2009年07月14日

過去は思い出という幻想 未来は願望という幻想 「桜姫 現代劇ver. 清玄阿闍梨改始於南米版」


s-sakurahime.jpgきゃ~!歌舞伎バージョン、とっくに始まってるしぃ。

Bunkamura20周年を記念して、鶴屋南北の「桜姫東文章」をベースとした、「二つの趣向で魅せる二ヵ月」-現代劇ver. と歌舞伎ver.-がシアターコクーンで6月・7月と連続上演されていますが、その現代バージョンの方を観ました(1ヵ月も前に)。


「桜姫 現代劇ver. 清玄阿闍梨改始於南米版」
原作: 四世 鶴屋南北
脚本: 長塚圭史
演出: 串田和美
出演: 大竹しのぶ 笹野高史 白井晃 中村勘三郎 
古田新太 秋山菜津子 佐藤誓 ほか

6月14日(日) 2:00pm シアターコクーン  ベンチシート


ストーリー: 清玄=セルゲイ(白井晃)は16年前、稚児白菊丸=ジョゼと衆道の末に心中したものの自分だけが命を取りとめ、今は新清水寺の高僧=大きな十字架を背負った高位の聖職者となっていました。そこへ、左手が開かないという16歳の吉田家の息女桜姫=貴族の令嬢マリア(大竹しのぶ)がやって来ます。セルゲイの祈りで開いた彼女の左手に、セルゲイが16年前にジョゼと分かち合った石が握られているのを見たセルゲイは、マリアがジョゼの生まれ変わりであることを確信します。一方マリアは、1年前強盗に入った釣鐘の権助=ゴンザレス(中村勘三郎)に犯されましたが、彼を忘れられず、その子どもまで生んでいました。そんな中、マリアとゴンザレスは運命の糸に導かれるように再会します。巡る因果の中、恋人の面影を追うセルゲイと、ゴンザレスとの逢引がばれて家を追われたマリアが、流転の人生を歩んで行きます・・・。



舞台は南米。
人間関係は濃厚ながら、渇いた雰囲気が舞台を覆い、鶴屋南北特有のおどろおどろした雰囲気はあまり感じられません。
そもそも仏教とキリスト教では、死生観や倫理観も違っているし、それを重ねて観るのは違和感もあります。観ているうちに、これは「桜姫の現代版」としてではなく、長塚圭史の新作として観るのが正解かも、という考えが頭をよぎりましたが、いやいやそれでは「二つの趣向で魅せる」というこの記念公演のコンセプトがそもそも成り立たないし、「桜姫」でなければならない理由にもならない・・・あ~、だけど、原作をなぞって現代に置き換えるだけでは何の面白味もない・・・という逡巡があって、「連続上演」という呪縛が、作家にも演出家にも、役者にも観ている私たちの上にも大きくのしかかっているなぁというのがまずは第一印象。物語のラスト、セルゲイとゴンザレスが、「清玄」「権助」と唐突に原作の名前を告げ合う場面が象徴的でした。

とはいうものの、荒唐無稽で不条理な鶴屋南北の原作を、大筋は外さず丁寧に現代南米に移し替え、そこに自らの脚色を加えてセルゲイを中心に据えた虚実綯い交ぜの舞台を作り上げた長塚圭史の力量を改めて感じました。年老いたココージオの放つ、「この世はすべて幻想に過ぎない。過去は思い出という幻想だし、未来は願望という幻想だ。」とか、印象に残るセリフもたくさん。

もちろん歌舞伎の「桜姫東文章」を観たことがない観客もたくさんいる訳で、だから、この「清玄阿闍梨改始於南米版」は単独の作品としても十分鑑賞に値する楽しめる舞台でした。
このサブタイトルが示すとおり、この南米版の主役は桜姫=マリアではなく、清玄=セルゲイ。そして、セルゲイと表裏一体とも言えるゴンザレス。この二人の男たちの物語となっています。

