
国立劇場 十月歌舞伎公演
「京乱噂鉤爪(きょうをみだすうわさのかぎづめ)
-人間豹の最期-」
市川染五郎宙乗り相勤め申し候
原案: 市川染五郎 脚本: 岩豪友樹子
演出: 九代琴松
出演: 松本幸四郎 市川染五郎 中村翫雀 市川高麗蔵 中村梅玉 ほか
10月24日(土) 12:00 国立劇場大劇場 1階4列センター
10月25日(日) 12:00 国立劇場大劇場 2階3列上手
昨年まだ公演中に好評のため第2弾の上演が決まった乱歩歌舞伎。
再演ではなく、前作のプロットはそのままに、内容を新たに書き下ろした新作歌舞伎ということのようですが、原作にないものを舞台化する脚本の力量や同じキャラクターを2作続けて持ってくるハードルの高さなど、「続演」「第2弾」の難しさを感じる舞台となりました。
主役はいったい誰?とか、説明台詞多すぎ、とか、人間豹の行動に説得力なさ過ぎ、幕末の京都らしさは感じられない、等々、脚本への不満は100ほどもありますが、その最たるものは、明智小五郎vs人間豹・恩田乱学の構図が崩れてしまっていること。いくら新作とはいえ、“乱歩歌舞伎”を標榜するのであれば、明智vs犯人の対決は基本でしょう。恩田乱学自体の背景や苦悩がきちんと描かれていない上に、最後の方は、明智+恩田(さらには+鶴丸)連合軍vs鏑木幻斎みたいな感じになってしまうので、ラストの小五郎の恩田への思い入れたっぷりの長々とした台詞や「恩田~」っていう叫びも何だか上滑りして聞こえてしまいます。これでは恩田でなくとも、「もうおめえの説教ともおさらばだ」 と言いたくなるというものです。
が、しかーし。
そんな「あれ?」もこんな「え~っ

