2011年04月03日
覚悟の団七 「夏祭浪花鑑」
疾走感とか躍動感とか、はたまた迸る若さとか、中村勘太郎の団七を語る言葉はたくさんありますが、私が一番感じたのは「覚悟」。
父の代わりを勤める覚悟、中村屋を背負っていく覚悟、そして、この団七九郎兵衛という役を、やり抜く覚悟。
桜壽博多座大歌舞伎 夜の部 「夏祭浪花鑑」
演出・美術: 串田和美
出演: 中村勘太郎 中村橋之助 中村扇雀
中村七之助 笹野高史 坂東彌十郎
片岡亀蔵 尾上松也 ほか
2011年3月26日(土) 4:00pm 博多座 1階C列下手
開演前 紋付袴の正装で舞台にただ一人正座して述べる勘太郎くんのご挨拶を聞いていてすでにウルウル。
やせたばかりでなく、とてもシャープになった頬影と一段と大人びた印象。このひと月が彼にとっていかにハードなものだったであろうことに思いを馳せる。
ほんとにいい男っぷりです。勘太郎くんの団七。
登場からあんまり男前すぎてクラクラ眩暈がしそうでした(笑)。
串田さん演出の「夏祭浪花鑑」を観たのが2002年大阪の平成中村座で、その時がこの演目を観たのも初めてでしたので、私の中で団七=勘三郎さんのイメージが出来上がっています。11月にも大阪城で観たばかりでしたし。
勘太郎くんの団七は、初役で、急な代役なので、もちろん勘三郎さんの団七を踏襲していて、しかも驚くほど声や言い回しが勘三郎さんと似ているところもありますが、博多座の団七はまさしく「勘太郎の団七」でした。ここに中村勘太郎という役者の非凡を感じます。
長町裏で、義平次に雪駄で額を割られ、「男の生き面を~」と、綺麗な顔を憤怒の表情に変え、燃えるような殺意の炎が一瞬目に宿るのを観た時、涙が出ました。「あぁ、団七、もう引き返せない」と、この後に訪れる悲しい運命を思って。串田版に限らずこれまで何度も観て来た「夏祭浪花鑑」ですが、ここで泣いたのは初めて。「悪い人でも舅は親。親父っどん、許してくだんせ」の言葉がこれほど胸に迫ったことはありません。
もう一場面泣いたのがラストのストップモーション。
捕り手に追われる団七と徳兵衛の二人が舞台奥に駆けて行き(大阪城の時はここで奥が開いてジャンプ、でしたが)、開かない壁を叩いて絶望の表情を見せた後、踵を返して今度は客席に向かって駆け出してくる・・・その時の舞台半ばでのストップモーション。
私の大好きな映画「明日に向かって撃て!」で、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドが響き渡る銃声の中駆けだして行ったように、負けるとわかっている戦いに最後まで望みを持って挑んでいく姿に涙。
・・・余談ですが、ストップモーションといえば、新感線の「髑髏城の七人」を初めて観たとき、ラストの七人のストップモーションで大泣きした記憶が・・・その後によかった~なオチもあるのですが。今年はその「髑髏城の七人」再演。楽しみです。
勘太郎くんの身体能力の高さ、踊りで鍛えた姿の美しさにも見惚れるばかりでした。
終盤屋根の場での役人左膳(中村いてう)との立ち回りの躍動感と迫力といったらなかったです。立ち回りの中で両足を広げたまま飛び上がっている団七の写真が番付の舞台写真に入っているのですが、こんなにジャンプしているのかとつくづくオドロキます。
花道横、ちょうど七三の位置だったので、見得をする団七をほんとにかぶりつきで堪能できたのも幸せ 三婦の家から「しもたぁっ!」と琴浦を連れ去った義平次を追いかけて駆けだす時、右足を一歩踏み出しての見得の低さ、美しさには目を見張りました
最後の立ち回りの大梯子のところはちょうど真下から見上げる形になって、こんな経験も初めてでしたので、かなり心踊りました。
橋之助さんはじめ共演者の方々が、自分の役目はしっかり果たしつつ勘太郎くんの団七を盛り立てようとしているのが伝わって、本当によい舞台でした。
千穐楽カーテンコールでは役者さんたちが勘太郎くんを胴上げ。橋之助さんに促されて挨拶をした勘太郎くんの言葉を補う七之助くん。舞台上で互いに労い、肩を組み、写真を撮り合ったり。時節柄か勘三郎さんの休演を慮ってか、大阪城の時のような派手さはなかったけれど、とても温かい雰囲気が漂っていて、観ているこちらまで幸せな気分になりました。扇雀さんのブログに楽しそうな写真がアップされています。
私の席のまわりは、古くからの中村屋さんのご贔屓さんと思ししき方々が多数。きっと小さな頃からこのご兄弟を見守ってこられたのでしょう、号泣していらした方続出でした。
花道から客席通路を笑顔で練り歩く役者さんたち。最後に勘太郎くんに握手もしてもらって 中村勘太郎初役の「夏祭浪花鑑」 私にとっても忘れられない舞台となりました。
勘太郎くん、感動をありがとう のごくらく度 (total 765 vs 764 )
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スキップさんの読んでるだけで、こちらが感動(泣)。
素敵な舞台になったのですね〜!
さすが中村兄弟っ!!
環境もあるけど、やっぱり積み重ねてきた努力だよなぁと改めて感じました。
そうなんです。
無理してでも行ってよかったと思いました。
このレポでは全然書き切れていないのですが、
勘太郎くんの初役とは思えないすばらしさは
やはり、日頃の精進とDNAのなせるワザでしょうか。
小さい頃からやりたかった役、泥で遊んで怒られた、
とか、11月の平成中村座の時も泥場をずっと舞台袖から
観ていたともおっしゃっていましたが、それが
こんなに早くこんな形で実を結ぶなんて。
またきっと団七を演じることになると思いますので
sakurayaさんも機会があればぜひご覧になってくださいね。
> 今度は客席に向かって駆け出してくる
> ・・・その時のストップモーション。
うわっ、ここを読んで鳥肌が立ちました。
なんという演出なんでしょう!
それをあの勘太郎くんがっ。うぇーん。
見たかったよぉーーー。ニューシネマな団七。
写真もえっらい男前だぁ~♪
間違いなく今年の歌舞伎公演で片手に入る舞台ですね♪
まさしく「覚悟」ですね、
感動のレポをありがとうございました!
そおなんですよ。
2002年の扇町公園でも大阪城でも舞台奥が開く演出、
NYバージョンはポリスが出て来て、博多座ではどう
なるのかな、と思っていたらこれです。
串田さん、やってくれますよね。
勘太郎くん、間違いなく当たり役になると思います。
勘三郎さん、嫉妬しちゃうんじゃないかしら、なんて声も
聞かれました。