そのセルゲイを演じた白井晃がとてもよかった。清冽な個性が真摯な眼差しを持つセルゲイによくハマッていました。聖職者って、いつの時代も、そして洋の東西を問わず、俗人よりはるかに世俗的な一面も内包していて(こんなこと言うと叱られちゃうかな)、そのあたりの葛藤とか胡散臭さ、得体の知れなさも、すごくよく描出していたと思います。「この舞台でなぜこれほど重要な役割を背負うことになってしまったのか」とプログラムのインタビューで語っていますが、遊◎機械の頃からずっと白井さんを観て来た者としては、この活躍は喜ばしい限りです。

そのセルゲイとは明と暗、善と悪? 表と裏とも言えるゴンザレスの中村勘三郎。評判はあまり芳しくないようですが(笑)、私は好きでした。
あの小麦色の肌にサングラスかけてチョイ悪オヤジないでたちで登場した時にはちょっと驚いて笑っちゃったけど、相当芝居を作り込んでいて、歌舞伎の舞台も含めて“素の勘三郎”が出て来ない数少ない役の一つだと感じました。ただ、マリアと一緒に死のうとするセルゲイに対して、「死にたくねぇ」と対比する形でのゴンザレスという意味では、些か印象が弱い。ゴンザレスには、マリアを虜にするカリスマ性とか、ある意味狂信的な部分が必要で、時折ただのちんぴらに見えてしまうところが残念でした。

入間悪五郎=イルモにも同様なことが感じられて、演じた佐藤誓は良い役者さんですが、この存在感では少し物足りないものを感じます。もっと威圧感や屈折した思いの発露が必要で、セルゲイやゴンザレスと同等の格も欲しいところ。ここまで豪華キャスト揃えたのだからここでもうひとふんばりしてほしかったなぁ。この役に古田新太を持って来てもよかったかもしれません。

古田新太のココージオ=残月と秋山菜津子のイヴァ=長浦は申し分ないです。芝居的にも笑いの要素でもとても楽しませていただきました。座席が舞台を上から観る位置だったのですが、2幕で、年とって太ったココのハゲ頭があまりにもリアルで、もしかしてこれがふるちんのホントの頭で普段がヅラ?と疑惑もっちゃったくらいです(笑)。

そして、マリアの大竹しのぶ。
元より変幻自在の女優さんで、声ひとつ、表情ひとつで16歳を体現できるのはさすがです(ふるちんココは鼻ならしてたけど)。しかも少女の透明感で。しかしながら、セルゲイとゴンザレス、二人の男の運命を狂わせることになる魔性の部分とか、高貴なお姫様が娼婦にまで転落するというギャップには少し乏しかったという印象。意外でした。これは、ちょっとはすっぱな墓守の役を兼ねていたせいかもしれません・・・これは観る側の受けとめ方というか、演出の問題かな。


s-seat.jpg今回の座席は、可動席の一番前のこの位置でした。
この席は、最初は左右に分かれていて、私の席は、上手側の一番奥になります。横も前もパイプの手すりがあるだけ。
開演10分前。席についてバッグを横に置いて身支度していたら、ドスンと音がした。一瞬何が起こったかわからず、下を覗くと、舞台の上に、落ちていた。私のバッグカバンが。
グシャッとなってるし、携帯phone toとか飛び出てるしがく〜(落胆した顔)
頭が真っ白になって前を見ると、ファザコンサリーちゃんが「取りに行け」ってジェスチャーで指示してくれている(座席が合体したら隣同士だったのですが、この時は上手下手に分かれて向い合っていたの)。
ええ、行きましたよ、拾いに。衝撃のコクーン舞台デビュー。大汗かきましたあせあせ(飛び散る汗)



