壽初春大歌舞伎 昼の部の2本目は、坂田藤十郎さん花形時代からのの当たり役。
壽初初春大歌舞伎 昼の部 二、「男の花道」
第一幕第一場 東海道金谷宿なる旅籠松屋の店先
第二場 同 裏の部屋
第三場 同 奥の離れ
第四場 同 奥の離れ
第五場 元の松屋の店先
第二幕第一場 茶屋むさし屋の二階座敷
第二場 山谷堀の料亭万八の離れ
第三場 中村座の舞台
第四場 元の万八の離れ
出演: 坂田藤十郎 片岡秀太郎 市川染五郎 松本錦吾 上村吉弥 坂東竹三郎 中村翫雀 松本幸四郎 ほか
あらすじ: 江戸時代。歌舞伎の女方 加賀屋歌右衛門(坂田藤十郎)は、失明寸前のところを旅の宿で出会った蘭方医の土生玄碩(松本幸四郎)の手術によって救われます。固い友情で結ばれた二人。「日本一の役者になることが本当のお礼」だと言って礼金も受け取らぬ玄碩に、歌右衛門は「必要な時は何をおいても駆けつける」と約束し、後の再会を誓って別れます。数年後、当代一の人気役者となった歌右衛門の元に、やむを得ぬ事情から今すぐ歌右衛門に来て欲しいと苦境を知らせる玄碩からの手紙が届きます。折しも今は舞台の最中。役者にとって何よりも大事な舞台と、大恩人の狭間で悩む歌右衛門。決断を迫られた歌右衛門は・・・。
加賀屋歌右衛門、土生玄碩ともに江戸時代に実在した人物なのだとか。
歌舞伎というより、新派の舞台を観ているような雰囲気のお芝居。テンポよく進みドラマチックで、劇中劇の見せ場もあって、とても楽しめる作品。
役者と医者の「男の友情」を描いた作品、ということですが、藤十郎さんの女方がとてもハマっていて、ときどき「男と女の友情」と勘違いしそうになりました。
玄碩の危急を知らせる手紙を、舞台上で踊っている歌右衛門に、加賀屋東蔵(坂東竹三郎)が小道具の手紙と入れ替えて見せるところから一気に佳境に入る舞台。
役者にとっては舞台が命。その舞台に穴をあけるのは断腸の思いなのでしょうが、一旦定式幕を引いた舞台上で客席に向かって正座し、事の次第を述べて許しを請う歌右衛門。
最初は芝居が中断したことにブーイングが起きていた客席から、「行って来い!」という声が呼応し涙を浮かべて感謝する場面は迫真の演技で、思わずこちらももらい泣き。
この劇中劇の場面は、松竹座の客席のあちこちに役者さんが出没して、大向こうをかけたり野次を放ったり。もちろん「行って来い」の声も上がって、とても臨場感ありました。ホンモノの(?)大向こうさんの「山城屋!」という声と、劇中の「加賀屋!」という大向こうがシンクロしたのもおもしろかったです。
観客に感謝しつつ玄碩の元へ駆けつけて行く歌右衛門が、花道ではなく、実際に客席に降りて通路を走り抜けて行くところ、そして、その舞台の扮装のまま、玄碩が今まさに切腹しようと待つ料亭万八に、まるで判官切腹の時の由良之助のように駆け込んで来る場面もとても引き込まれました。
この時歌右衛門が舞台で演じていた「櫓のお七」の人形振りが絶品で、玄碩の邪魔が入らなければ(笑)、最後まで観てみたかったです。3階席だったせいもあってか、着物の袖から出ている手がほんとうに人形の手のように見えて、思わずオペラグラスでズームして確かめたくらいです。藤十郎さんの至芸、スゴイ!
幸四郎さんの土生玄碩はこれが初役ということですが、武骨で不器用な雰囲気がよく合っていました。ただ、歌右衛門に手紙を書くに至るあたりが、それほど切羽詰まった感じを受けなかったのですが、それもこの人の持ち味でしょうか。
翫雀さんの田辺嘉右衛門は、鷹揚なお殿様っぷりが、「土屋主税」といささかカブるのですが、主税はあんなにものわかりがよかったのに、こちらの殿は・・と思っちゃいました。
静かに歌右衛門を見守る度量がカッコいい竹三郎さん東蔵、相変わらずきりりと美しい吉弥さん奥方富枝、一場面の出番がもったいない秀太郎さん女将お時、そして、眉毛なし染ちゃんお久しぶり~の加賀屋歌之助(もちろん舞台写真お買い上げ・・またかよ)・・・と周りもバラエティ豊か。
この舞台、時間が許せばもう1回観たかったな のごくらく度 (tota 741 vs 742 )
2011年01月22日
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藤十郎さんの歌右衛門、スキップ様のレポを拝読して涙が出て、「ああ、見たかった~」熱が上昇しました。男と女の友情--わかる気がします (^-^;
すてきなレポ、ありがとうございました!!
私は「男の花道」、今回初見でしたが、とてもおもしろく
また感動もして涙して(忙しい)、できればまた観たいと
思っています。
昨年御園座で亀治郎さんが上演された時は、「男の花道」って
何よ?とちょっと訝しんでいたのですが(笑)。
レポを読み返してみると、歌右衛門が玄碩の待つ料亭に駆けつける
ところ、「まるで判官切腹の時の由良之助のように」という一文が
なぜかとんでしまっていて、そのあたり加筆しました。
藤十郎さんはまるで歌右衛門が憑依したような演技で、
お七の人形振りも含めて本当にすばらしかったです。
いつかぜひ東京でも上演していただきたいですね。