2009年07月27日

さようなら 美しき残酷なお方 「NINAGAWA 十二夜」


s-jyuniya.jpg「十二夜」はシェイクスピアの数ある戯曲の中で「から騒ぎ」などとともに“ロマンチック・コメディ”と分類される作品で、ヒロインの男装、双子の取り違い、一方通行の片思いが巡る輪など、人生の喜びや楽しみ、ほろ苦さ、滑稽さ、そして悲哀や寂しさも感じさせる物語です。
「NINAGAWA 十二夜」ではこのプロットはそのままに、日本の中世に置き換えて描いていますが、シェイクスピアらしさも、蜷川さんらしさも損なうことなく、しっかり歌舞伎の舞台になっていることにいたく感心。


関西・歌舞伎を愛する会 第十八回
七月大歌舞伎 「NINAGAWA 十二夜」

作: ウィリアム・シェイクスピア   訳: 小田島雄志
脚本: 今井豊茂
演出: 蜷川幸雄
出演: 尾上菊之助 中村時蔵 中村翫雀 中村錦之助 市川亀治郎 河原崎権十郎 市川團蔵 市川段四郎 市川左團次 尾上菊五郎 ほか

7月4日(土)  4:00pm 大阪松竹座 1階18列センター
7月25日(土) 4:00pm 大阪松竹座 1階3列センター



物語: 嵐で難破して生き別れた双子の兄妹 斯波主膳之助/セバスチャンと琵琶姫/ヴァイオラ(尾上菊之助・二役)。妹の琵琶姫は男装して獅子丸/シザーリオと名乗り、小姓として仕えた土地の領主・大篠左大臣/オーシーノ公爵(中村錦之助)に恋をします。左大臣は織笛姫/オリヴィア(中村時蔵)という公家の姫君に心を奪われていて、獅子丸に恋の使いを命じますが、獅子丸を女と知らない織笛姫は獅子丸に一目惚れしてしまいます。一方で、家老 丸尾坊太夫/マルヴォーリオ(尾上菊五郎)をこらしめようとする洞院鐘道/サー・トゥビー・ベルチ(市川左團次)・麻阿/マライア(市川亀治郎)・安藤英竹/サー・アンドルー・エイギュチーク(中村翫雀)たちの陰謀も進む中、主膳之助が現れて・・・。


定式幕が引かれると客席を映し出す一面の鏡-その後ろに浮かび上がる今まさに満開のしだれ桜-そしてその風景に溶け込むように奏でられるチェンバロとボーイソプラノが歌う聖歌-
夢見るように美しい幕開け。一気に物語の世界に引き込まれます。
プレイベントで、「蜷川さんは始まったらいきなりバーンと・・・」と菊五郎さんがおっしゃっていたのはこのことだったのね、と納得。




蜷川幸雄さんの舞台で鏡が使われるのは珍しいことではありません。「NINAGAWAマクベス」しかり「間違いの喜劇」しかり「コリオレイナス」しかり。
しかしながら、この双子の物語である「十二夜」では、鏡は特別な意味を持っているように感じました。そっくりな二人、虚と実。鏡に映るもの、目に見えるものが必ずしも真実ではない、とでも言うような。

冒頭の場面。
一面の鏡に映し出された客席。2階の席からは鏡の中の自分に向って手を振る観客の姿も見られました。ここでは、私たちは見る存在であると同時に見られる存在ともなります。
大篠左大臣と従者久利男(尾上松也)は花道から登場して舞台に向かいますが、その姿が鏡に映し出され、桜の奥から浮び上がって舞台に近づいて来るように、二重の構図にも見えました。

織笛姫の館の庭。
最初に出てきた場面では赤い欄干の橋が一つですが、最後の場面では二重の橋になっていて、さらに奥の鏡に映りこんで、遠く幾重にも連なる橋に見えます。まるでここがこの物語の終着点ではないと言っているかのように。

織笛姫が獅子丸をもう一度来させるために、一計を案じて坊太夫にことづけたものが鏡だったことも何だか象徴的でした。シェイクスピアの原作ではこれは指輪だったと記憶していますが。




場面場面を彩る花の美しさにも目を奪われました。
冒頭の薄桃色のしだれ桜はもちろん、織笛姫の部屋では、紫の、杜若なのか菖蒲なのかな、が凛と咲いていて、黒い鏡面と建具と欄間とで醸し出す空間は蒔絵のような美しさ。
そして最後の場面では、赤い橋のバックに一面の白い百合。
「受胎告知」の絵に必ず白百合が描かれることなどから、白い百合はキリスト教のイメージに結びつくのですが、これは冒頭の桜(まさにザ・ジャパン)とあえて対照させたのでしょうか。


そして、人


琵琶姫・主膳之助・獅子丸を見事に演じ分けた尾上菊之助に拍手。
きりりとした主膳之助はカッコよく、獅子丸はあくまでも“琵琶姫が演じている”獅子丸で、それもパキッと切り替わるのではなく、自然な感じで女を感じさせるところがすばらしいひらめき 美しさはもちろんのこと、よく通る口跡よいセリフに洗練された所作、早替りも鮮やか。

