
二人で語り合いながら狂気のため視点が宙を彷徨い会話もかみ合わない主君リア王に、両目をおおう包帯を自らはずし顔を見せるグロスター。それと気づかず、自分の世界の中の会話をつづけるりア王が、ふとグロスターを見やり、
「お前が誰かは知っている・・・お前の名はグロスター」
その言葉を聞き、今はもうなくなってしまった目を見開くようにリア王に向けて言葉なく慟哭するグロスター。
そりゃ泣きますよ、こんなシーン見せられたら。
彩の国シェイクスピア・シリーズ第19弾 「リア王」
作: ウィリアム・シェイクスピア
演出: 蜷川幸雄
翻訳: 松岡和子
出演: リア王 平 幹二朗/コーディリア 内山理名/リーガン とよた真帆/
ゴネリル 銀粉蝶/エドマンド 池内博之/エドガー 高橋洋/道化 山崎一/
グロスター伯爵 吉田鋼太郎/ケント伯爵 瑳川哲朗 ほか
2月23日(土) 6:30pm シアター・ドラマシティ 12列下手
平幹二朗のリア王は、登場から私たちの目を惹きつけて離しません。存在感とかオーラとか、何と表現すればよいのでしょう。まわりのすべてを巻き込む磁力のようなものを感じます。どんなに落ちぶれても狂気の淵を彷徨っても、ケント伯爵をはじめとする家臣たちが敬愛してやまないのも納得の、王としての威厳と風格。この平リア王の前では、吉田鋼太郎も瑳川哲朗さえ華奢に感じるから不思議。一方で老人特有の頑なさや繊細さ、孤独や死への恐怖、そして狂気-およそ人間が持つであろう様々な心情を全身全霊で表現しているかのようでした。180cmの体躯を終始腰を折り、前かがみになって老体を表わし、時には空を彷徨い、ある時はカッと見開き、怒り、嘆き、悲しむ目。そして一つひとつ胸に響くセリフ。超一流の役者の入魂の演技はこれほど観る者の心を捉えることを今さらながら思い知りました。
3人の娘たちに銀粉蝶、とよた真帆、内山理名が扮しています。二人の姉はヒール役の迫力十分で色っぽくもあって悪女ながら魅力的です。コーディリアの内山理名は、「オセロー」の蒼井優ほどにはキャスティングに必然性を感じませんが、思ったほど悪くなかった。セリフが硬い感じですが、これは、「老いや死への恐怖心を抱いている老人にはやさしい言葉も必要、という想像力が欠如している若さの傲慢、頑なさをコーディリアに感じるようになった」と蜷川さんが語っていらしたので、彼女の演技力云々よりも演出なのかもしれません。
そしてもう一方のストーリー グロスター伯爵家。これがまたすばらしい。
私生児で次男であるために、凄まじいまでの怒りと妬み、執念で父を欺き、兄を追い落とし、リア王の二人の娘までも利用して出世の階段を上りつめていく池内博之のエドマンドが強烈な印象。以前テレビドラマでゲイの役をやっていたときも上手いな、と思いましたが、こんな色悪もぴったり。キラキラ光る強い瞳に青い炎が燃えているようでした。
エドガーの高橋洋は“乞食のトム”に扮した2幕の登場は目を見張りましたが、1幕でのメガネをかけた知的でいかにも育ちのよいエドガー、父を思いながら自分の正体を明かせず苦悩するエドガー、エドマンドときりりと対峙するエドガー・・・曲折のあるエドガーを変幻自在に体現していました。初舞台から10年、これまで蜷川さん演出の舞台以外には出演されたことがないそうですが、今年は新たな展開も期待できそうです。
余裕たっぷりに愛人の自慢話を披露しながら登場する吉田鋼太郎のグロスターは、その愛人との子であるエドマンドに翻弄され悲劇の道を辿ります。光を失い、死ぬことだけを考えドーバーを目指しますが、同道するエドガーに励まされ、生という運命を受け容れるようになります。この、エドガーが自分が息子だと名乗らず目が見えなくなった父の手をひいて荒野を彷徨するシーンは切なく哀しく、そしてなぜか美しく感じました。
やがて真実を知ったグロスターは、息子が生きていた歓喜と驚愕の中で死を迎えたことがエドガーによって語られますが、できればこのシーンも観てみたかったです。
人間の限りない欲望や愛憎、嫉妬、業、そして誰も逃れることのできない老い・・・何百年の時を経てなお私たちの目に心に、鮮やかに感じとれる物語-シェイクスピアの描く世界の普遍性を改めて感じた舞台でもありました。



リア、私から目を逸らさず、私を通してもっとよく見るのです。のごくらく度



