2023年04月28日
舞台人たちの舞台讃歌 「ショウ・マスト・ゴー・オン」
「笑の大学」の感想アップした勢いで、昨年観たまま感想書けていかなかったこちらもアップしてしまいましょう。
「笑の大学」が25年ぶりなら、「ショウ・マスト・ゴー・オン」は東京サンシャインボーイズ時代以来、28年ぶりの上演です。
福岡、京都公演の小林隆さんに始まり、東京ではシルビア・グラブさん、浅野和之さん、ついには主演の鈴木京香さんの代役まで三谷幸喜さんが演じるという、まさに「ショウ・マスト・ゴー・オン」を地で行く事態にも耳目が集まりました。
「ショウ・マスト・ゴー・オン」
作・演出:三谷幸喜
美術:松井るみ 照明:三澤裕史
衣装:前田文子 音楽・演奏:荻野清子
出演:鈴木京香 尾上松也 ウエンツ瑛士 シルビア・グラブ
新納慎也 今井朋彦 藤本隆宏 小澤雄太 峯村リエ
秋元才加 井上小百合 中島亜梨沙 大野泰広 荻野清子
浅野和之 三谷幸喜(小林隆代役)
2022年11月19日(土) 6:00pm 京都劇場 1階G列上手
(上演時間:2時間20分/休憩 15分)
ある劇場の舞台袖。上手に少しだけ舞台が見えます。
「マクベス」開演直前で舞台監督の進藤(鈴木京香)をはじめスタッフが慌ただしく開幕の準備をする中、間もなく客入れも始まるという時間になってもマクベス役の座長の宇沢(尾上松也)の姿は見えず、外国人演出家も秋葉原で迷子になって現れません。昨日舞台監督に叱られた若いスタッフは無断欠勤、ミュージシャンたちも来られなくなり、ようやく現れた宇沢は泥酔した昨夜の酒が抜けず・・・と次から次へと想定外のアクシデントが降りかかる中、何とか切り抜けて上演しようとスタッフ、役者たちが悪戦苦闘します・・・。
「私もついに京都劇場デビューすることになりました」という三谷幸喜さんの開演アナウンス。
大混乱の舞台裏に突然現れる、無断欠勤したスタッフの父親役を小林隆に代わって三谷さんが勤めての上演でした。
「一度幕が開いた以上は何が何でも絶対に降ろさない」という、舞台人たちの奮闘を描いたコメディ。
畳みかけるようなドタバタ喜劇の中に、舞台人たちの気概とプライドが高らかに響く舞台讃歌でもありました。
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2023年04月26日
検閲官の自負 座付作家の矜持 「笑の大学」
1996年初演、1998年に再演された三谷幸喜さんの代表作とも最高傑作とも称される作品。
三谷さんが「託したい俳優さんに出会うまで再演はしない」と決めていた舞台の、25年ぶりの上演です。
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
「笑の大学」
作・演出:三谷幸喜
美術:堀尾幸男 照明:服部基
音楽:荻野清子 衣装:前田文子
出演:内野聖陽 瀬戸康史
2023年4月15日(土) 1:30pm 兵庫県立芸術文化センター
阪急中ホール 1階H列センター
(上演時間: 1時間50分)
戦時色が色濃くなった昭和15年の東京。
警視庁取調室で検閲官の向坂睦男(内野聖陽)と対峙するのは劇団「笑の大学」の座付作家 椿一(瀬戸康史)。
演劇や笑いに全く興味がなく、上演中止に追い込もうと執拗に難癖をつける向坂に対し、何としても上演許可がほしい椿は、向坂が要求する無理難題に苦慮しながらも諦めずに何度も台本を書き直し、ついに上演許可を得ることができました。しかし、その喜びから椿がつい発したひと言により、向坂は国家権力の末端である自身の職責を再認識して態度を硬化させ、改めて椿に「この本から笑いの要素をすべてなくせ。そうでなければ上演許可は出せない」と言い放ちます。その夜、椿が一睡もしないで書き上げた台本は・・・。
「全国ツアーも終盤にさしかかってきました。皆さんにうれしいお知らせがあります。
内野聖陽も瀬戸康史もいい加減疲れています。今日はいい感じで力の抜けた舞台をお届けすることができると思います。」
という三谷幸喜さんの爆笑アナウンスで始まった舞台。
力抜けたどころかバチバチに火花散らす2人
検閲官としての向坂の自負
座付作家としての椿の矜持
笑いと背中合わせのように
一転して顔を出す苦さ切なさ