そんなこんなで「始まる前の印象強すぎ」って、ごめんなさ~い の地獄度 ふらふら (total 511わーい(嬉しい顔) vs 514 ふらふら

posted by スキップ at 23:42| Comment(12) | TrackBack(4) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コクーン舞台デビューおめでとうございます。(笑)
しかし開演前でよかったですね。
芝居が始まってからだったら、どれだけ新太くんにイジられた事か。
ま、それはそれでアリかな♪(笑)

今回のカンパニーの中では白井さんが素晴らしかったですね。
とにかく目の演技が圧巻で、惹きこまれて観てました。
あとはやっぱり秋山姐さんだなぁ♪
人間マングースもさることながら、ココへの愛情がビシビシ伝わってきて、
思い切り感情移入してました。
勘三郎さんが時折”ちんぴら”に見えてしまったという、
スキップさんの意見に一票。(笑)
自分の信念を貫き「革命」と称して悪事を働いていたとは感じられなかったのが残念でした。
でもしのぶさんとの濡れ場シーンで見せてくれた、
厚い胸板が眼福でした♪(笑)
Posted by 麗 at 2009年07月15日 23:03
♪スキップさま

たしかに、始まる前のあの一瞬に、すべてを持っていかれてしまいました。
関西人のサガなのか、あったら面白いなを現実にしてくれた一瞬、あれを超えるシーンは私にはありませんでしたね。
コクーンでの初舞台、しかも、ふるちんと同じ板の上に立つなんて、あなたの愛情に勝るものはいなかった、影の主演女優賞、差し上げます!
Posted by ファザコンサリー at 2009年07月15日 23:16
>スキップさま
ワタクシは28日に拝見しました。
>「連続上演」という呪縛が、作家にも演出家にも、役者にも観ている私たちの上にも大きくのしかかっているなぁ
御意。すぐ諦めて、原作をなぞって現代に置き換えるだけで見てしまいました(爆)。
そのハプニング、その場に居合わせたかったです。お疲れ様でした。
Posted by とみ(風知草) at 2009年07月15日 23:47
スキップさん♪
まぁ!私が観た席と殆ど同じ場所だったんですね。
確かに足元が心もとないですから、カバンも落下しそうです。
でも10分あって良かったですね~(笑)。
>時折ただのちんぴらに見えてしまう
そう!そうなんですよね!セルゲイと真逆な設定でしょうから
あれはあれでアリだとは思うのですが、ちょっと・・と思う部分も。
明らかに歌舞伎を普段ご覧になっているようなご年齢の方々は
帰りに「分からない」と口々におっしゃっていたので、
あまり歌舞伎の桜姫東文章を意識しすぎずに観たほうが楽しめる作品ですね。
Posted by みんみん at 2009年07月17日 00:19
♪麗さま

ありがとうございます(笑)。
いや~、もうあれからというもの、手に持ったオペラグラスも
落としてなるまじ、と並々ならぬ緊張感で過ごしました。

秋山姐さんイヴァは、ハゲデブココにはもったいないくらいの
いい女でした。「どうしてそうして立ってるの」なんてセリフ、
心にしみましたね。
勘三郎さんゴンザレスは胸板も厚かったですが、お腹まわりも
厚かったですね(笑)。
Posted by スキップ at 2009年07月17日 02:04
♪ファザコンサリーさま

影の主演女優賞、ありがとうございます。
ほんとうに、あの節は大変失礼いたしました。
いえいえ、決して狙った訳ではございませんのよ。
サリーちゃんが取りに行くよう示してくれなかったら
どうしていいかわからないくらい動揺してたんです(笑)。
でも結果的にふるちんと同じ舞台に立てた(?)ことは
うれしかったかな。舞台の内容よりも忘れられない思い出です(爆)。
Posted by スキップ at 2009年07月17日 02:10
♪とみさま

とても意欲的な作品で、あれだけの豪華キャストですから
期待値も大きく、受けとめ方も様々で賛否両論多士済々
なのもうなづける舞台でした。
ハプニングは、お恥ずかしい限りです。
1ヵ月の公演期間中、あんなことやったの私だけなんだろうなぁ(恥)。
Posted by スキップ at 2009年07月17日 02:16
♪みんみんさま

