
1973年に初演された井上ひさしさんの初期の代表作のひとつ。
2007年 古田新太さん(蜷川幸雄さん演出)、2012年 野村萬斎さん(栗山民也さん演出)と観てきて、今回が3度目の観劇です。
「藪原検校を市川猿之助主演で」と聞いた時、あ~、もうぴったりなんじゃない?と思いました。
演出は今や猿之助さんの盟友のひとり 杉原邦生さん。
劇場20周年記念プレ公演 京都芸術劇場 春秋座 芸術監督プログラム
PARCO PRODUCE 2021 「藪原検校」
作: 井上ひさし
演出: 杉原邦生
音楽・演奏: 益田トッシュ
美術: 田中敏恵 照明: 原田保 衣装: 西原梨恵
振付・ステージング: 尾上菊之丞
出演: 市川猿之助 三宅 健 松雪泰子 髙橋 洋 佐藤 誓
宮地雅子 松永玲子 立花香織 みのすけ 川平慈英
2021年3月21日(日) 1:00pm 春秋座 1階9列上手
(上演時間:3時間15分/休憩 20分)
江戸時代、東北の貧しい生まれの座頭・杉の市が悪事を重ね、金を積んで成り上がりながら、盲人の最高位である検校の地位につく直前にすべてが露見して破滅するというピカレスク譚。
PARCO劇場のある渋谷の路地裏を思わせるような、一面にスプレーで描いた落書きがある壁で囲まれた空間。
張り巡らされた黄色に黒文字で”KEEP OUT”と書かれたポリスラインテープ。
ギター片手に登場したミュージシャン(益田トッシュ)が奏でる音楽はエレクトリックポップ。
・・・何度も上演されてきた作品を新しい演出家がやる時、 “今”を採り入れるってわりとよくある手法だよなぁと思って観ていたのですが、ああ、この黄色いテープは、これまで観た2作にも出てきた、井上ひさしさんの戯曲に記述されているという、盲目の世界を囲むロープなのね!と思い至りました。
そういえば、「薄汚れた戸板に囲まれた空間」もそうだったなぁ、と。
物語の途中はそれらに気をとめることもなかったのですが、あの三段斬りのラストとともに聞こえてきた都会の雑踏の音にまたふと渋谷の路地裏が蘇り、演出の杉原邦生さんの確信犯ぶりにヤラレタ思いでした。
井上ひさしさんが40歳の時に書いたエネルギー溢れる問いかけを、38歳の杉原邦生きんが切れ味鋭く“今”に受け継いだ演出。
杉原さんの手腕の鮮やかさとともに、改めて感じ入ったのは井上戯曲の普遍性。
差別を糧として社会の底辺からのし上がった者が最後には民衆の見世物として処罰される残酷さ。
差別する側、される側、その構造も複雑になり形を変えてはいても、時代を超えてなお、差別がなくなることはないし、差別される側の情念や怒りの炎もくすぶり続けていると言われているようでした。
続きがあります