2016年06月20日

六月大歌舞伎 「義経千本桜」 第一部  碇知盛


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仕事で年に何度か尼崎に出向くことがあるのですが、阪神電車の尼崎駅の一つ前が「大物」駅。尼崎で降りて、→大物 という表示を見ると条件反射で、「大物の沖にて判官に仇をなせしは知盛が怨霊なりと伝へよや」と一人ぶつぶつ言う(ちょっとコワい人みたいになってる)ほど知盛好き、大物浦好きのワタクシ。

これまで歌舞伎で観た知盛では、仁左衛門さん、吉右衛門さんがトップ2なのですが、今回 染五郎さんが初役で挑むということで、とてもうれしく楽しみにしていました。


歌舞伎座 六月大歌舞伎 「義経千本桜」 第一部
碇知盛  渡海屋/大物浦

出演: 市川染五郎  尾上松也  中村亀鶴  中村歌昇  坂東巳之助  中村種之助  
澤村宗之助  武田タケル  市川猿弥  市川右近  市川猿之助 ほか

2016年6月12日(日) 11:00am 歌舞伎座 1階1列下手



「義経千本桜」に登場する3人・・平知盛、いがみの権太、狐忠信 一人ずつに焦点をあてて三部制で上演する歌舞伎座の六月大歌舞伎。
冒頭の画像の特別チラシを作成、裏面には源氏、平家の人物相関図を配して、それぞれの人物が登場する一部・二部・三部に色分けするという力の入れようです。

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<クリックすると拡大します>


その第一部 「碇知盛」

碇綱を自らの体に巻きつけ、渾身の力を振り絞って碇を持ち上げて海に投げ入れ、
するする海へと流れ落ちて行く綱とともに一顧だにせず背中から海へ飛び込む知盛。
勇壮な武将の誇りも覚悟も、怨みも哀しみも、すべてその一身とともに。

それまで比較的冷静に観ていたのに、ここに来て涙がどっとあふれました。

市川染五郎入魂の知盛。
気高く、終始気迫に満ちた知盛でした。


とかく線の細さを言われる染五郎さんですが、傘を片手に花道の出からまさしく渡海屋銀平。
ふとした表情が吉右衛門さんに似ていると感じました。
これまでにも台詞回しや所作で「吉右衛門さん写し」と感じることは多々ありましたが、顔が似ていると思ったのは初めて。やはり血は争えないということでしょうか(今回のお役は吉右衛門さんではなく、お父様の幸四郎さんに教わったそうですが)。

銀平では肚に秘めた豪胆よりも、どちらかといえばやわらかさが前面に出た印象でしたが、実は新中納言知盛と現して白糸縅の鎧兜姿になってからは、他を寄せつけない気品と美しさ際立つ中に勇壮さと力強さを見せて。
そして、その白い装束を血に染めて、身体に矢を受け満身創痍の凄愴な姿で再度登場する知盛。
「天皇はいづくにまします、お乳の人、典侍の局」と呼びかける悲痛な叫び。
義経への憎しみの激しさ、悪鬼の如き様から、安徳帝の言葉に心鎮まり、平家の来し方を省み、やがてその幼い帝を義経に託すに至る心情の変化を低めの太い声で重厚感もたっぷりに表現。
すべてを呑み込んで海中へと没していく最期まで、まばたきする間も惜しいくらい目を離すことができませんでした。

染五郎さん、目の中まで赤い血で染めいて、その悲愴感と凄味には圧倒されるばかり。
このチラシとは逆に左目でしたが。

猿之助さんはどちらかといえば、前半の銀平女房お柳のような、市井の世話女房タイプがハマるのかなと思っていたのですが、天皇の乳人としての矜持と品格ある典侍の局、よかったです。
二部、三部で演じる役はどちらも猿之助さんの手の内にある役かと思いますが、典侍の局は初役なのだとか。
「海の底には極楽浄土があってみんなそこにいるから一緒に・・」と辛く哀しい嘘をつく典侍の局。
それに応えて、「・・・波の底にも 都あるとは」と歌を詠む安徳帝。
この2人の場面が切なすぎる(涙)。

IMG_2955.jpgこれが初お目見得 武田タケルくんの安徳帝にも感動。
ビジュアル可愛い上に品もあって、あんなにたくさんの台詞をしっかり。

SwingingFujisanさまが右近さんの「歌舞伎夜話」をレポしてくださっているのですが(→こちら)、その中で、
「安徳帝の台詞は11個あって『ここはこうこうで・・』というふうに、意味・情景を教えながら覚えさせた」と右近さんがおっしゃっているのを読んで、だからあんなにちゃんと心に訴える台詞が言えるのね、とお稽古する父子の姿とも重なってウルウル。

そのお父上 右近さんは相模五郎。
渡海屋では亀鶴さん入江丹蔵とともにヘタレの悪役で、銀平にやり込められたり、魚づくしで笑いを取ったり。
後半は一転して勇壮な武将。相模五郎が御注進している間、安徳帝タケルくんはガン見していました。

松也くんの義経筆頭に、四天王は歌昇・巳之助・種之助・宗之助と花形歌舞伎のような顔ぶれ。
そしてすべてが終わった幕外で締める弁慶は猿弥さん。法螺貝、ちゃんとご自分で吹いていらっしゃいました。


滅びの美学。
「判官贔屓」というのは頼朝に追われる義経に端を発した言葉ですが、「義経千本桜」で私たちが贔屓する判官は「平氏」だよなぁと改めて思いました。


所作事 時鳥花有里
振付: 藤間勘十郎
出演: 中村梅玉  市川染五郎  市川笑三郎  市川春猿  中村東蔵  中村魁春


これは初めて観ました。
母常盤御前ゆかりの大和国へ向かう義経(梅玉)と、家臣の鷲の尾三郎(東蔵)。
そこへ白拍子(魁春、笑三郎、春猿)や傀儡師(染五郎)が現れ、義経を慰めるため、賑やかに踊ってみせます。実は、白拍子や傀儡師たちは龍田明神の使者で、義経に吉野の川連法眼を頼るようにと神託を下すのでした。

・・・というお話は後で説明を読んで知ったこと。
何だか華やかで明るい舞踊だなぁと思って楽しく観ていました。

染五郎さんの傀儡師が3つのお面を何度もつけ変えて、そのたびに踊りもその面に合わせて変わる・・というご馳走のような見どころがあります。知盛、義経、弁慶、静御前を踊り分けているのだそう。
最前列の下手側の席でしたので、少し斜めから観る角度で、後見さんが染五郎さんの後ろに張り付いて、次の面を準備して手の高さもタイミングもこれ以上ないというところですばやく渡して、染五郎さんはそれを受け取って何でもないように前を向いて踊る、時には後ろ手でも受け取って・・というのに惚れ惚れ見とれました。
あの息の合い方は凄い。またその後見さんがキリリとしたイケメンなんだ
筋書を買っていないので確信持てないのですが、多分 猿四郎さんかな。
確かラスベガス歌舞伎で殺陣師されていた方で染五郎さんとは息も合うはずです。


二つ お演目の繋がりはよくわからなかったけれど(笑)、趣きのことなった二幕、大変面白く拝見しました。




「大物浦」 ドラマチックでやっぱり好き~ のごくらく度 (total 1581 vs 1584 )


posted by スキップ at 23:16
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