
「コンフィダント・絆」
作・演出:三谷幸喜
出演:中井貴一(スーラ) 寺脇康文(ゴーギャン) 相島一之(シュフネッケル)
生瀬勝久(ゴッホ) 堀内敬子(ルイーズ)
音楽・演奏:荻野清子
2007年5月27日(日) 2:00pm シアターBRAVA! 1階H列センター
舞台は19世紀末のパリ。遠くに建設中のエッフェッル塔を望む、モンマルトルあたりの古びたアパルトマンの一室。ここを4人の若き画家-ゴーギャン、ゴッホ、スーラ、シュフネッケルが共同のアトリエとして借りていた。そこに加わったのが、モデルとして雇われたムーラン・ド・ラ・ギャレットの女給ルイーズ。
物語は年老いたルイーズの回想から始まります。最初と最後が同じシーンで結びつく、というのはよくある手法で、だから最後にまたルイーズが、最初と同じ年老いた姿で現われ、「これが彼らの話さ」とつぶやいた時には「やっぱりね」という感じだったのですが、その後の最後の場面にヤラレタ!
明るい陽射しのさし込む部屋で、共同アトリエをスタートさせようとする4人。シュフネッケルが読み上げる「4つの約束」に顔を輝かせ、この後うんざりするほど何回も聞くことになるゴッホの「あと50年生きるとして~」という話にも嬉々として耳を傾ける3人・・・。

そのいかにも希望に満ちあふれて楽しそうな4人の様子を見ていたら、どうとばかりに涙があふれてきました。あるよね、人生には。あの時あの頃のままとどまっていることができたら、どんなに幸せだっただろうと思うこと。
三谷幸喜、やはりタダモノではありませんでした。5人の登場人物がとても丁寧に作り込まれていて、架空の物語なのに不思議なリアリティがあります。三谷幸喜らしい明るく笑える部分もわざとらしくなく散りばめられていて、それが一層影の部分-嫉妬とかコンプレックスとか焦燥とか、を際立たせることになっています。“果たして芸術家たちの間に真の友情は成り立つのか?”というのがこのお芝居のテーマということですが、誰が正しいのでも誰かがヒーローでもなく、善も悪もひっくるめて人間なら誰しも持っている様々な感情や心の襞をまるで自分のことのように身をもって感じることができるのです。
絵が売れず自分には才能がないと焦り、けれど実は天賦の才能の持ち主で、誰よりも自分がそれを信じているゴッホ。ゴッホの才能に一番に気づき、「最初にあいつに会っていたら俺は絵描きになんかならなかった」と嫉妬しつつも親身に相談に乗るゴーギャン。優越感を持って皆に接していながらゴッホの天性の前に自らの限界を知り愕然とするスーラ。自分に絵の才能がないことすら気づかないシュフネッケル。そして、4人を恋人のように母のように温かく包み込むルイーズ・・・役者陣はいずれも、この役をやるのはこの人以外ないんじゃない?と感じるくらいの熱演。
中でもスーラの中井貴一。上手いなぁ。
中井貴一は今の軽いタッチのTVドラマでは、彼ひとりだけがちゃんと演技をしているためにかえって浮いてしまっている、という印象を受けることが時々ありますが、さすが実力派揃いの共演者の中ではそんな心配はなく、思う存分持ち味を発揮しています。
品よく理知的で、いつも穏やかでみんなよりは少し成功していてお金もあるスーラ。だけどゴッホのように天衣無縫に自分をさらけ出すことができず、内に秘めたものを抱えているスーラ。他の人たちに対して感じている優越感を確認するためにこのアトリエに来ているとルイーズに告白するスーラ。シュフネッケルには判らないと知っていて、ゴッホとゴーギャンの絵を品定めさせるスーラ。何食わぬ顔で、しかも遠まわしなやり方で、ゴッホのプライドを傷つけるスーラ。それによって誰よりも自分が傷つき、ゴッホが自ら切り裂いたキャンバスを抱きしめて号泣するスーラ。
ゴッホの絵を初めて見た時の、驚愕と羨望と嫉妬と畏怖と絶望、そんなものが混じり合ったような哀しい光を帯びたスーラの目が忘れられません。
劇中、ルイーズによって何度も繰り返し唄われる

シュフネッケル、泣きながら笑顔をつくって「ありがとう」って言わないで。コンフィダントって、秘密を打ち明けられる心許せる相手という意味があるんだって。ゴーギャンは、『シュフネッケル一家』っていう作品を描いているんだって。シュネッケル、あなたは間違いなくみんなのコンフィダントだったのね。

