2008年07月15日
見交わす瞳 「熊谷陣屋」
まるで大切な宝物のように“敦盛”の首を抱え、
「藤の方にお見せするように」と階段に一歩足を踏み出してその首を差し出す直実。
それを階段の途中まで受け取りにくる相模。
わが子の首を目の当たりにして、今にも感情を爆発させそうな相模を眼で制する直実。
その目線を受け止め、すべてを察したようにわが子の首を受け取る相模。
互いの瞳の奥にたとえようもない悲しみと覚悟を湛えて見交わす一瞬の目線のやり取りが、
目に焼きついて離れません。
関西・歌舞伎を愛する会 第17回 七月大歌舞伎 夜の部
7月12日(土) 4:30pm 大阪松竹座 1階5列センター
一谷嫩軍記 熊谷陣屋
出演: 片岡仁左衛門 片岡我當 片岡孝太郎 片岡愛之助 片岡秀太郎 坂田藤十郎 ほか
「熊谷陣屋」はこれまでも何度か観たことがありますが、片岡仁左衛門の直実は初見でした。
物語への理解が深まったことや共演者のアンサンブルや座席や、諸々の条件が重なったとはいえ、いつも私の琴線にふれる仁左衛門さんの“泣き”の芝居・・・ニザ様マジックにまたまたハマってしまった1時間40分。
長身痩躯の仁左衛門は、制札の見得など数々の見得も、階段の場面も、型がとても美しい。
裃も甲冑も、僧侶となっても、どの装束もよくお似合いです。
登場の時から硬い表情、押し殺したような声で、直実の深い苦悩やぬぐい切れない悲しみを描き出し、剛毅な武将でありながら繊細さを併せ持つ直実の姿が観ている者の胸に迫ります。
敦盛の母・藤の方(片岡孝太郎)とわが子小次郎の母である相模(片岡秀太郎)に、敦盛を討った時の様子を語って聴かせる場面では、終始厳しい面差しながら、まるでお前も覚悟せよと言わんばかりに相模に送る一瞥、冒頭に書いた見交わす視線のやり取りなど、「目」の演技も魅せてくれます。
出家して僧侶となった直実。
ひとり花道に残り、「十六年はひと昔・・・」と、恩義のためとはいえ、わずか16歳のわが子を自らの手にかけなければならなかった無常を、涙を流し切々と訴える渾身の独白は、観ていて息苦しくなるほど。涙と汗でぐっしょりの直実様とともに、こちらも涙ナミダの幕切れでした。
陣幕には熊谷家の家紋「向かい鳩」が描かれていました。
熊谷直実って、「鳩居堂」創始者のご先祖様なのですって。
「一枝を切らば一指を切るべし」のごくらく度 (total 358 vs 359 )
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仁左衛門様の熊谷は情がありますからねぇ。
ついこの間、図書館で借りた和楽に熊谷陣屋のことが載っていて、
フムフムと読んでおりました。
土曜日に拝見するのが楽しみですぅ。
あの鳩マークの謎が解けました。そっかそっかそうだったか!
いつもは甘いショコラ。なのにこの作品ではカフェラテ。
そんな仁左衛門の熊谷大好きです♪
今回痛感させれられました。
重々しい演目で敬遠しがちなところがあったのですが、
こんなにも泣けた熊谷陣屋は初めてでした。
仁左衛門さんにはなんだかもうメロメロです(笑)
説明していらしたのをテレビで見たので、
ぜひ今回観たかったのですが、夜の部では
残念ながら観られません~(涙)
こちらを読ませていただいて、ますます残念無念。
でもね、昼の部が楽しかったからいいのです♪
スキップさんは昼の部、ご覧になりますか?
