2011年04月13日

こんな日は明日が信じられる 「焼肉ドラゴン」

dragon.jpg26年間住み続けた街を去ることになった金龍吉・高英順夫妻。住みなれた家も、街も、ここで過ごした年月も、喜びも悲しみも、すべてを覆いつくすように降り注ぐ桜の花びら。
一面を桜色に染め上げる花びらを眺めながら龍吉が言う。
「2年前にも屋根の上で、時生とトタン屋根に舞い散る桜を見た。いい日だ。こんな日は明日が信じられる。たとえ昨日がどんなでも」

「焼肉ドラゴン」
作・演出: 鄭義信
翻訳: 川原賢柱
出演: 申哲振  高秀喜  千葉哲也  粟田麗  占部房子  若松力  笑福亭銀瓶  佐藤誓  水野あや  山田貴之  朴勝哲  朴帥泳  金文植  朱仁英

4月10日(日) 1:00pm 兵庫県立芸術文化センター 中ホール 1階A列センター


1969年。大阪で万国博覧会が開かれる前年の日本。空港がある関西の地方都市(伊丹市中村地区がモデルらしい)の焼肉屋「焼肉ドラゴン」の店主 金龍吉(申哲振)は、再婚した妻 高英順(高秀喜)と、先妻との間の二人の娘、英順の連れ子、そして二人の間に授かった一人息子と暮らしています。娘たちは必ずしも親の意にそわない男と結婚したり、大切に育てた息子は学校でいじめにあい、家は立ち退きを迫られ・・・次々と一家を襲う出来事。

高度成長真っ只中の1970年前後を時代背景に、在日朝鮮人が不法占拠する(とされる)街の焼肉屋を舞台に、在日コリアン一家が、歴史と社会に翻弄され、苦難にさいなまれながらもたくましく生きる3年間を描きます。そこに織り込まれるのは、日韓の歴史はもとより、第二次世界大戦や済州島事件、差別、教育、結婚、ジェンダーなど様々な問題や「在日」と韓国人との確執など。

2008年に大評判をとった舞台の再演です。
映画「月はどっちに出ている」で有名な鄭義信さんの作・演出は切なくなるくらい厳しいこの一家の生き様を明るく、ユーモアたっぷりに描き、また、そこに生きる人々を実に生き生きと臨場感たっぷりに活写しています。
役者さんはいずれも、ほんとにその人物なんじゃないの?というくらいハマっていて、まるで隣町にいるコリアン一家とその周りの人々を見ているよう。中でも金龍吉を演じた申哲振。
いずれもハイテンションにまくし立てる役者さんたちの中にあって、寡黙で穏やかながら一徹な家長の重みを感じさせます。
冒頭のセリフは一幕とニ幕に1度ずつあって、最初は、息子の時生と一緒に屋根に上り、トタン屋根を覆っていく桜の花びらを見ながら、「きれいだ。いい日だ。こんな日は明日が信じられる。たとえ昨日がどんなでも」と言います。
この時点でかなりウルウル。それが物語の最後に家を失い、時生はすでにこの世になく、それでも「こんな日は明日が信じられる」と穏やかに告げる龍吉。もう号泣ですたらーっ(汗)たらーっ(汗)たらーっ(汗)
「疲れている時は意地悪な気持ちになるもんだ」など、龍吉の言葉は一つひとつ心に沁み入ります。そんな龍吉が、娘の結婚相手に向かって「昔話をしてもいいですか?」と、静かに語り始めるこれまでの人生。

「戦争が終わって妻と娘二人を連れて故郷に帰る日。 家財道具を船に乗せた後、次女が熱を出した。 一本船を遅らせたら家財道具を乗せた船は沈んだ。全財産が消えた。
私は、働いた 働いた 働いた。
妻を病気で失った。私は子供を抱え、働いた 働いた 働いた。
その後、故郷に事件が起こった。自分の両親も妹も親戚も友人も全て殺された。 帰る故郷を失った。私は、働いた 働いた 働いた。
その後、今の妻に出会った。妻も子供を抱えていた。娘は三人になり、息子が生まれた。
私は、働いた 働いた 働いた。
日本で暮らすことを決意し、働いた 働いた 働いた。
そして、私は歳をとった。
これが、私の運命。
これが、私の宿命。」

まるでおとぎ話でも聞かせるように訥々と語った後、「娘をよろしくお願いします」と凛と頭を下げる龍吉・・・どうして泣かずにいられるでしょうたらーっ(汗)たらーっ(汗)「働いた 働いた 働いた」という龍吉の静かな声が、耳から離れません。

