2022年05月14日

悪いやつしか死なず、弱者が救われる世界は西部劇の中だけ 「広島ジャンゴ 2022」


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蓬莱竜太さんシアターコクーン初登場作品・・・あれ?コクーン初めてだったっけ?と少し驚きました。
2016年に蓬莱さんが広島の劇作家・演劇人とともに創作された作品を、脚本、演出、美術、音楽を一新して、フィクション・エンタテインメント性をさらに高めて上演するものだとか。
だから、「広島ジャンゴ 2022」なのね。


COCOON PRODUCTION 2022
「広島ジャンゴ 2022」
作・演出:蓬莱竜太
美術:愛甲悦子   照明:日下靖順   音楽:国広和毅   
衣裳:西原梨恵   擬闘:栗原直樹   振付:広崎うらん   
出演:天海祐希  鈴木亮平  野村周平  中村ゆり  土居志央梨  
芋生 悠  北 香那   宮下今日子  池津祥子  藤井 隆  仲村トオル ほか
ミュージシャン:熊谷太輔(Dr)  河村博司(Gt)

2022年5月12日(木) 1:00pm 森ノ宮ピロティホール E列センター
(上演時間: 2時間50分/休憩 20分)



舞台は現代の広島の牡蠣工場。
シフト担当の木村(鈴木亮平)は、新入りのパートタイマー・山本(天海祐希)に工場長・橘(仲村トオル)が主催する懇親会への参加を促しますが、職場に溶け込もうとしない山本ににべもなく断られます。工場長や他の従業員との板挟みになって疲弊した木村は、夜自宅で姉のみどり(土居志央梨)と話しながら、お気に入りの西部劇を見るうちに眠り込んでしまいます。そして目覚めた時、そこは水を独占する横暴な町長 ティムが牛耳る西部の町「ヒロシマ」で、山本は子連れのガンマン・ジャンゴ、木村はなぜかその愛馬ディカプリオになっていました・・・。


牡蠣工場の「広島」と西部の町「ヒロシマ」が時空を行き来して展開する物語。
とはいってもメインは「ヒロシマ」の方ですが、これは木村の夢の中の世界で、ここでいろいろなものを見聞きし体験する(馬だけど)ことによって物事の本質や本当の勇気とはといったものを理解していく、木村の成長物語と感じました。

ヒロシマは、広島の工場の人間関係がデフォルメされて、さらに暴力的な無法地帯になっています。
広島カープの熱烈なファンで、工場では皆一致団結を旨とし、懇親会も全員参加が当然という工場長はワンマンだけれどもいかにも小市民的で、いるよねー、こんな人、という感じ。
一方、ヒロシマの町長 ティムは、川の水をせき止めて町を干からびさせておいて、自分の井戸から湧き出る水を売って暴利を独占し、その状況に異を唱え新たに水源を得ようとする者の家を焼いてしまうなど情け容赦なく極悪非道。

夫のDVから逃れて娘と牡蠣工場のある町に隠れ住む山本に対し、自分への暴力ばかりでなく、娘への性暴力に耐え兼ねて夫を殺して、その首には賞金がかけられているヒロシマのジャンゴ(本名はアンヌらしい)はかなりシビア・・・さらにその殺人にも”実は・・”があって。


木村が何度も口にする、クリント・イーストウッドが活躍する西部劇が大好きな理由は
「悪いやつしか死なず、弱者が救われる世界」 だから。

それは誰もが憧れ、そうなればいいと願っている世界ですが、現実は不公平や理不尽なことだらけで、悪いやつははびこり弱者には冷たく、勧善懲悪なんて物語の中だけの話だということを、今を生きる私たちは肌身に沁みて感じています。

だから、正義を貫こうとして家を焼かれ、井戸を壊されたチャーリー(藤井隆)が、”家族を守るため”にティムの言いなりになってそちら側の人間として働き、自らの弱さに耐え切れず酒に溺れる姿を、私はとても責める気持ちになれませんでした。妻のマリア(中村ゆり)が堕ちていく様も、直視するのが辛いほど。


続きがあります
posted by スキップ at 22:51| Comment(2) | TrackBack(0) | 演劇・ミュージカル | 更新情報をチェックする