2007年02月02日

言葉のチカラ NODA・MAP 「ロープ」


rope.jpg戦争をリアルタイムの映像で見るようになったのは、1991年の湾岸戦争からだと記憶しています。夜空に飛び交う戦闘機、閃光を放つミサイルなどの映像を、まるでテレビゲームや映画の一場面を見るかのような不思議な感覚で眺めたものです。
時を経て2007年。私たちは、あらゆる情報をwebを介して得ることができます。時としてメディアが自制し電波に乗せない映像までも。


NODA・MAP 第12回公演 「ロープ」
2007年1月21日(日) 2:00pm シアターコクーン



“距離感のない熱狂の中で繰り広げられる暴力”と野田秀樹自身がテーマに掲げるお芝居はかなりストレート。その“暴力”は悲惨な戦争だったり、陰湿ないじめだったり、さらなる刺激を求める聴衆の貪欲さだったり、そしてメディアの情報コントロールだったり・・・映像はなくとも、実際の戦闘シーンはなくとも、言葉を遣ってここまで戦争やいわれなき暴力への怖れ、嫌悪感を表現できることに少なからず驚きを覚えました。

ロープに囲まれた四角いリングのあるとあるボクシングジム。若きスターレスラー・ノブナガ(藤原竜也)はプロレスを八百長ではないかと悩み引きこもる。何とか彼をひっぱり出そうとするタッグを組むカメレオン(橋本じゅん)。そのリングの下に棲みついている、ミライから来たコロボックルを自称するタマシイ(宮沢りえ)。ここに視聴率至上主義のTVクルー一行(野田秀樹・渡辺えり子・三宅弘城)がからんでドラマは進行する。

野田秀樹らしい言葉遊びや登場人物の軽妙なやり取りに気楽に笑っていられるのは前半まで。プロレスのリングだった四角いロープの中はいつしか戦場と化し、リングで闘うはずのレスラーは、「殺される前に殺さなければ」と見えない力に押されて殺戮に走る兵士へと豹変します。見えない力-自分の意志とは別の何かに煽られてひとつの方向へ突き進んでしまう(これは「野田版 研辰の討たれ」でも表現されていましたが)-この場面での藤原竜也と橋本じゅんはすごく上手い。戦場の狂気とでも言うべきものに憑かれた兵士、人間をもはや人間として見ていないかのような目で銃を乱射する二人の表情に、背中に冷たいものが走るのを感じました。スローモーションのコマ送りのように展開する場面があるのですが、ここの動きも素晴らしかった。竜也くんは心配になるくらい細いけれど、あんな動きができるなんて、筋力鍛えてるんだな。

そしてまるでプロレスの実況中継のように淡々と耳を覆いたくなるような悲惨な虐殺の情況を伝えるタマシイ。宮沢りえはちょっと声がかすれ気味なのが気になりましたが、「活字を読むだけでも辛いような実況ですが、とにかくひたむきに、お客さんに受け止めてもらえるように」とご本人がおっしゃっている通り、言葉だけで、映像を見るより胸をえぐる伝え方が出来るということ、“言葉のチカラ”を知らしめる演技だったと思います。

最後にタマシイは言います。
「まるで世界中が催眠術にかかっている。ぼおっとしながら、くり返しくり返しロープにはね返っては戻ってくる。そこで止まれないのか?止まれるはずだ、人類ならば。あったことをなかったことにしてはいけない。人はいつも、取り返しのつかない力を使った後で、無力という力に気づく。まだ遅くはないのよ。

野田秀樹はきっと信じているのだろうな。
言葉のチカラを。
言葉に込められたメッセージを受け取る人間の魂を。
受け取ったメッセージを次代へ繋ぐことができる人類の未来を。



私たちは本当に止まれるのか、のごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 177 わーい(嬉しい顔) vs 176 ふらふら)


posted by スキップ at 03:30| Comment(9) | TrackBack(3) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あっ、映像のはなし!!
Posted by BlogPetのららら at 2007年02月02日 15:47
私が観たのは開幕して間も無くの頃だったので、
細かいトコロはすっかり忘れておりました。
スキップさんのレポを読んで、
(おぉ~そうだった!)と思い出しましたよ!(笑)
本当は1月にも観に行こうと目論んでいたのですが、
ご存知の通り「朧祭」に夢中になっていたので諦めました。(笑)

この芝居、野田さんにしては珍しく、かなりストレートなセリフが多かったですよね。
おかげで非常に分かり易かった反面、
難解な野田作品から離れてしまったようで淋しくもあり。
でも野田さんが伝えたかった言葉は、観客達の胸にしっかり届いたと思います。

りえ嬢の実況での叫びを聞いた我々は、その惨劇を忘れる事無く、
伝えていくという大きな使命を与えられたんですよね。
ビショビショのタマシイ、確かに受け取りました。(笑)
Posted by at 2007年02月04日 01:20
♪麗さま