左大臣に「自分の妹」のことと称して恋心を匂わせたり、「もしも」と問いかけたりするところや、2幕冒頭の恋心を秘めた踊りもとてもよかったのですが、2度目に観た時に心に残ったのは、最初に織笛姫を訪ねる場面。
ここは獅子丸として目通りしているのですが、心は琵琶姫そのもの。目に声に表情に、「この人が、わが君の愛するお方か」という思いが切ないくらい溢れていました。私だって、好きな人が思う人にキューピットの役目で会うことになったら、そしてその人がちょっと気位の高いわからずや(笑)だったりしたら、と琵琶姫の気持ちがいじらしくて感情移入しちゃいました。帰り際に織笛姫に向って、「さようなら 美しき残酷なお方」と獅子丸の声、琵琶姫の心で言い放った言葉が心に残ります。

尾上菊五郎の丸尾坊太夫と捨助の二役もとても楽しそうに軽快に演じていて見応えがありました。菊五郎さんの演技は申し分ないものの、ロンドン公演でこの二役に賛否両論あったのいうのは何となくワカル。
利口ぶる阿呆と阿呆ぶる利口の対比という意味ではおもしろいかもしれませんが、坊太夫が洞院鐘道たちにやり込められて全身ウコン色の装束で現われるところなど、ちょっと三のセンになってカブってしまうこともあり、個人的にはこの二人はあえて一人二役にしなくてもよかったのではと感じました。お陰で坊太夫をこらしめる場面に捨助がいなかったり、フィナーレに坊太夫がいないってことにもなっちゃうし。

織笛姫の中村時蔵、大篠左大臣の中村錦之助のノーブルな雰囲気もこの舞台には不可欠。
織笛姫はちょっと年上のお姫様という印象ですが、獅子丸/琵琶姫を地位や品格で上回らなければならないし、身分の高い者がもつ尊大さと、乙女の純情、一途さも兼ね備えなければならないし、で難しい役どころ。プレイベントで菊五郎さんや菊之助さんがおっしゃっていた、「ある者は高き身分に生まれ、ある者は高き身分に達し、またある者は高き身分に押し上げられる」というセリフが実感できる配役でした。
比叡庵五郎の市川團蔵の飄々とした感じもとても好き。

そして、忘れちゃならない麻阿 市川亀治郎。
初日に観た時より明らかにパワーアップしていました。初演の時、「毛抜」の巻絹をイメージして役作りをされたそうですが、そういえば二月花形歌舞伎で観た巻絹の「びびびびび」を思い出しました。
口元のほくろも色っぽく、おきゃんで利発で、ちょっと意地悪で可愛い麻阿。一歩間違えば“悪乗り”や”やり過ぎ”になるギリギリのところで、品を失うことなく客席を沸かせる力量はさすがです。
主役が芝居をしている時は、脇はじっと動かないのが歌舞伎の舞台の鉄則ですが、麻阿は少しもじっとしていないで常に何かやっていて目が離せません。着物の裾はしょって小走りに舞台を横切るし、いたずらっ子みたいな目で物陰から覗いているし。坊太夫の前でひたすら小さくなって謝っていたかと思えば、いなくなった途端、急にオットコマエな態度になっちゃうところとか、笑わずにはいられませんでした。悪霊払う場面ではグーパンチで殴ってたし。


好きになったのは獅子丸だったのにそれが女だからといって、同じ顔をした主膳之助とあっさり結婚しちゃう織笛姫も、よくわからないままその求婚を受け容れる主膳之助も、獅子丸が女だとわかった途端、織笛姫からすっぱり乗り換える大篠左大臣も(元々お気に入りの小姓ではあったけれど)、それでいいの?って気が抜けちゃうくらい能天気なハッピーエンドですが、そんな野暮は言いっこナシ。これがシェイクスピアのロマンチック・コメディですから揺れるハート


位置情報 7月25日は天神祭でした。
翫雀さん安藤英竹、るんるん今宵 文月 天神祭やでぇ~ ってご陽気に踊りを披露してくれました。
ちょっと阿波踊り風だったけどわーい(嬉しい顔)

位置情報 東京からご来阪のcocoさまと幕間にお目にかかるお約束をしていたのですが、開演前、舞台写真をチェックしに行ったところで早々と遭遇かわいい
もちろん幕間にも早口でお話して、ロンドンバージョンより40分も長かった初演や再演のお話もお聞かせいただいて、楽しかったです。いつもありがとうございます。



本日千穐楽、そして上演200回!おめでとうございます。カーテンコールには蜷川さんも登場されたとか。皆さまお疲れさまでした。すばらしい舞台をありがとうございました のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 515 わーい(嬉しい顔) vs 520 ふらふら)


posted by スキップ at 23:48| Comment(10) | TrackBack(0) | 歌舞伎・伝統芸能 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一階前方の席からも観たかった!と25日昼の部をみたときに思いました。
フィナーレで丸尾坊太夫さんが揺れながら下帯を握った手をふっている姿を想像すると、こわいですよっ!
Posted by 火夜(熊つかい座) at 2009年07月28日 19:02
今度もし、上演されるのならば…思い切って1階席で奮発してガッツリ観たいって思いました(*^^)v