「さるまた失敬」に始まって、「ジュリオとロミエット」、向坂の家に迷い込んできたカラスの武蔵、「お国のため」・・・次々繰り出されるコメディな展開に声をあげて笑って観ていたら、突然ひやりと冷たいものが背筋を走って、最後は涙。
三谷幸喜さんの術中にまんまとハマった1時間50分。
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2023年04月23日
怖がらないで 「Don't freak out」
ナイロン100℃結成30周年記念公演第1弾。
東京公演の会場がザ・スズナリで、ナイロンの本公演としては1997年以来26年ぶりと話題になりました。
230席のスズナリと同規模の劇場としてアート館が選ばれたのかなぁとも思いますが、ナイロンの公演を初めて観たのが今はなき近鉄小劇場だった不肖スキップ。アート館でナイロンを観られる日が来るなんて、胸熱でした。
ナイロン100℃ 結成30周年記念公演第一弾
ナイロン100℃ 48th SESSION
「Don’t freak out」
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
美術:秋山光洋 照明:関口裕二
音楽:鈴木光介 映像:上田大樹 石原澄礼
衣裳:宮本宣子 振付:崎山莉奈
出演:松永玲子 村岡希美 みのすけ 安澤千草 新谷真弓
廣川三憲 藤田秀世 吉増裕士 小園茉奈 大石将弘
松本まりか 尾上寛之 岩谷健司 入江雅人
2023年4月1日(土) 1:00pm 近鉄アート館 A2列センター
(上演時間: 2時間20分)
大正から昭和のはじめごろ、山里にある精神病院を経営する天房家で住込み女中として働くくも(村岡希美)とあめ(松永玲子)の姉妹。
部屋の中には地下に通じる入口があり、天房家の長男で心を病んだ征太郎(みのすけ)が閉じ込められていました。天房家は征太郎の妻・雅代(安澤千草)と結婚した次男の茂次郎(岩谷健司)が当主となっていましたが、実権は大奥様と呼ばれる母のせん(吉増裕士)が握っていました。征太郎の娘・颯子(松本まりか)、茂次郎の息子・清(新谷真弓)がともに暮らす天房家。複雑さといびつな闇を抱える天房家の秘密を把握する女中姉妹にもまた、逃れられない影と因縁がありました・・・。
物語はくもとあめ姉妹が住まう女中部屋で展開しますが、下手側は母屋へと通じ、上手側には外へと繋がる勝手口があって、いろんな人がこの部屋に出入りし、また時に地下や窓の外にも人が行き来して奥行きや広がりのある空間となっています。
囲炉裏が切られた土蔵の中のような部屋に板塀、時代を感じる家具や座布団、とても丁寧につくり込んだ舞台美術が目を引きます。
映像や照明、衣装や音楽含め、ナイロンの公演は細部までこだわりとセンスが行き届いていてほんとすばらしい。
役者さんは、こちらのフライヤーの画像のように白塗りにゴシックホラーっぽいメイク。
いわゆる放送禁止用語もバンバン出てきて、ナイロンの公演の中ではダークサイドの作品です。
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2023年04月20日
スターウォーズジェットに乗って東京二座
昨日は東京へ。
今月2回目の状況です。
珍しく同じ劇場でマチソワではなく、ニ座ハシコしました。
飛行機で羽田空港に到着してまずは歌舞伎座へ。
鳳凰祭四月大歌舞伎 昼の部を観て人形町に移動。
明治座 壽祝桜四月大歌舞伎 夜の部を観ました。
なんと、歌舞伎座は今年初、なんとなんとー 明治座に行くのは7年ぶりでした。
2日間で東京四座とかしていた頃が夢のようです。
冒頭とこちらの画像は飛行機の窓から見えた富士山。
伊丹空港離陸時は雨模様でしたが、空の上は青空。
飛行機から見るといつも ♪頭を雲の~ 上に出し~ という歌詞がリアルに感じられます。
この日のフライトはスターウォーズジェットでした。
これまで何度か見かけたことはありましたが搭乗したのは初めて。
ヘッドレストカバーもドリンクサービスのカップもスターウォーズで、プチテンションあがりました。
しかーし ほぼ1日中座っているのはさすがに少しコタエてきました の地獄度 (total 2388 vs 2387 )