前作の「オイル」もそれまでの野田作品よりかなりストレートと感じましたが
さらに直球でしたね。
それでも、声高に反戦とか反暴力を訴えるのではなく、こういう伝え方も
あるのだな、と今さらながら野田秀樹さんの力量に敬意を表する思いでした。
でも正直言うと、感想をまとめるのは私にとってはかなり手強くて、時間が
かかったわりにはこれしきのものしか書けませんでした(泣)。

ところで、「朧祭」大阪担当の私、昨日開幕です(笑)。
Posted by スキップ at 2007年02月04日 02:30
スキップさま

素敵な感想有難うございました。
野田さんが「言葉のチカラ」を信じているというコメントに深く頷きました。
スキップさまの感想はいつもとても素敵で大好きです。

豆いいな~、古田さん最高♪
Posted by dandan at 2007年02月04日 17:04
♪dandanさま

ありがとうございます。でもお恥ずかしいわ。
かなり強敵のお芝居で、自分では不本意な感想になりました。
dandanさんがブログでお書きになっていた通り、野田さんの思いあふれる舞台
だったと思います。こんなお芝居を観ると、野田さんのような方と同時代に生きて、
ライブでお芝居を楽しませていただける幸せを感じますね。

豆はまだ食べずに眺めてはニヤニヤしています(笑)。
歳の数なんて食べたらあっという間に完食ですから(爆)。
Posted by スキップ at 2007年02月04日 19:08
スキップさん>
近い日程でご覧になってたんですね。
感想を拝見しながら、舞台を観て感じた苦しさを、
反芻するかのようでした。

>私たちは本当に止まれるのか

後半は特に、そのことが頭の中をグルグルしてた
気がします。
自分の弱さ脆さを痛感しながら、止まれなければ
の想いも強くしました。

野田さんが投げかけたモノが、あまりに重くて、
でもシッカリ受け止めようとも思いました。

トラバさせていただきました。
Posted by midori at 2007年02月06日 14:10
♪midoriさま

トラックバックありがとうございました。
野田さんのお芝居はただ重いだけでなく、いつも未来への希望のようなもので
結ばれていて、そのお陰で救われるようでもあり、またしっかりと受けとめなければ、
という気持ちにもなります。
見えない力に衝き動かされてみんながひとつの方向に走ってしまった時、
私は本当に止まれるのか、押しとどめることができるのか、正直言って
よくわかりません。でもそんな時にも野田さんが放ってくれたメッセージだけは
しっかり心に刻みつけておきたいと思っています。
Posted by スキップ at 2007年02月07日 03:23
私は衝撃が大きすぎて最後の方の記憶が封印されてしまっていて、戯曲をお借りしてようやく反芻することができました。3ヶ月以上たっての感想アップですがTBさせていただきましたm(_ _)m
宮沢りえちゃん、舞台では初見でした。映画「父と暮せば」のさらに延長線上にあるお役だと思うのですが、今回のタマシイの台詞には彼女の魂もこめられていると感じました。
>言葉だけで、映像を見るより胸をえぐる伝え方が出来るということ、“言葉のチカラ”を知らしめる演技......まさにそんな感じでした。いかにもベトナムでの大虐殺の生き残りというのにふさわしい華奢な身体も活きていました。
井上ひさしも野田秀樹も今の時代の中で身を削ってメッセージを発信していると思えます。しっかりとそれを受けとめて感性をくもらせずに生きていきたいです。
Posted by ぴかちゅう at 2007年04月21日 21:55
♪ぴかちゅうさま

確かに、衝撃というか、心に重くのしかかってくる舞台でした。
宮沢りえさんは私も初見でした。透明感のある雰囲気と言葉を
大切に発する台詞回しがタマシイという役にぴったりでしたね。
野田秀樹さんが私たちに伝えようとするメッセージはいつもとても
厳しいけれど、彼が情熱を失わず発信し続けてくれる限り、
それをしっかり受けとめてゆくのが、見る側の私たちに課された
責任でもあるのでしょうか。
Posted by スキップ at 2007年04月23日 00:27
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『ロープ』@渋谷シアターコクーン
Excerpt: 3年ぶりの野田新作!すっごく楽しみにしていたこの公演。 幕が上がってまだ間もないですが早速観てきましたよー! 「ロープ」 (以下ネタバレバレ)
Weblog: ARAIA -クローゼットより愛をこめて-
Tracked: 2007-02-04 01:11

「ロープ」NODA・MAP第12回公演
Excerpt: 次にアップするのは、「青春の残光[2]」のつもりだったのです!が…。“予定は未定”という感じです。(爆) NODA・MAPの最新作を先に挙げます。
Weblog: 好きなことは止められない♪
Tracked: 2007-02-06 14:04

06/12/27 悪夢のような喜劇NODA・MAP『ロープ』
Excerpt: {/hiyo_shock1/} この3ヶ月を振り返ったら観たものは全て感想をアップしてたのに、年末の「ロープ」だけ書いていなかった。一月の半ばに一度書こうとしたのだが、最後がどうしても思い出せなくて挫..
Weblog: ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記
Tracked: 2007-04-21 21:40