2009年03月06日
伝統芸とエンタテインメントの融合
二月花形歌舞伎、夜の部は何といっても『蜘蛛絲梓弦』でしょう。都合がつかなくて、千穐楽にしか観ることができなかったけれど、シマッタ!もっと早く観て、リピートすればヨカッタ。
大阪松竹座二月花形歌舞伎 夜の部
「蜘蛛絲梓弦」(くものいとあずさのゆみはり)
市川亀治郎六変化相勤め申し候
出演: 市川亀治郎 片岡愛之助 中村獅童
中村七之助 中村亀鶴 市川男女蔵
中村勘太郎 ほか
2月25日(水) 4:00pm 松竹座 1階7列センター
題材となった能の『土蜘』は以前に観たことがあるのですが、恥ずかしながら糸がパーッと撒かれたことくらいしか記憶にありません・・・。それがこんなに楽しくエキサイティングな舞台になるなんて。
しかもそこには歌舞伎の様式美や、確かな技量に裏づけられた芸の力があって、本当に見事な、伝統芸とエンタテインメントの融合とも言うべき舞台でした。
その原動力となったのは市川亀治郎。そしてその六変化。
なんせ初めて観たものですから、蜘蛛の精が登場して去っていくたびに坂田金時・碓井貞光の二人と一緒になって、「ほえぇ~」と感心することしきり。蜘蛛の精以外の五変化は、私の記憶ではこんなカンジ。
壱、童: ちょっぴり不気味・・・だけどニ~ッて笑うと不思議な愛嬌がある禿ヘアの童。
時折コワイ蜘蛛の本性をちらつかせながらのきびきびした踊りがとても
小気味よかったです。花道スッポンから登場し、黒御簾へ飛び込んで退場。
弐、薬売り: 常盤津の山台の中から?飛び出して来ました。びっくりしたぁ
棹の前後にぶら下がった薬箱も天井から降りてきました。
「くすり」と書いた袋を上手から下手へ客席に見せてアピールした後、
スッポンの中へ飛び込んで消えて行きました。
参、番頭新造: 薬売りが今スッポンに消えたと思ったら、揚幕からしずしずと新造登場。
黒地の着物も艶やかな早替りに客席からはどよめきが起こりました。
私の近くの席の男性なんて、「どないなっとんねん」っておっしゃって
いましたもの。花道七三で「また来たわ」とかなんとか笑いを取って、
下手襖奥に下がって来た綱につかまり天井へと去って行きました。
四、座頭: 揚幕からチャリンと音がしたので振り向いたけど気配がなく、ハッと気づいて
前を向くと正面の階段の中から登場。
仙台浄瑠璃を語るところでは見事な三味線を披露(実際の演奏は
常磐津さんでこれは弾きマネ・・・エア三味線ってところかしら)。
座頭だからずっと目を閉じたままの踊りに驚嘆。舞台真ん中の火鉢?の中へ退場。
五、傾城薄雲: 源頼光とともに御簾内でポーズ決めて登場。
最初から妖しげな雰囲気をふりまき、本性を表し豹変したところを
頼光に斬りつけられ、糸を投げて御簾が下りるとともに姿を消しました。
蜘蛛の精と合わせて六変化の鮮やかな演じ分け(踊り分けというのか?)-緩急つけた踊りや指先まで神経の行き届いた美しさ、迫力ある海老反り、軽々としたジャンプ、腰を落したままの姿勢での舞(とても軽々と踊っていたけれど、体勢的にはすごく負荷がかかっているはず)、とにかく高い身体能力と舞踊の技術や表現力を余すところなく発揮していて、まさに亀治郎オンステージ。
終盤、一面に大きく蜘蛛の糸が描かれた黒い幕の前で大薩摩が奏でられ、やがてその幕が振り落とされると、蜘蛛の精が蜘蛛四天を左右に4人ずつ従えてセリ上がり、舞台中央でぶっ返ると同時に蜘蛛四天が一斉に蜘蛛の糸を放ちます。計算しつくされた配置と幾重にも重なる美しい蜘蛛の糸の放物線。本当に見事な演出です。ちょっとスーパー歌舞伎を思い出しました。ここからは集団の動きの美しさ。糸を撒き散らしながらの派手な立ち回り、蜘蛛の精を筆頭に全員でダダンダダンと揃って床を踏み鳴らすところなんて、感涙もの。あのシーンだけでももう1回観た~い。
ついに蜘蛛の精が退治され、岩の上に四天とともに集まり蜘蛛の糸が飛び交う中、バックには滝のように蜘蛛の糸が下りてきて、七人全員が見得を決めるラスト。客席はコーフンのるつぼで、惜しみない拍手を送り続けたのでした。
