2011年04月23日

結局「日本人のへそ」って


heso.jpg昨春亡くなった井上ひさしさんの追悼ファイナルと銘打った舞台。1969年 劇作家としての本格的デビュー作です。


井上ひさし追悼ファイナル こまつ座第九十三回公演
「日本人のへそ」
劇作・脚本: 井上ひさし
演出: 栗山民也
音楽: 小曽根真
振付: 謝珠栄
出演: 辻萬長  笹本玲奈  石丸幹二  たかお鷹  
山崎一  植本潤  明星真由美  小曽根真 ほか

2011年4月17日(日) 1:00pm シアター・ドラマシティ 8列下手



2幕構成で、第1幕は吃音症の患者たちが、教授(辻萬長)の指導のもと、治療法として音楽劇を上演する設定。岩手の田舎で育った少女が集団就職で上京し、クリーニング店をはじめ職を転々とした後、浅草でストリッパー・ヘレン天津(笹本玲奈)となり、やがて曲折を経て代議士の愛人になるまでを描きます。第2幕はこの劇中劇で起こった殺人事件の謎解きのとなり、終盤にオドロキのどんでん返しが・・・。

むかしある所にカタナ国がありました
そこの王様アイウエ王は王子を残して亡くなりました
そこで腹黒カキクケ公は王位に就こうと企みました
ところが名僧サシスセ僧が
王子をタチツテ島に逃がしてやりました
そこにはナニヌネ野原がありまして
ハヒフヘ法という魔法を使う仙人がいて・・・

みたいな言葉遊びのコーラスから始まる音楽劇です。
このアンサブルコーラスの手法は、「藪原検校」「道元の冒険」といった井上さんの戯曲でも顕著でしたが、デビュー作という初期の段階から確立されていて、やはり井上さんの原点なのだなぁ、と改めて感心。

1969年という高度成長期の日本を象徴するような猥雑なエネルギーにあふれた作品。
東北の田舎の慎ましい暮らしと華やかな東京の対比、そこでスポイルされていく純朴な少女、ストリップ劇場の労働争議を通じての社会批判、右翼とつながる政治家・・・井上さんの権力へ反骨心が随所に表れ、研ぎ澄まされ選び抜かれた言葉へのこだわりも圧巻で、40年以上前の作品とはいえ現代に通じる普遍性もあり、楽しめました。


それがこの物語のキモと言っていいのかよくわからないのですが、最後のドンデン返しにはほんとにヤラレタ、としか言いようがありません。
第1幕で、ヘレン天津が劇中劇であるにもかかわらず、教授(辻萬長)に「あなた」と言ってしまって、「シッ!」とたしなめられる、という場面が挿入されていましたが、最初の謎解きでは、「ああ、あれがそういうことだったんだ」と納得したものの、トラップはそれだけではありませんでした。観る側の想像を超えて二転三転。最後まで目が離せない舞台でした。

そのドンデン返しの一翼を担ったピアニスト役は小曽根真さん。
言葉ではなく演奏で出だしの音がどもるというピアニスト。劇中流れるピアノがステキな曲で、お上手だなぁと思っていたのですが、観劇前にあらすじはもちろん、出演者もあまりチェックする方ではありませんので、小曽根さんが出演されていることを知らず、席が下手だったこともあって(ピアノは舞台の上手にあり、そこでずっと客席に背をむけてピアノを弾いている)、1幕の終わり頃までそれが小曽根さんだと気づきませんでした。今回は曲も小曽根さんが新たにつけたものなのだとか。

劇中劇をはじめ、一人で何役も演じる出演者の中にあって、一貫してヘレン天津を演じた笹本玲奈ちゃん。
田舎の少女役はちょっとステレオタイプのようにも感じましたが、都会で垢抜けていき、妖艶なストリッパーから、着物がきりりと似合い貫禄すら漂う政治家の東京妻へと変貌していく姿、演じ分けが見事。のびやかな歌唱は相変わらずのすばらしさですが、大胆な脱ぎっぷりにも目を見張りました目ほんとにスタイルいいなぁ。

歌唱といえば、辻萬長さんがあんなに唄えることにもオドロキ。
オドロキといえば、石丸幹二さん。端正なイメージを持っていたのですが、ニセ学生やヤクザやと七変化の大活躍。ヘレン天津の田舎のお父さん役は、これまた最初は石丸さんだと気づきませんでした。
逆に山崎一さんや植本潤さんはもっと活躍してほしかったなぁ。もったいない使われ方だったような。二人とも手ぬぐいを姉さんかぶりして田舎のおばちゃん役やってたのは笑っちゃったけど。

helen.jpgそれにしてもこのタイトル「日本人のへそ」
井上さんが言いたかった日本人のへそって、何なのでしょう。




プログラム買わなかったのに携帯クリーナー買うってどーなん? 
だってカワイかったんだもーん のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 772 わーい(嬉しい顔) vs 772 ふらふら)


posted by スキップ at 23:45| Comment(2) | TrackBack(1) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この作品、色んな要素がぎっしり詰まってて、
お腹一杯状態でした。(笑)
キャストの面々は本当に素晴らしく、
1人で何役も演じ分けた皆さんに感動しきり。
石丸さんの父親役も、かなりド肝を抜かされましたが、
たかおさんの振付師役がピカイチ!(笑)
もぉ~大笑いさせてもらいましたよぉ。

でも一番のピカイチは小曾根さんかも!?(笑)
Posted by 麗 at 2011年04月24日 22:10
♪麗さま

井上さんらしいお芝居でしたね。
デビュー作にしてあの作風が完成していたのかと少し驚きました。
たかお鷹さんは、こんな人だったんだ~っていう・・(笑)。

でも私はやっぱり笹本玲奈ちゃんかな。
ミュージカルをあまり観ないので、まだそんなに舞台を観たことが
ないのですが、「ピーターパン」も「プライド」もよかったし、
これからも注目していきたい女優さんです。
Posted by スキップ at 2011年04月26日 05:22
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Excerpt: 井上ひさし追悼公演のファイナル。 観に行ってきました! 「日本人のへそ」 井上さんの劇作家としての本格デビューとなった本作品。 東北地方の大地震で、大変な時期ですが、、、行ってよかった! .....
Weblog: ARAIA -クローゼットより愛をこめて-
Tracked: 2011-04-24 21:57