
松本幸四郎『勧進帳』千回 東大寺奉納大歌舞伎
10月15日(水) 7:00pm
東大寺大仏殿前特設舞台 中央ブロック26列
一、散華 東大寺式衆
二、歌舞伎十八番の内 『勧進帳』
出演: 武蔵坊弁慶 松本幸四郎/源義経 市川高麗蔵/亀井六郎 坂東亀三郎/片岡八郎 坂東亀寿 /駿河次郎 澤村宗之助/常陸坊海尊 松本錦吾/富樫左衛門 市川染五郎
歌舞伎美人の公演情報サイトはこちら
16歳で演じ始めた「勧進帳」の弁慶の1000回目を、史上初という東大寺の特設舞台で、くしくも聖武天皇が大仏造立発願の詔を出した743年と同じ10月15日に、大仏様と5000人の観衆に見守られ、富樫を後継者である長男の市川染五郎がつとめ、客席にはその先の後継者となる孫の齋くんをはじめ温かく見守る家族・・・松本幸四郎という人はつくづく幸せな役者だと思いました。
ライトアップの中に浮かび上がる大仏殿はとても荘厳で幻想的な雰囲気。
その奥で穏やかなお顔で見守る大仏さまの前で、14人の式衆の僧侶による「散華」が厳かに始まりました。三段に分かれた散華の各段の終わりに僧侶が五色の蓮の花びらを仏前に撒くのに合わせ、会場の東と西にも花びらが舞い散りました。中央ブロックの私たちの席までは届かなくてザンネン。
客席は中央、東、西のブロックに分かれていて、東西には大きなモニターも設置されていました。空には月が輝き、夜風が頬をなで、鳥や虫の鳴き声、時にはお隣のお寺の鐘までもがBGM。
松羽目も定式幕もありません。富樫は大仏殿の中から登場です。
張り詰めた空気の中、市川染五郎の第一声が会場に響き渡ります。
下手に作られた花道から松本幸四郎の弁慶が登場すると、「高麗屋!」「高麗屋!」と大向うの嵐。さすがにこの日の大向うさんは、声もタイミングもドンピシャで、聞き惚れました。
1000回という重みがそうさせるのか、松本幸四郎入魂の思いの発露か、はたまたこの特別なシチュエーションの高揚感のためか、この日の「勧進帳」はやはり特別という印象でした。弁慶の演技がどうとか、芝居全体の出来がどうとか、そういったものは超越している感じ。
松本幸四郎は、もちろん緊張感は漲るものの、特に肩に力が入ったという感じでもなく、朗々とした声、大きな動きや見得が大舞台によく映え、華やかで力強い弁慶でした。富樫との山伏問答はいつも以上に呼吸もピタリ。互いに間髪入れずたたみかけるような丁々発止のやり取りは、見応え聴き応えたっぷり。弁慶もさることながら、富樫がずい分大人のオトコになって、豪胆かつ落ち着いた印象です。
お寺の境内という厳粛な雰囲気も、夜の闇に浮かび上がる大仏殿という独特のシチュエーションも、歌舞伎史上最多という5000人の観客も、すべて味方につけ、延年の舞まで一気に駆け抜けた弁慶。舞台上には富樫が残ったまま暗転し、花道だけがライトアップされた中、1000回目の、渾身の飛び六方での引っ込みは、観ていて胸が熱くなりました。暗転した舞台上で微動だにせずそれを見つめていた市川染五郎の視線も心に残りました。
万雷の拍手に迎えられてカーテンコールに登場した幸四郎さんは、息があがって最初の方は言葉も途切れがち。いかに弁慶という役が体力も気力も消耗するかを物語っているようです。
主催者に、大仏さまに、東大寺に、義太夫さんに、裏方さんに、この日の観客に、まわりのすべてに感謝の思いを口にした幸四郎さん。お礼を申しあげるのはこちらの方です。この偉業の目撃者となれたこと、そして、その場にいて心からの拍手を一世一代の弁慶に贈れた幸せに酔いしれた満月の夜でした。
幸四郎さん、大仏さまのお声が聞こえたのですってのごくらく度




舞台もとてもすばらしかった。
ところで、スキップさんが鳥の声だと思われているらしい声の主は、鹿さんですよ~♪
(~o~) そうだったのですね~。
火夜さんが書いてらした“鹿さんの大向こう”ですねっ。
夜の東大寺も大仏殿も初めてで、あの荘厳で幻想的な雰囲気
を味わえただけでもとても価値があったと思いますが、それに
加えてすばらしい勧進帳でしたものね。行ってよかったです!