ほぼ同じお席だったのですね。
バッグを落としたことはともかく(笑)、普段観られないような
視点から舞台を観られたことはおもしろかったのですが、やはり
どうしても後姿を観ることが多かったので、「ここ、今どんな
表情してるのか観たい」と思う場面が何度かありました。
できることなら正面からもう1度観てみたかったな。
そうすれば全体の印象もまた違ったかもしれませんね。
Posted by スキップ at 2009年07月17日 02:20
スキップさん、こんばんは~♪

ブログ読んでスキップさんのうろたえた顔が浮かんできました~(笑)ごめんなさい。

私は正面の3列目センターで見たのですが、スキップさんが座った席はこちら側からみたらオイシイ席ですよん。
だって古田くんの頭上が見れたんですよね(爆)
うらやましい。

私は長塚くんの演出は苦手なんですが、今回は脚本ということであの演目をここまで自分流に、でも原作を崩さずに書いた彼に敬意を表したいです。
Posted by 真あさ at 2009年07月18日 20:41
♪真あささま

まったくお恥ずかしい限りです(笑)。

あの席は、役者さんが袖にスタンバイしているところも
見えたりしておもしろかったですが、やはりお芝居は
正面から観るのがベストだと思います。3列目なんて、
うらやましいワ。
長塚圭史さんは脚本を書くにあたり、串田さんからあれこれ
注文を出されたそうですが、それをクリアした上で、
しかも原作を損なわず、自分らしさも加味するって、
やはりすばらしい才能の持主ですね。
Posted by スキップ at 2009年07月19日 03:07
現代劇版を千穐楽に観た感想記事とコクーン歌舞伎の初日の簡単報告の記事をTBさせていただきました。そして歌舞伎版の方の記事を今アップしたところなので、名前のURL欄にはそちらの記事のものを入れておきますm(_ _)m
現代劇版だけを観た時は好きになれずに千穐楽で観たことを後悔。リスキーな公演は千穐楽を避けることを学習しました。
けれど2ヶ月を通してまとめて考えてみると、「桜姫」を多面的に楽しむ力はついたと思えました。しつこく反芻する私の癖もこういうところで役に立った気がします。
しかしながら現代劇版の桜姫は、元々の予定の宮沢りえで観たかったですね。大竹しのぶの芸の力は大したものだけれど、玉三郎の芸の花は様式美の歌舞伎だからいいのであって、現代劇版ではやはりヒロインの若さが活きる演目は女優の年齢はどうしても影響してしまうように思えます。
Posted by ぴかちゅう at 2009年07月23日 01:05
♪ぴかちゅうさま

コメント&トラックバックありがとうございます。
私は残念ながら歌舞伎バージョンは観ませんので、
「桜姫」を多面的に楽しめるというのはとても
うらやましいです。
歌舞伎の「桜姫東文章」を知っているとどうしても
それに捉われがちになってしまいますが、今回は
どちらもそれとは異なった2つの「桜姫」として
観るのが正解なのかもしれません。
ぴかちゅうさんの2つの「桜姫」の記事、後ほど
じっくり楽しませていただきます。

マリアは当初宮沢りえちゃんの予定だったという話は
私も聞きましたが、確かに、りえちゃんのちょっと
“不思議ちゃん”の部分がこのマリアには合っていたかも。
りえちゃんといえば、来年のNHK大河ドラマのおりょう役も
当初りえちゃんにオファーがあったと聞きました。
いい女優さんにはやはりいい仕事が集まるのですね。
Posted by スキップ at 2009年07月24日 01:14
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Excerpt: 本日、2度目の観劇してきましたー。 「桜姫 清玄阿闍梨改始於南米版」 やはり2度目ともなると、話がすんなり入ってきて感情移入しまくギ..
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