いつも穏やかな龍吉が一度だけ激昂する場面。
立ち退きを迫る市の職員に、「わしはこの土地を買うた。佐藤さんに金払て買うた。それを取り上げるというなら、この腕を返せ、わしの息子を返せ!」とそれまで抑えに抑えていた感情を一気に爆発させるのです。

一方、妻の高英順(高秀喜)は、見かけも内面も肝っ玉かあさん。感情豊かに、怒って笑って泣いて、夫と子供をとても愛している家族の要といえる強くたくましい母親です。
自分の子供も、先妻の二人の娘も分け隔てなく慈しみ大切に育ててきたことがわかる大らかなお母さん。だけど彼女にとってもたった一人の男の子、時生だけは特別な存在で、その時生がいじめを苦に目の前で屋根から飛び降りて自殺した時の茫然自失ぶりは痛々しすぎて、観ていて辛かったです。時生、どんな姿でもいいから生きていて、と願ったほど。
それでもたくましい彼女。立ち退きを迫られ、生きる希望を失ったように見える夫に、「私はまだまだがんばれまっせ」と言うので、店をまた一から・・と思ったら、「何なら今晩これから息子つくりましょか?」にはワラッタわーい(嬉しい顔)

その時生は、物語の最後にもう一度屋根の上に登場して、「僕はこの街が大嫌いです」と冒頭のセリフを繰り返した後、「僕は、僕はこの街が大好きやったんです」と言います。ここでまたナミダたらーっ(汗)もうこのあたりは涙でぐしゃぐしゃです。

もう一人印象に残ったのは、次女の最初の結婚相手・李哲男を演じた千葉哲也。
実は長女の静花のことがずっと好きなのに、自分が怪我の原因をつくり、静花の右脚が不自由になってしまったことに負い目を感じて素直になれないでいて、差別される社会を嫌悪し、人生の目標を見失って何もかもうまくいかない閉塞感に押しつぶされそうな哲男。最後には一途な思いを吐露し、静花も哲男の思いに応え、二人は結ばれます。千葉さんが出ることは知っていたのに、あんまりコリアン一家になじみ過ぎていて、しばらく哲男が千葉さんだと気づきませんでした。
だって、「蛮幽鬼」では京兼惜春ですよ。あの策略家の惜春がこんなダイレクトな在日青年になるとは。
そんな哲男が新天地として選んだのは、当時“地上の楽園”と謳われた「北」。
でも、北の今を知る私たちは、哲男と静花の行く末を思うと暗澹たる気持ちにもなります。

ラストシーン。
子供たちがそれぞれ旅立ち、二人きりになってあり合わせの家財道具だけを積んだリヤカーで出発する時、大きな体をぽーんとジャンプさせてリヤカーに飛び乗る英順。
「なんや、押すんとちがうんかいな」
「私は足が悪いんです」
「いつからや?」
と淡々と交わす夫婦の会話がほろ苦くも微笑ましい。
妻の乗ったリヤカーを引き、段差を上がれず一旦引き返して、勢いをつけて「お~りゃあああぁぁ~」とリヤカーを引いて走り去っていく後ろ姿に泣き笑い。

多分これまで観た舞台の中で自分比最速でスタンディングしたと思います、カーテンコール。
涙ナミダ。拍手しては涙をぬぐい、涙を流していらっしゃる高秀喜さんを見てはまた涙、と、泣きすぎてアタマ痛くなった日曜日の午後。こんな舞台に出会えるから、観劇はやめられません。

IMG_4509.jpg IMG_4510.jpg

精巧につくられた舞台装置のミニチュアと「焼肉ドラゴン」の看板。
看板は初演をご覧になった彫刻家の呉桂南さんが舞台に感銘して製作されたものだとか。


まだ4月だけど今年のNo.1かも のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 769 わーい(嬉しい顔) vs 766 ふらふら)
posted by スキップ at 23:51| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
『焼肉ドラゴン』、ご覧になったのですね。羨ましい~。
初演は見たのですが、再演は見に行かなかったのですよ。
レポ読んだら、やはり観劇すれば良かったと後悔…。
素晴らしい舞台ですよね。
Posted by 花梨 at 2011年04月18日 01:48
こんばんは。
私は初演の時に花梨さんが絶賛されていたのをブログで
読ませていただいて、観なかったことをとても残念に
思っていましたので、今回の再演を知った時はすごく
うれしくて気合い入れてチケット取りました。
・・・なので最前列のセンターです(笑)。

そして、思ってた以上にすばらしく、心ゆさぶられる舞台
でした。できることならもう1回観たいです。
すぐでなくてもいいのでまた再演されるとうれしいなぁ。
Posted by スキップ at 2011年04月19日 00:19
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