルコニー席だったので…です。

右側のバルコニー席のため,
観ることができないシーンが多かったです。
(>_<)

身を乗り出して観たかったんですけど。。。
Posted by 佳奈りお at 2011年12月27日 18:45
スキップさま
ワタクシはトークショーがある火曜日に観劇しました。三一致の法則は演劇の様式のひとつと割り切っても、急転直下、あれよあれよという間に幸福の絶頂から転落なさいましたので、只ただ、わーんとなりました。わーんではでは、子どもと一緒なんで恥ずかしいですが、正直なところです。
ご感想を拝読しまして、落ち着きました。ありがとうございました。
Posted by とみ(風知草) at 2011年12月27日 21:44
♪佳奈りおさま

またまたご一緒でしたか!

観る席によって舞台の印象ってずい分変わりますね。
特に今回のような台詞劇の場合は、役者さんの表情とかが
見切れてしまうのは結構ツライものがあるかもしれません。
2日間の公演ではリベンジ、という訳にもいきませんものね~。
Posted by スキップ at 2011年12月28日 23:50
♪とみさま

私もトークショー聞きたかったです。
チケットを取る時、トークショーあるって知っていたのに
勝手にこちらの日を選んでしまった千秋楽フェチの指が憎い(笑)。

最初からよくないことが起こりそうな予感の幕あけでしたが
結構頭が疲れる内容でした。
カーテンコールの役者さんたちの笑顔に救われた思いです。
Posted by スキップ at 2011年12月28日 23:53
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