
珠城りょうさんで楠木正行をと、上田久美子先生が長年温めていた作品。
サヨナラ公演としてばかりでなく、一舞台作品としても出色の出来ばえです。
“史実”という下敷きがあることを差し引いても、原作のないオリジナル作品で、ここまで緻密にクオリティ高く、そしてドラマチックで切ない悲劇を書き上げ演出した上田久美子先生、それに応える見事な芝居を繰り広げた珠城りょうさんはじめ月組の面々、研ぎ澄まされた美しい言葉で紡がれる台詞、心に響く歌詞と音楽、楠木家の家紋をモチーフにした三兄弟の戦装束をはじめ美しい衣装の数々、あふれんばかりの桜と吉野川が哀しくも美しい舞台装置、すべてがピタリとハマって、本当にすばらしい舞台となっていました。
ナマの舞台を7回、新人公演、そして配信と計9回観ましたが、可能ならばもっともっと観たかったくらい。
これから吉野の桜の便りを聞くたびに、いや、吉野という言葉を聞くたびに、胸がきゅっとなって、この物語とあの出陣式の場面を思い浮かべるに違いありません。
後村上天皇が詠んだ「年ふれば 思ひぞ出づる吉野山 また故郷の名や残るらん」という歌とともに。
宝塚歌劇 月組公演
ロマン・トラジック 「桜嵐記」
作・演出: 上田久美子
作曲・編曲: 青木朝子 高橋恵
振付: 若央りさ 麻咲梨乃 殺陣: 栗原直樹
装置: 新宮有紀 衣装監修: 任田幾英 衣装: 薄井香菜
所作指導: 花柳寿楽
出演: 珠城りょう 美園さくら 月城かなと 光月るう 夏月 都
紫門ゆりや 白雪さち花 千海華蘭 鳳月 杏 香咲 蘭 輝月ゆうま
楓 ゆき 晴音アキ 春海ゆう 夢奈瑠音 颯希有翔 蓮つかさ
海乃美月 佳城 葵 暁 千星 英 かおと 風間柚乃 天紫珠李
礼華はる 結愛かれん 蘭世惠翔 きよら羽龍 詩 ちづる/一樹千尋 ほか
2021年5月20日(木) 3:30pm 宝塚大劇場 2階1列センター/
5月27日(木) 3:30pm 1階21列下手/5月30日(日) 3:30pm 1階13列下手/
6月4日(金) 1:00pm 1階14列下手/6月6日(日) 3:30pm 1階24列上手/
6月17日(木) 11:00am 1階9列センター/
6月20日(日) 11:00am 1階3列センター/6月21日(月) 1:00pm 配信視聴
(上演時間: 1時間35分)南北朝の動乱期。
京を失い吉野の山中へ逃れた南朝の行く末には滅亡しかないことを知りながら、最期まで南朝に殉じた父正成(輝月ゆうま)の遺志を継ぎ、弟・正時(鳳月杏)、正儀(月城かなと)とともに戦いに明け暮れる日々を送る楠木正行(珠城りょう)の短くも鮮烈な生き様を、北朝軍によって父・日野俊基が処刑され、一族を皆殺しにされた弁内侍(美園さくら)との儚い恋をからめて描いた物語。
ハマる予感はありました。
上田久美子先生の切ない物語が大好きで日本史好き。特に負け戦に挑む悲劇の武将にとてもヨワイ。
加えて、楠木正成、正行親子はわれらが河内のヒーロー。千早赤阪村(劇中では赤坂)、湊川、天王寺、阿倍野、羽曳野、四條畷、そして吉野と、この物語に出てくる地はいずれも身近な場所・・・観る前から「私が好きそうな作品」と思っていましたが、そんなレベルではありませんでした(^^ゞ
劇場で観てごんごん泣くのはもちろんのこと、たとえば家にいる時、オフィスや通勤電車の中で、ふと「桜嵐記」の場面や台詞、歌詞がフラッシュバックして鼻の奥がつーんとなり涙ぐんでしまうこともしばしば。こんな経験は初めてで、自分でも驚いています。
続きがあります