おはようございます。
私もこれを観終わってから、以前に「サライ」の歌舞伎特集に掲載
されていた吉右衛門さんの『熊谷陣屋』の記事を読み直しました。
そしてまた観たくなりました(笑)。
どら猫さんのご感想を読ませていただくのを楽しみにしています。
鳩居堂のHPの「鳩居堂の歴史」のところに熊谷直実が、軍功により
源頼朝から「向かい鳩」の家紋を与えられたことや「熊谷陣屋」の陣幕
の紋のことがちゃんと書いてあって驚きました。
このところ仁左衛門さんにはヤラレっ放しですが、この熊谷直実もいいですね~。
>仁左衛門さんにはなんだかもうメロメロです(笑)
ほんとにね~。
昨年七月の「知盛」や「右京」や思いもかけず会えた「与兵衛」も
記憶に新しいですが、またまた私たちの胸に深く刻まれたという感じですね。
私もこの演目でこんなに泣いたのは初めてでした。
型の違いもそうですが、やっぱり演じる役者さんに負うところが
大きいのでしょうか。
お昼の部の悪役とはまた違った仁左衛門さんの魅力全開です。
しろうさんもいつか機会があればぜひご覧になってくださいね。
昼の部はもう少し後の方で観劇予定です。
(時間が許す範囲で前半にどちらかと、舞台写真が出て番附に
写真が載る後半にもう一方ということにしているのです・笑。)
あの花道。先日は3階から、仁左衛門さんの声だけで泣けました。全部見たらどうなるんでしょう!
昼の部も豪華で楽しみですね。私はあと21日昼と27日に行きます。
「鳩居堂の歴史」、ほんとに熊谷直実から書き始めてあるんですね。ビ、ビックリ~。
はい。1階間近でご覧になれば、声と目のダブル攻撃でヤラレます。
昼の部も楽しみにしています。私は26日の予定ですが、さらに前の列(笑)
なので、今度は仁木弾正にヤラレるんだろうなぁ、と思います(爆)。
「鳩居堂」ほんとに私も驚きました。
これまでもあの陣幕見ていたのに、今回初めて興味を持って調べて
みて判ったのですが、「今まで何を観ていたんだろう」という感じでした。
それにしても、熊谷直実が鳩居堂の創始者のご先祖さまとは、びっくりいたしました。最近、銀座に行ってもあまりお店に入ることはなかったのですが、今度行ったらちょっとのぞいてみようかしら(^^)
歌舞伎座でご覧になったのですね。うらやまし~。
雀右衛門さんが相模を演じられた時でしょうか。
仁左衛門さんの直実は、武将としての勇壮さと同時に
人間としての弱さも悲しみもとても感じられて、すばらしいですね。
鳩居堂って和物好き(?)にとっては結構馴染み深いお店で
よくお世話にもなっていたのですが、こんなつながりがあった
なんて、ほんと驚きました(笑)。
絶賛見っぱなしの風知草ですが,少しずつとりあえずエントリ書き始めました。
熊谷陣屋は名作とひしひし感じました。藤十郎丈のバージョンは,切り髪にした相模と手を取り合って花道で,16年は一昔でした。さすが,女性客のウケを心得ておられると感嘆致しました。
今回のものは,なんで相模と藤の方がここにという疑問も解決し,決定版でした。
あきません。思い出したら泣けてきました。
短くてもズバリ核心を突いたとみさまのエントリを見習いたいと
思いつつ、ついあれもこれもとダラダラ書いてしまって困りモノです。
私はこれまで観た「熊谷陣屋」で今回がベストです。
もっとも、いろんな演目を仁左衛門さんが演じられる度に「これがmy best」
「今回が今までで一番」ってばかり言っているような気がしますが(笑)。
久々に一階席で見て、目の力ってすごいなと思いました。
スキップ様のおっしゃるとおり、三階席では感じたことがない、目での演技に感動しました。
家紋の鳩「可愛いな」と思ってましたが、なんと鳩居堂創始者のご先祖様ですか?
一つ知識が増えました。ありがとうございます。
こんにちは。
あの目はたまりませんね。
オペラグラスでも見えるとはいうものの、やはり肉眼で見る
迫力はすごいです。
鳩居堂と熊谷直実、これまで別々に知っていましたが、
こんなつながりがあるなんて、ほんとびっくりですよね。
何となくこれまで以上に親しみを感じたりして(笑)。