
大阪松竹座 團菊祭五月大歌舞伎 昼の部
摂州合邦辻 合邦庵室の場
出演: 尾上菊之助 中村時蔵 中村梅枝 市川團蔵 中村東蔵 坂東三津五郎 ほか
5月23日(日) 11:00am 大阪松竹座 1階5列センター
あらすじ: 合邦道心(坂東三津五郎)は鎌倉の大名の子息ですが、悪人に陥れられ今は世捨て人となって天王寺の庵室に暮らしています。そのひとり娘・お辻(尾上菊之助)は奉公先の河内国城主・高安左衛門に後妻として迎えられ、玉手御前と呼ばれています。その玉手が先妻の子・俊徳丸(中村時蔵)に恋を仕掛け、俊徳丸は許嫁の浅香姫(中村梅枝)とともにこの合邦庵室に身を寄せています。ある夜そこに現れた玉手御前は、両親の説得にも耳を貸さず、「俊徳丸と夫婦に」と激しい恋心を訴えます。見かねた合邦は高安左衛門への義理立てからついに玉手の脇腹へ刃を突き立てます。苦しい息の中、ようやく玉手が恋の真相を明かしますが、それは、高安家のお家乗っ取りを企む腹違いの兄から救うため、わざと俊徳丸に恋を仕掛け、毒酒で面相まで変わらせたというものでした。そして「寅の年 寅の月 寅の日 寅の刻」に生まれた自らの生血を飲ませることで俊徳丸の病は癒えるのでした。
実はこの演目はずっと以前に文楽で観たことがあるだけで、歌舞伎を観るのは初めて・・・の私が言うのもおこがましいですが、菊之助さんの玉手、すばらしかったです。これが初役。鮮烈デビューと言えるのではないかしら。
紫紺の着物の片袖を頭巾にして静々と歩く花道の出から、ぞくっとするような美しさ、艶やかさ、妖しい色気を漂わせています。狂おしいほどの恋心、胸に秘めた強い想い・・・女の意地と強さと恐ろしさを入魂の演技で見せて、まさにはまり役と感じました。
両親の説得にも聞く耳を持たず、俊徳丸への激しい恋心を語るばかりの、美しさの中にある種冷酷さを併せ持つ菊之助さんの玉手御前を観ていると、合邦が考えていたように、玉手は本当は高安左衛門に手打ちにされてしまっていて、ここに現れたのはその怨霊なのではないか、恋に狂った現世を離れて本当の自分を取り戻し、真実を告げに来た魂ではないか、という思いにかられました。
戸口で「かかさん、かかさん」と呼びかける切ない声、「尼になるなんてもってのほか」と両親の説得をはね退ける冷淡さ、「邪魔をいたさば蹴殺すぞ」と嫉妬にかられて浅香姫に向ける激しさ(この場面、文楽では玉手大暴れだったけど、さすがにそこまではなく。梅枝くん浅香姫の海老反り、キレイでした)、「物語るうちこの刀、必ず抜いて下さんすな」とお腹に刀が刺さったまま血止めをして語る壮絶、「ととさん、お疑いは晴れましてござりまするか」と、それまでの強気を一転、まだ父親に甘える娘の一面を見せ、そして、自分の生血を飲ませた俊徳丸が美しい顔に戻ったのを見届けた時の幸せそうな微笑・・・あんなに強く激しい玉手だけど、とてもいじらしく、哀しくいとおしく感じられて、涙

玉手の両親のお二人がまたとてもよかったです。
東蔵さんのおとくの、ただただ娘を思い、何をおいても戸を開けて娘を中へ入れようとする様や、「俊徳丸への邪恋は嘘であろう」と、すべては嘘と娘を信じたい気持ちは、「女親ってこうだよなぁ」と思いました。
合邦の三津五郎さんも今回が初役ということですが、 元は武士、というのが納得できる毅然とした芯の強さの中に、娘を思う気持ちを滲ませて、でも意地もあり義理やしがらみにも縛られ素直に言えない辛さ、無念さ、そして娘を失う深い哀しみが現れ、すべてが明らかになった終盤、玉手を抱き「でかしゃった」と言いながら大粒の涙をぽろぽろこぼす父の姿にまたしても涙ナミダ


菊之助さん、夜の部は3本すべてにご出演の大活躍。
「京人形」は、初めて観た南座では(番附を見ると平成17年でした)、人形の箱を開けた瞬間、あまりの美しさに客席がどよめいたのを今でもよく覚えていますが、本物の京人形のような美しさはそのまま、踊りがずいぶんやわらかく、力強くなったなぁという印象でした。
そしてこれも初役の「髪結新三」の勝奴。イナセでカッコいい!綺麗な人は何をやっても似合います。
ただ、お父上が兄貴分のためか、いささかお行儀のよい勝奴に見えました。「次はオレの出番だゼ」的な抜け目なさみたいなものがもうちょっと欲しかったかな。
それにしてもすばらしい玉手。初役にして持ち役にした印象 のごくらく度



花形のなかで一番不利だったのが大変な役が初役ばかりでベテランに脇を固めてもらえずの染・七かな。この二人の立場がよくわかります。
み〜んな泣いたはりましたね。「お疑いは晴れましたか。」と「俊徳丸の美しい顔を満足げに見つめる表情」に号泣です。
激しい恋に身を焼き尽くす女にして、忠義の筋を通す烈女、合邦一家の愛娘、それらを融通無碍に往還なさり、配分も自在。それもこれも、ご両親役の愛と絆があればこそです。
今の菊様ならではの娘の側面がワタクシ的には泣きでした。
まぁ、そうだったのですか!
私は團菊祭なのに海老蔵さんが来ないことがおかしいなぁ
と思っていました。
今回の「合邦辻」は玉手の両親はじめ共演が皆さん適役で
見応えがあり、やはり芝居は主役だけのものではないなぁと
感じました。そこに菊パパのそんな深慮遠望があったとは(笑)。
私も泣きました~。
確かに、菊之助さんの美しい玉手は、烈女というより
妙齢の娘さんらしさが色濃く感じられ、ますます哀れが
つのりました。
ご両親役もすばらしくて、忠義というより「親子の物語」
でしたね。
まさに鮮烈デビュー、同感です。
合邦が、こんなにも「親子の情愛」の物語だったとは。
・・・どんどん思い出して、私もまた涙・・・
ほんと両親役の三津五郎丈、東蔵丈も素晴らしかったですね。
だからこそ、親子がこんなに胸に響いたのだと。
芝居は主役だけのものではない! これも実感しました。
東京でもそのうちかかるでしょう(激しく期待)、その時にはどうぞいらして下さい!!
あ、私は今月も大阪に行く予定アリなので、合邦辻閻魔堂に足をのばしたいです。
ほんとに、できることなら何度でも観たい玉手でした。
私も番附の舞台写真観ては泣きそうになっています。
この「合邦庵室の場」だけを切り取ったこと、両親役の
お二人がすばらしかったこともあって、親子の情愛が色濃く
出た合邦でしたね。
はい。東京で上演される折にはぜひとも参上したいと思います。
きびだんごさまは今月も大阪へいらっしゃるのですか。
合邦辻閻魔堂は小さなお堂ですが、玉手の碑が迎えてくれます。
お気をつけていらしてくださいね。