とにかく市川亀治郎が存分に、楽しく思い通りやっているという印象ですが、対する源頼光の中村勘太郎のノーブルで凛とした美しさも目を惹きます。元より踊りはお上手なので、立姿や手足の所作がとても美しく、出演者全員が同じ舞台に並ぶと、この二人(亀治郎、勘太郎)の動きが際立って美しいことがとても印象に残りました。
最後の方に登場して、「Qさまで漢字が得意だとかいう市川亀治郎によく似た~」とかナントカ笑いを取る(この場面、亀ちゃん苦笑・・あの隈取りのままで・・カワイかった)平井保昌の片岡愛之助。大きく勇壮でいいお声。役得とはいえ存在感抜群です。
幕が下りた途端に「もう1回観たいっ!」って思える舞台。
きっと客席はみんな同じ気持ちで、だから初日からずっとカーテンコールが続いたのだと思います。市川亀治郎の求心力と技量と企画力があってこそですが、七人の若さと力が結集した舞台。そして、あの早替りの支度や蜘蛛の糸をササッと巻き取るなど舞台を支える後見さんたち。
舞台っていいな、歌舞伎ってすばらしいなと改めて感じる演目でした。
千穐楽カーテンコールの模様はこちら
昼の部のレポはこちら
それにしても、源頼光・渡辺綱・坂田金時・碓井貞光・卜部季武・平井保昌
ライ・ツナ・キンタ・サダミツ・ウラベ そして ヤスマサ将軍・・・2年前の奇しくも2月、深く迷い込んだ「朧の森」を思い出しました のごくらく度 (total 454 vs 449 )
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『二月花形歌舞伎』2009.2.23
Excerpt: 2009年2月23日(月) 松竹座 昼の部:2階席後列下手 夜の部:2階席後列上手 今回は2等席からの観劇を致しました。 実は歌舞伎は“初”って..
Weblog: まどろみの日々
Tracked: 2009-03-06 22:38
たった一回をしかも2階後列からなんて…ウゥ。
せめて1階席から観れば良かったと後悔しました。
ホントに華やかですごかったです!!
もう食い入るように双眼鏡でガン見してました(^。^;;
これ、来月…歌舞伎チャンネルで放送される模様。。
えへ、契約しましたよ♪
一体どんなんだったんだろう???と思ってたのですが・・・。
スキップさんの感想を読みながら、
私も舞台を観ているような錯覚に陥り、興奮してました。(笑)
いやぁ~、この演目観たかったな。
亀治郎さんの六変化、しかも早替え!
くぅー。
大阪歌舞伎は熱いですねぇ♪
ありがとうございます。
>蜘蛛の精を筆頭に全員でダダンダダンと揃って床を踏み鳴らすところなんて、感涙もの
それは絶対見たい・・・(>_<)
私もスキップさんのレポを読んでいるだけで劇場にいる気分になって興奮してしまいました。
これは見ておきたかった・・・。
再演希望♪
盛り上がりましたねぇ~。
ほんとに何回でも観たい演目です。
私は一度2階正面あたりから全体を観て、それからまた前で観て、
そして花道スッポン横で観て・・・ってきりがありません(笑)。
>えへ、契約しましたよ♪
まぁ!このために?
ス・テ・キ。
麗さんならきっと気に入っていただけると思います・・・
このフレーズ、前にも書きましたね(笑)。
去年博多座でこの演目がかかって大盛り上がりと聞いた時には
ちょっと悔しい思いもしたのですが、よくぞ大阪でやってくれました
というカンジです。
私もぜひぜひ再演していただいたいと思いますし、その時は
浅草へでも演舞場にでも観に行きたいと思いますが、
亀治郎さん筆頭にこの七人の力の結晶ですから、ほんとの
ところはあと何回も観られるものではないのかもしれません。
こちらこそ、いつもコメントありがとうございます。
あのダダンダダンっていうフォーメーションになったような
動きはほんとうに観ていてホレボレ。「え~っ、今の何?
もう1回観せてぇ」というカンジでした(笑)。
もちろん再演していただきたいのですが、これはシネマ歌舞伎
でもいけると思いますので、映像化されるならぜひ大スクリーンで
観てみたいです。松竹さんにお願いしましょうか?(笑)