
橘曙覧:著 新井満:自由訳・編・著/講談社
これを読んで思い出しました。私も一時『独楽吟』にハマっていたことを。
橘曙覧(たちばなのあけみ)は幕末の国学者で、明治期には正岡子規が短歌革新のお手本と称揚した歌人でもあります。彼が日常のささやかな喜びを温かくも繊細な目線で見つけ出し、「たのしみは」で始まる52首の短歌で著した作品が『独学吟』です。その中の一首、
たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無かりし花の 咲ける見る時
が有名になったのは、1994年に天皇皇后両陛下が訪米された際、当時のクリントン大統領が歓迎式典のスピーチの締めくくりにこの歌を引用し、日々の感動のすばらしさを賞賛して、「日米両国民の友好の心の中に、一日一日新たな日とともに、確実に新しい花が咲くことを期待する」と述べたことから。
これを知ったのは後のことなのですが、この歌がとても気に入り、また、その頃日本人にも忘れられていたこの『独楽吟』を見つけ出してこういう形で採り上げるアメリカ大統領のブレーン恐るべし、といたく感心して買った本がこちら。

橘曙覧:著 武田鏡村:解説/東洋経済新報社
1首ずつ、右に歌、左ページにその解説という形式で紹介され、また、時折挿入されている大隅智洋さんの「福井の日常風景」という写真(橘曙覧は福井出身)がとても味があって、毎晩ベッドの中で1ページ読んでは少し幸せな気分になって眠りについたものでした。
この記事を読んで、そうそう、あれ、とベッドサイドのチェストの奥にしまい込んでいた本をまた取り出しました。あの頃は親しい友人にもプレゼントするくらい薦めていたのに、私自身が日常生活に埋没して、これを読む心の余裕さえ失くしていたことに改めて気づきました。今年のテーマは「ゆとり」ですから(笑)、今晩からまた1首ずつ読み返してみようかしら。
たのしみは そぞろ読みゆく 書(ふみ)の中(うち)に 我とひとしき 人をみし時
たのしみは 心をおかぬ友どちと 笑ひかたりて腹をよるとき
たのしみは 空暖かに うち晴れし 春秋の日に 出でありく時
たのしみは日常の中にある・・・か?のごくらく地獄度



