
武士が「今生のお別れでございます」という時、言う方は死を覚悟していて、その言葉を受ける方もそれを十分承知の上で、だけどその運命に抗うことなく受け容れてきっぱり別れていく姿が潔くも切ない。
この言葉を言うのが、討ち入り装束にキリリと身を固めた染五郎大高源吾ならばなおさらです。
壽初春大歌舞伎 昼の部
一、玩辞楼十二曲の内 土屋主税
第一場 向島晋其角寓居の場
第二場 土屋邸奥座敷の場
出演:中村翫雀 市川染五郎 嵐橘三郎 坂東薪車 中村扇雀 ほか
1月16日(日) 11:00am 大阪松竹座 3階1列センター
吉良上野介邸の隣家に住む旗本・土屋主税の屋敷が舞台となる、ご存知「忠臣蔵」外伝。
第一場は、赤穂浪士の一人、大高源吾(市川染五郎)が俳諧の師 晋其角(嵐橘三郎)のもとへ、仕官が決まった暇乞いに現れる場面から。
ちょうど居合わせた肥後細川家の家臣落合其月(坂東薪車)に、亡君の恩を忘れ仕官することを非難され、足蹴にされても平然を装う源吾。やがて、「年の瀬や水の流れも人の身も」と其角が詠んだ上の句に、「あした待たるるその宝舟」と脇句をして源吾は帰って行きます。
その夜、その一件を聞いた土屋主税は、「あした待たるる」という下の句を繰り返し思案の末、源吾の真意を察します。隣家の吉良邸から太刀音が鳴りわたるのを聞いた主税は、喜び勇んで要所に高張提灯を灯し、赤穂浪士へせめてもの力添えをするのでした。
やがて、隣家を騒がせた詫びの使者として大高源吾がやって来ます・・・。
1時間15分にコンパクトにまとめられたお芝居で、激しい台詞の応酬や殺陣がある訳でもなく、全編雪景色の中で静かに物語は進みます。
幼い頃、時代劇好きのおばあちゃんの膝の上で育ったせいか、ライト「歴女」で自慢じゃないですが忠臣蔵にも詳しい私。大高源吾のエピソードも刷り込み済みですが、役者さんたちの好演もあって、集中力途切れることなく見応えある舞台でした。
翫雀さんの土屋主税はいかにも、というお殿様っぷり。
隣家の手前、おおっぴらにはできないけれども、内心では赤穂浪士の味方、討ち入りを待ち望んでいる心情が見え隠れしていて微笑ましい。
その主税が、討ち入りを終えた後の大高源吾と対面し、仔細を聞いた後、源吾が戻って行く時の場面が冒頭に書いた部分。
穏やかな表情で、「今生のお別れでございます」と告げる源吾の声にたまらず落涙

染五郎源吾は、常に冷静を装う知性派の浪士という雰囲気で、終始一貫した固めの表情に、内に秘めた覚悟が感じられます。初役ということですが、それにしてもあの黒白の討ち入り装束の似合うこと!もちろん舞台写真お買い上げです

源吾を非難する薪車其月。仕官の話を聞いて、源吾を武士の風上にも置けぬ、と足蹴にまでしますが、真実がわかると切腹して詫びようとする直情的な武士が、生真面目な硬骨漢といった新車さんの持ち味にぴったりでした。

それを万感の面持ちで見送る主税。
「忠臣蔵」の物語には、四十七の(いや、きっともっと数えきれないくらいの)“今生の別れ”があったのだなぁ、と300年以上前の数々の別れに思いを馳せた幕切れでした。
土屋様のお屋敷の外にちょこんと雪うさぎがいました のごくらく度



こういう切ないお芝居は、胸がギュッとなりますがそこが大好きです。
染五郎さん、本当にかっこよかったですね。
またまた好きになってしまいました♪
舞台写真買えず、残念です~
ほんとに切ないお話でした。
わかっていても泣けてきちゃいますよね。
じっと耐える感じの黙した染五郎さん源吾、ステキでしたね。
あの討ち入り装束の写真、寒い間はこれにしよう、と自室の
フォトスタンドに飾っています(この前までは竜馬でした)。