2023年04月17日
星組 「Le Rouge et le Noir ~赤と黒~」 ジュリアンを取り巻く人々編
「Le Rouge et le Noir ~赤と黒~」
まだまだ語り切れない思いはありつつ、ジュリアンを取り巻く人々について。
宝塚歌劇 星組公演
「Le Rouge et le Noir ~赤と黒~」
D'après l'œuvre de Stendhal «Le Rouge et le Noir, l'Opéra Rock»
Produced by Sam Smadja - SB Productions
原作:スタンダール
作曲:ウィリアム・ルソー&ソレル
作詞:ザジ&ヴァンサン・バギアン
脚本:アレクサンドル・ボンシュタイン
潤色・演出:谷 貴矢
本編&ジュリアンについてはこちら
ジェロニモ:暁千星
ストーリーテラーとパリの人気歌手という二つの顔を持つジェロニモ。
物語はジェロニモで始まり、ジェロニモで終わるという、キーパーソンです。
礼さんに負けず劣らず、”新しい暁千星”を見せてくれました。
オープニングでは客席をいじって会場を温め、時に物語の外で俯瞰して人々を眺め、またある時は”歌手ジェロニモ”として物語の中で息づく・・・
上着を着替えるだけで自在に物語を行き来していました。物語の中ではジュリアンをからかうように楽しそうに絡んでいますが、彼の一番の理解者であったように思います。
スケール感を増した歌唱はのびやか。歌唱力ぐんぐん上昇してどこまでいくのでしょう。
礼さんとの並びもハーモニーもとてもよくて、今後のことありに期待しかありません。
長い手足を活かしたダイナミックなダンスも見応えたっぷり。
長いといえば、ヴァルノ邸のパーティで「ブルジョアはなんて素晴らしい」を歌う時、テーブルに片足かけるの、けしからんほど足長でしたね。
物語のはじめの方で2階部分で椅子に座ってお水を飲む姿も話題になりました。
冒頭で客席に「あなた私をご存知ですか?」と聞いて「ありちゃん」と言われた回があって、「ありちゃんって、誰ですか💦」とちょっと焦って中の人が顔を出していたの、かわいかったです。
ルイーズ:有沙 瞳
町長の貞淑で信心深い妻。
身分や地位、財産といった”幸せ”のために愛のない結婚をしたということを自覚しつつも今の暮らしにそれなりに満足していたのに、ジュリアンから直球の告白を受けてその愛を受け容れるという女性。
不貞が発覚した途端、保身のためにジュリアンを遠ざけることや後半の「背信」含めて(ヴァルノ夫妻にそそのかされたとはいえ)、ともすれば観る者の反感を買いそうな役どころを絶妙な塩梅で見せてくれた魅力的なルイーズでした。
地毛で薄化粧なのに肌がとても綺麗で美しく、匂い立つような色気があって。
定評のある歌ももちろんすばらしかったです。
マチルド:詩ちづる
パリの有力貴族の令嬢でたくさんのお婿さん候補に辟易している少し気難しいお嬢様。
二幕冒頭はマチルドの「退屈」という歌で始まるのですが、これがまぁとても鮮やかですばらしかったです。
初舞台のころから注目されていて抜擢もされてきた詩さんですが、これほど一つの場面でセンター取るのは初めてながら実に堂々としていて、一気に花開いたという感じです。
赤いミニのドレスにリボンで編み上げた靴、カーリーな髪を高い位置でツインテールにしてしかも後ろの分け目はジグザクという凝った髪型もとてもキュート。
これ以降はずっと黒いドレス(結婚式もヴェールだけ白でドレスは黒のまま)でした。
マチルドは気位が高いけれど聡明な女性。
ジュリアンは、ルイーズとは情=愛で、マチルドとは知=精神で結ばれていたのではないかと思いました。
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2023年04月16日
光を知らなければ 怒りに身を委ねて生きてゆけたのに 星組 「Le Rouge et le Noir ~赤と黒~」
宝塚歌劇 星組公演
「Le Rouge et le Noir ~赤と黒~」
D'après l'œuvre de Stendhal «Le Rouge et le Noir, l'Opéra Rock»