ロートレックのあだ名はチビ太のごくらく度



もう1ヶ月以上前に観ましたが、
♪ゴーギャン、ゴッホ、スーラ、parシェフネッケル♪
歌声が頭の中でグルグル~。ヅカか!(笑)
スキップさんのレポで情景が蘇りました。
>シュフネッケル、泣きながら笑顔をつくって「ありがとう」って言わないで
出演者皆の見せ場を作って、ラストは相島一之に持っていかれました~。
さっきまでガハガハ笑ってたのに、ポロポロ…。
やってくれたね三谷幸喜。
パルコ歌舞伎の時も思いましたが、
ヒョイヒョイと演劇界の壁を通り抜けちゃいますね。
「笑の大学」は英国に行っちゃうし。
1つサイコロを振ると、
トントントンと、もの凄く先に行ってしまうのが三谷幸喜。
これからも目が離せない作・演出家です。
ゴ~ギャン ゴッホ ス~ラ パー シュフネッケ~ル♪ いつまでも
耳に残りますよね。
三谷幸喜のコメディって、そんなにおもしろいかなぁ、と感じることも
あるのですが(何せ笑いにキビしい関西人)、ただのコメディ作家では
ない力量をまざまざと見せつけられましたね。それに登場人物に対する
視線が温かいこともポイント大です。
私は1ヶ月前に大阪で観ましたが、未だにあの歌が耳に残って離れません(笑)
爆笑で尚且ついろいろと考えさせられる結末。それをとてもテンポよく、全く飽きることなくまとめられていたのが、さすが三谷さんだなと感心しました。
書き込みが前後しましたがTBさせていただきました。
こんばんは。
トラックバックありがとうございました。
コメディの枠にとらわれない三谷幸喜さんの力作はさすがに見応えありますね。
それに5人の役者さんたちがとても気持ちよさそうに演じているのも印象的でした。
あの歌がフィードバックするように、また何度も観たい作品でしたね。
大阪公演のチケットは、公演が始まっても取れる
様子がネットで確認できていて、フラリと行って
しまいそうになってました。
(^^;
>中でもスーラの中井貴一。上手いなぁ。
私も!
特に中井@スーラには、とても感情移入してしま
いました。
誰だって、自分が本当に良い人ならと思いながら、
そんな神様みたいな人なんて、そうそう居るわけ
もなく、そうして犯してしまった罪を、悔やんで
悔やみ切れずに苦しんで…。
中井さんの的確な熱演で、スーラの切なさが痛い
程に本当に胸に迫りました!!
東京公演の感想ですが、トラバさせていただきま
した。
(*^^*)
こんばんは。
トラックバックありがとうございました。
中井貴一さんのスーラ、ほんとにすばらしかったです。
ともすればイヤなヤツにもなってしまうところ、品を失わず、
深みのある説得力のある演技で、観ている私たちまで切なく
なるような感情表現でしたね。
それもよい脚本と演出があってこそなのかもしれません。
中井貴一さんの役者としての力量を再認識するとともに、
三谷幸喜さんの底力にも改めて敬服しました。
>役者陣はいずれも、この役をやるのはこの人以外ないんじゃない?
本当に!アテ書きと言う事もあるのでしょうが、
このキャストだからこそ成り立ったお話な気がします。
だから、全員印象に残ったのですが、やはりその中でも
スーラの人間臭さを中井さんがとても上手く演じて
いらっしゃったのが印象に残っています。
実は行くまではあまり乗り気じゃなかったこの公演。
結局東京・大阪と行ってしまったりして、三谷さんに
一本とられた!といった感じです(笑)
東京、大阪と2回、しかも大阪は大楽を観劇されたなんて、うらやましいです。
このお芝居は、最初に三谷さんと生瀬さんが「同世代で芝居作りたい」と
話したことから始まったとか。よくもまぁ、同世代にこんなに実力があり
しかもそれぞれ個性的な役者さんが揃ったものですよね。
三谷さんの作家としてのみならず、プロデューサーとしての力やセンスも
感じる舞台でしたね。
いきなりお邪魔してすみません。
ゴッホを描いた古い映画を紹介しようとして、そのなかで「コンフィダント・絆」に触れたくて、しかし私が下手に説明するより、スキップ様のこちらの記事を紹介したほうが100倍もこの舞台を理解してもらえると思い、勝手に記事中にリンクを入れさせてただきました。
事後報告になってしまい申し訳ありません。ご了承いただけると嬉しいのですが。
http://forest0319.blog.fc2.com/blog-entry-171.html
よろしくお願いいたします。
はじめまして。
私の拙い記事を柚子さまのブログの中でご紹介いただき、
ありがとうございました。光栄です。
ゴッホを描いた舞台はこの後に市村正親さん主演の「炎の人」
も観ましたが、この「コンフィダント・絆」は本当に心に残る作品でした。
三谷幸喜さんの作品の中でも特に好きなものの一つですが、
柚子さんにコメントしていただいたお陰で自分のレビューを
また読み直すことができて、舞台を観た時の感動が甦ってきました。
こちらの方こそ、お礼申しあげます。