ウワサに違わず




思わず「きゃ~


さて、冷静に戻ってみると、見どころもたくさんあるお芝居で、1回目は時々記憶が遠のいたり

きはものやの番頭さんと丁稚くんによる義太夫は「河庄」かしら、花がたみの登場シーンは「京人形」だし、綾乃が鶴丸実俊を待ち伏せする場面はそのまま「戻橋」、と歌舞伎の場面に照らし合わせて観るのも楽しい第1幕。 朽ちた羅城門が大ゼリで回りながら出現する装置も壮観でした。ちょっとスーパー歌舞伎思い出しちゃったけど(・・・それを思うとやはり猿之助さんは偉大だ)。録音なのかな?雅楽や和太鼓が響くBGMもステキでした。2度目になると、大子ちゃん→恩田の早替わりや、大子ちゃんの大福パクパクの真相や、花がたみの仕掛けや、いろんな細かいことまでチェックできて楽しさも倍増です。
人間豹・恩田乱学にあまり活躍の場がない中、染五郎さんが演じたもう一人のキャラクター大子、もとい、みすずちゃんはとってもキュート。体は人並みはずれて大きいけれど、お顔は染五郎さんなので元よりキレイだし、ユーモラスな言動の中に商家のとうはんらしい育ちの良さも感じさせ、松吉/実次(翫雀さん)を思う気持ち、仕草の一つひとつがとてもいじらしい。それに最後に鏑木を葬り去ることになる手鏡はみすずちゃんのものなので、ある意味主役ですね。
ただ、前作で、神谷芳之助と恩田乱学が表裏一体、人間の光と影であったように、大子と乱学にも異形に生まれながら(とても太っていることが異形かどうかの議論はさておき)、一方は清らかでやさしい心、他方は荒んだ獣の性根を持ったという表裏のイメージを込めたものと推察しますが、その対比の描き方が弱いのでストレートに伝わって来なかったのは残念なことでした。
そしてもう一人の主役ともいうべき梅玉さんの鏑木幻斎。サブタイトルは「人間豹の最期」というより「鏑木幻斎の陰謀」とかがいいんじゃないのっていうくらいの存在感。
私にとって梅玉さんはこれまで、舞台の上でも時々お見かけした楽屋口でも、穏やかで品のいい、端正なおじさまというイメージ。それを見事に覆してくださいました。妖しいし色っぽいし、Sだし(笑)、こんなに悪役がハマるなんて、お見それいたしました。それにしても薩長連合にやたら怒ってたな、鏑木幻斎。その悪役・鏑木が、恩田を諭そうとする明智に、「まるで父親のような言い草だな」というセリフには笑っちゃいましたが。
幕間にお目にかかったcocoさまに、梅玉さんの部屋子さんだと教えていただいた中村梅丸くんの花がたみ。台詞のない難しいお役ですが、ほんとうにお人形さんのようにかわいくて人形振りもお上手でした。平成8年生まれでまだ13歳。丁稚長吉を演じた、幸四郎さんの部屋子さんで同い年の松本錦成くんとともに、10月の国立劇場賞特別賞を受賞されたとか。お二人とも精進の賜物ですね。おめでとうございます。これからの成長も楽しみ~。
最後にもう一度人間豹について。
前作で美女ばかりを狙う妖しい殺人鬼だった恩田乱学は、1年後の京都では無差別殺人マシーンになってしまっていました。その、より獣に近づいた荒んだ恩田を、染五郎さんは素早い動きと低い声、低く構えた姿勢ですごくよく表現していたと思います。恩田は何だか少し改心して、明智や実次たちを助けたりもして(ここが脚本のブレなんだけど)、でも最期は結局、「俺たちみたいな奴はいつの時代もこの世からなくならねぇ」と明智への訣別の言葉を遺し、「もっと広く大きな空を探しに行くぜ」と炎に包まれて自ら死を選びます。そんなふうに恩田の中に人間性を開眼させて大空へと昇華させたことが、原案を書いた染五郎さんの“落とし前のつけ方”だったのでしょうか。
人間豹が去って行った空を見上げる明智のもとへ降ってきたお札と鉤爪。客席の私の頭上にも、銀色に輝くものがひらりと落ちてきました。持ち帰ろうかとも思いましたが、それがまるで人間豹の鉤爪のような気がして、心でさようならを言って、そっとその場に残してきました。
来年第3弾あるかも




あぁ~もう、全くもって同感です!
「人間豹」と謳ってるにも関わらず、
対決の相手が恩田じゃないっていうのが最大の不満です。
しかも登場も少なかったし。(笑)
2階席から、あの宙乗りをご覧になったんですね!
迫力満点だったことでしょう♪
いいなぁ~。
ぐるんぐるん回ってたもんね。(笑)
花がたみの梅丸くん!
本当に可愛らしかったです♪
>平成8年生まれでまだ13歳。
え、、、
平成8年!!!
ついこの間じゃん。(笑)
そうそう、途中で「人間豹」のことを忘れそうになるくらい
恩田乱学の登場シーンは少なかったですよね。
前作も脚本は未熟な面はありましたが、やはり原作がちゃんと
ある分、筋立てはしっかりしていたように思います。
2階の、しかもちょうど人間豹が入っていく箱?のすぐナナメ前
の席でしたからね。「わぁ~、私に向ってグルグル回って
来ている~」(笑)ってカンジでした。
>ついこの間じゃん。
ほんと、平成8年なんて、ついこの間ですよね~。
そんな最近生れた子があんなに立派に舞台つとめて・・・。
しかも部屋子さんなので梅玉さんの身のまわりのお世話とか
もしていると思われます。えらいですよね~。
ホント、最後の幸四郎の台詞は…
これを生でご覧になったのは迫力がありいいですね。
梅玉、高麗蔵、二人の子役が光ってました。
こちらこそ、ご無沙汰いたしております。
ご紹介ありがとうございました。
1作目の方が作品としては出来がよかったように
思いますが、染五郎さんのあの宙乗りは本当に
迫力ありました。
梅玉さんは意外な一面を見せていただいて、あの後
他の舞台観ても見る目が変わりました(笑)。
子役くんたち、がんばっていましたよね~。