Produced by Sam Smadja - SB Productions
原作:スタンダール
作曲:ウィリアム・ルソー&ソレル
作詞:ザジ&ヴァンサン・バギアン
脚本:アレクサンドル・ボンシュタイン
潤色・演出:谷 貴矢
音楽監督・編曲:太田 健 編曲:多田里紗
振付:御織ゆみ乃 若央りさ 港ゆりか
装置:國包洋子 衣装:加藤真美
照明:笠原俊幸 映像:溝上水緒
出演:礼 真琴 暁 千星 白妙なつ ひろ香 祐 有沙 瞳
小桜ほのか 朱紫令真 希沙 薫 碧海さりお 夕陽真輝
瑠璃花夏 詩 ちづる 鳳花るりな 星影なな 彩夏こいき
凰陽さや華 和波 煌 乙妃優寿 絢咲羽蘭 馳 琉輝/
英真なおき 紫門ゆりや
2023年3月23日(木) 4:30pm シアター・ドラマシティ 13列下手/
3月26日(日) 11:00am 10列上手/3月27日(月) 1:00pm 16列下手/
3月29日(水) 11:00am 2列下手/4:00pm 20列センター/
4月9日(日) 11:00am 日本青年館ホール 1階P列下手/
4:00pm 1階D列センター
(上演時間: 2時間40分/休憩 25分)
物語の舞台はナポレオンが没し、王政復古となったフランス。
フランス東南部の小都市ヴェリエールに貧しい大工の息子として生まれたジュリアン・ソレル(礼真琴)は、美しく聡明で強い自負心を持った青年でした。ナポレオンを崇拝し、いつかは立身出世して富と名声を手に入れるという野望を抱いていたジュリアンは、町長のレナール(紫門ゆりや)の子どもたちの家庭教師となり、そこで美しいレナール夫人(有沙瞳)と出会い恋に落ちます。しかし、ジュリアンに恋していた女中のエリザ(瑠璃花夏)がレナールと競い合う貧民収容所の所長ヴァルノ(ひろ香祐)に密告したことによってレナール家を追われます。
パリへ出て貴族のラ・モール侯爵(英真なおき)の秘書となって有能な仕事ぶりが認められ重用されていたジュリアンにかつてヴァルノ邸で知り合った歌手のジェロニモ(暁千星)は侯爵家の令嬢 マチルド(詩ちづる)と恋のゲームをしてはどうかと勧めます。恋の駆け引きから本気で愛し合うようになったジュリアンとマチルド。反対していたラ・モール侯爵もついに二人の仲を認め、結婚式を迎えますが・・・。
プログラム裏面の「赤と黒」も素敵
スタンダールの名作を、「1789」「ロックオペラ モーツァルト」などを手がけたフランスのプロデューサー アルベール・コーエンがロックオペラに仕立てて2016年にパリで初演されたフレンチロック・ミュージカルの日本初演。
最初に観た時からかなり衝撃でした。
この感じは同じフレンチロック・ミュージカル「ロミオとジュリエット」の日本初演(2010年 宝塚歌劇星組)を初めて観た時と同じ感覚。
ジェロニモが登場してイントロダクションからの出演者全員で「心の声」の合唱となり、最後にジュリアンが現れて歌い始めると、大げさでなく背中がゾクゾクして、「この作品好き~」と思いました。
さらにそれを決定づけたのが「ラテン語で聖書を暗唱する歌」(後で「知識こそが武器」というタイトルを知る)。
ラモール家の家庭教師が大工の息子と知って侮るヴァルノに対して、ジュリアンが、ルイーズが手にした聖書のどこでもラテン語で暗唱すると言って歌い出す曲。
覇気のない暗い目をして、少し猫背で陰鬱なジュリアンが一瞬で覚醒して爆発する感じ。
第一声で椅子から転げ落ちそうになるくらい衝撃を受けて電流が走りました(二度目)。
スタンダールの原作はずい分前に読んだことがあって、柴田侑宏先生脚本の宝塚歌劇の舞台も何度か観たことがありますが(直近は2020年の月組御園座公演)、正直のところ物語そのものはそれほど好きとは言えず、ジュリアンにもそこまで共感することはありませんでした。
ところが
知っているはずの物語なのにまるで初めて観るような世界観。
楽曲も
脚本も演出も
衣装も美術も照明も大好き
もちろん出演者も皆すばらしい
かなり挑戦的な作品という印象もあって、礼真琴さんにとっても星組にとっても、そして宝塚歌劇にとっても、エポックメイキングな作品となるのではないでしょうか。
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