「私には,このご婦人が娘のコーディリアにしか見えない。」これも泣きのつぼ。混濁の中の再認識の瞬間が泥土の中の蓮のように感じられます。たんびたんびに涙が決壊しますから,終わったときはよれよれでしたね。
またの機会に,芝居談義で盛り上がりましょう。
ただ,老いへの恐怖は吹っ飛びました。勇気をいただける舞台でした。
スキップさんがご覧になるのを心待ちにしておりましたv
大阪の「リア王」も素晴らしかったようですね。
タイトルの台詞、私も泣かされました。
平さんを私はこの舞台で初めて見たのですが、
本当に素晴らしい役者さんで・・・
心の底からの感動は、愛情と同じで言葉では言い表せないことに気づきました。
あ、グロスターの死のシーン、私も見てみたいと思いましたよー。
蜷川さんのシェイクスピア、次は喜劇ですね。
こちらも今からとっても楽しみですv
そうでした。コーディリアとの再会シーンも感涙モノでしたね。
狂気と正気の間を行き来する様が、目の光ひとつにも表れていて、
平幹二朗さんはとんでもなく「リア王」でした。
確かに、老いは誰にも避けることのできないものですが、恐れずに
立ち向かう、というか、受け容れる勇気を感じることのできる舞台でした。
>またの機会に,芝居談義で盛り上がりましょう。
はい。ぜひまたよろしくお願いいたします。
とみさんの涙ナミダのよれよれ話を聴かせていただくのを楽しみにしています。
もう、ほんとにすばらしかったです。
大阪は公演期間が3日だけで1度観るのがやっとだったのですが、
長期間の公演であればきっと通っていたと思います(笑)。
リア王一族の悲劇ばかりでなく、グロスター家や道化やケントや
横田さんの騎士や・・・何度観ても足りないくらい見どころ満載ですものね。
蜷川さんの精力的なお仕事ぶりには驚くばかりですが、次作も
その次も(?)、楽しみですね。
>池内博之のエドマンドが強烈な印象。以前テレビドラマでゲイの役をやっていたときも上手いな、と思いましたが、こんな色悪もぴったり......私のそのTVドラマ観ていて感心していました。好きな人に思いを伝えない選択をしている切なさがにじんでました。紅白で初めてしっかり聞いた中村中さんの曲も同様な想いを唄ってて、こういう切ない片想いに弱い私ですって、話が脇道にそれすぎました(^^ゞ
初リアにしてあまりの素晴らしい舞台を観てしまって、しばらく封印したい感じです。私はこんなに重たい芝居はリピートできないです。日常世界に帰ってこれなくなってしまいます(T-T)
蜷川さんの芝居も要チェックですが、幹の会の舞台もこれからは要チェック決定。どうして70過ぎてこんなにお元気なんでしょうか。井上ひさしさんも同世代。コクーンの原作「道元の冒険」もようやくGETしました。戯曲を観劇の前か後に読む楽しみは無類ですねぇ。
池内博之さんは、『アオドクロ』の時は殺陣とか全然イケてなくて、
「だめじゃん!」と思った覚えがあるのですが、その成長ぶりには
目を見張りました。
切ない片想いに涙するぴかちゅうさん、ステキです(笑)。
主演の平幹二朗さんはじめ、出演者も演出も、すべてが揃った
すばらしい「リア王」でしたね。私もこの先「リア王」を観ることが
あっても、「あの時の平さんのリア王」と思い出してしまいそうです。
『道元の冒険』はうれしいことに大阪公演も組まれているようですので、
とても楽しみにしています。
いいものを拝見させていただきました。
このような舞台に出会えた幸せを感じずにはいられないすばらしい舞台でしたね。
私は平幹二朗さんのリア王自体初めてだったのですが、本当にこれ以上ないと
いうリア王を見せていただき、しばらく忘れられそうにありません。
そうです、そうです!「磁力」そんな感じです!
つい目がそちらに行ってしまいます。
グロスター伯爵の最後は観てみたかったですー。
いっそ、グロスター伯爵の方に焦点を当てたストーリー
があったら是非観てみたいと思うぐらいです。
大阪まで観に行っただけはある!と思う作品でした~
惹きつけられましたよね~、平さんリア王。
あんなにみんなの視線を一身に浴びるのは気持ちイイでしょうねぇ。
今年宝塚で「ベルばら外伝」やるみたいに、「リア王外伝」って
グロスター家の物語もやっていただけるとうれしいですね。
大阪でまたひょっこりお目にかかれるかもしれませんね。
何だか劇場通いの楽しみが増えました。