そうそう♪あんたはいったい誰を好きになったのさ?
って感じなんですけど、ま~織笛姫はひとめぼれだったんですよね?
だから相手が女だとわかった途端に乗り換えちゃってプロポーズまでしちゃう^^;
主膳之助もなんかちゃっちゃと逆玉っぽい感じやし、ホンマにこんなんでええのん?やけど、まぁね~それがシェイクスピアの喜劇作品なんやろね♪
間違いの喜劇もそんな感じやったし~v
Posted by きばりん at 2009年07月28日 22:36
>スキップさま
>この双子の物語である「十二夜」では、鏡は特別な意味を持っているように思えました。
鏡は気安く乱発したらあきませんね。間違いの喜劇と十二夜以外は何だったのでしょうと思ってしまいました。
>場面場面を彩る花の美しさにも目を奪われました。
シェイクスピアさんにとって花は重要なアイテムですよね。それにつけても蜷川さん、花の使い方はすごいです。
菊之助丈の娘らしさ、凛々しさがそれぞれアップしますます大きくなられて…。ウレシ涙。
お声が姉上さまに似てこられたような気もしました。
Posted by とみ(風知草) at 2009年07月29日 00:07
♪火夜さま

1階から3階まで、観る位置によってもそれぞれ楽しめるのが
この舞台のすばらしさでもありますね。

>フィナーレで丸尾坊太夫さんが揺れながら下帯を
>握った手をふっている姿を想像すると
(^_^;) 確かに~。
やっぱりフィナーレは捨助だけが正解!?
Posted by スキップ at 2009年07月29日 00:56
♪きばりんさま

1階前から観ると冒頭の鏡には1階から3階まで全部の客席が
映っているのが見えて、なかなか壮観でしたよ。

シェイクスピアらしい「えええぇ~!?」な結末ですが、
みんな笑顔で並ぶ姿を見ていると、何だかハッピーな気分
になれるお芝居でした。
そうそう、主膳之助って確かに逆玉ですよね。やったじゃーん!(笑)
Posted by スキップ at 2009年07月29日 01:01
♪とみさま

初演からずっとご覧になって来られたとみさんの感慨はひとしお
だったことでしょう。
この4年で菊之助さんのご活躍ぶりも目覚しいものがありましたね。
鏡、花、と蜷川演出の常套手段ですが、この舞台ではそれが
一層華やかに、これでもか、っていうくらい大判振る舞い
だったのも歌舞伎ならではかしら(笑)。
Posted by スキップ at 2009年07月29日 01:05
またもや亀コメントになってしまってスイマセン。
今回は3階席から見ましたけど、確かに鏡に花道が写っているので、ラッキーですね。
 最初に歌舞伎座で見たときは、ホント、ぴっくりものでした。あの時に比べると、歌舞伎味はほとんどなしでしたね。スピーディーでそれなりに楽しませてもらいました。時蔵さんがちょっとお年を召したかなぁって気はしましたけど。亀治郎さんは、弾けてるけど、上手いですね。
 再演されるなら、また違った演出で見たい気がします。
Posted by どら猫 at 2009年07月30日 23:04
♪どら猫さま

こちらもレスが遅れて申し訳ありません。
初演の時はほんとに初めての試みだったので、あのオープニング
をご覧になった時の高揚はいかばかりかと思います。
役者さんや演出家さん側にも期待や不安があったことでしょう。
今回はロンドンバージョンで歌舞伎色がずい分薄められている
ようですが、確かにもう少し歌舞伎っぽい演出で観てみたいです。
勘三郎さんの「夏祭浪花鑑」が、NY凱旋公演の松竹座で観たものより、
扇町公園の平成中村座で観たものの方がダンゼンよかったことを
思い出しました。
Posted by スキップ at 2009年08月01日 12:14
スキップさん♪
東京公演よりも亀治郎さんは弾けてらっしゃったみたいですね。
演舞場では匍匐前進はされてなかった気がします(笑)。
>目に見えるものが必ずしも真実ではない
蜷川さんの鏡を使った演出は、やはり双子の作品に多いなあと思うのですが
私もスキップさんの意見に一票です。
本人たちが真剣にやっている後ろ姿が鏡に映って、観客から見えるというのは
シニカルに思えました~。
Posted by みんみん at 2009年08月02日 22:27
♪みんみんさま

みんみんさんも蜷川さんのお芝居を沢山ご覧になっているので
鏡のシーンは見慣れていらっしゃると思いますが、「間違いの喜劇」
すらこの「NINAGAWA十二夜」の初演より後だったことを思うと、
鏡の演出の原点かもしれませんね。
私は彩の国シェイクスピアシリーズの「十二夜」は観ていませんので
できればオールメールで再演していただきたいと思っています。
さて、ヴァイオラは誰がいいかしら?

亀治郎さん麻阿の匍匐前進、演舞場のダイジェスト映像で観たと
思ったのですが、途中からやり始めたのかしら(笑)。
Posted by スキップ at 2009年08月03日 01:34
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