
2023年エンタメはじめが宝塚なら、2022年の締めくくりはこちらの舞台。
シアターコクーン芸術監督・松尾スズキさん 2年ぶりの新作です。
作・演出ばかりでなく全編の作曲、さらにはポスターイラストも自ら手掛けられたのだとか。
COCOON PRODUCTION 2022「ツダマンの世界」
作・演出:松尾スズキ
音楽:松尾スズキ 城家菜々
美術:石原敬 照明:大島祐夫 衣裳:安野ともこ 映像:上田大樹
所作指導:藤間貴雅 振付:振付稼業air:man
宣伝イラスト:松尾スズキ 宣伝美術:榎本太郎
出演:阿部サダヲ 間宮祥太朗 江口のりこ 村杉蝉之介 笠松はる 見上愛
町田水城 井上尚 青山祥子 中井千聖 八木光太郎 橋本隆佑 河井克夫
皆川猿時 吉田羊
2022年12月29日(木) 1:00pm ロームシアター京都 メインホール 1階4列センター
(上演時間: 3時間25分/休憩 20分)
昭和初期から戦中、戦後にかけての物語。
生まれてすぐ母と離れ離れになり、義母(吉田羊)に育てられた津田万治(阿部サダヲ)は、母から厳しくしつけられ何かと反省文を書かされたことが文章力につながり小説家となります。
中年にさしかかり、ようやく文壇最高峰の月田川賞の候補作となったことを機に、賞の選考委員でもある万治の幼なじみ 大名狂児(皆川猿時)が薦める戦争未亡人の数(吉田羊)と結婚しますが、万治には劇団の女優にしてカフェで歌も歌う神林房枝(笠松はる)という愛人がいました。さらには、弟子になりたいとやってきた佐賀の豪商の三男坊・長谷川葉蔵(間宮祥太朗)と彼の世話係で番頭の強張一三(村杉蝉之介)などがが取り巻く中、戦況が激しさを増し、月田川賞選考会は中止、大名も万治も招集され戦地へと向かいます・・・。
津田家の女中 オシダホキ(江口のりこ)が語り部となってと3人(大名・神林・強張)の幽霊(?)とともに回想する形で物語は進みます。
ツダマンの半生を辿りつつ、彼を取り巻く市井の人々の生き様や戦争を巡る国内外の状況、そして戦後の日本などを描いて一大叙事詩の様相。
もちろんツダマンが主人公の物語ではあるのですが、強烈な個性を放つ大名や狂気すら感じさせる長谷川などを含めた群像劇のようにも見えました。
そして、戦争。
日本が太平洋戦争の真っ只中に突入して、国内はもちろん、満州やかの地にいた人々がどのように生きたのか、笑いに包まれ、デフォルメされてはいましたが、ツダマンの戦地での体験、大名狂児の変遷などはまさにあの時代を象徴するものではなかったかと思います。
ツダマンを通して松尾さんが描きたかったのは、戦争が大きな影を落とした昭和という時代・・・愚かしくも悲惨な戦争の狂気と、終戦を境にそれまでの価値観までも変えることを余儀なくされた日本人の心のありようだったのかなと感じました。
もう一つ感じたのは女性の強さ。
飄々としたオシダホキと、常に従順で自分を押し殺しているような数。
ツダマンとその周りの人々を黙々と観察し続けているホキは逞しくしたたか(ツダマンとも関係があった様子)。
夫が戦地から弟子の長谷川に長い手紙を送ってくるのを「私のことは・・」という気持ちを押し込めてじっと耐える数。
その数が最後に感情を爆発させて切る啖呵の胸のすくカッコよさ。
「あー、これ、女性の物語だったんだ」と思った瞬間でした。
数さんがでんぐりがえしをする場面は森光子さんの「放浪記」のオマージュかと思いますが、他にも文学作品や舞台、映画の名場面が散りばめられていて、「あ、あれ!」と思うことしばしば。
エロもグロも、鈍い痛みもあるけれど、こんなエンターテインメント性を忘れないところが松尾さんの世界観。
続きがあります