
今秋上演されたばかりの前川知大さんのイキウメ別館カタルシツの「語る室」を題材に、MONOの土田英生さんがホストとなって、作品に対する疑問点や苦言などを前川さん本人に直接ぶつけることで、この戯曲を分析・解体する様をトークバトル形式で見せるという企画。
それを通じてこの2人の劇作家の作劇法やポリシーが浮かび上がってくるという趣向です。
土田さんのTwitterでこの企画を知った時から「絶対行きたい!」と思っていました。
関西版 月いちリーディング スペシャル企画
劇作家協会関西支部プレゼンツ
「劇作バトル! 前川知大 VS 土田英生」
2015年11月27日(金) 7:00pm ドーンセンター パフォーマンススペース
期待に違わぬおもしろさでした。
いかにも関西人なノリ(愛知出身だけど)で表情豊かにツッコむ土田英生さん vs ポーカーフェイスで冷静に応じる前川知大さん。
作風も違うけれどトークの個性も対照的な二人のバトル。
とても聴き応えありました。
お二人のプロット作成の出発点や作品へのアプローチの違いがなるほどな、だったり、驚きだったり。
同じ劇作家ならではの視点も興味深かったです。
ステージ下手に土田さん、上手に前川さんが座り、間にスクリーンがあって、戯曲が映し出されます。
参加者(70人位かな)にはあらかじめ「語る室」のプロットが送付されていて、全員それを手元に持っているのですが、土田さん曰く、「皆さんが持っているプロットと、僕がここに持っているのと、スクリーンに映写されるのと全部違うという段取りの悪さ」で、何ページと言われてもすぐにはそこに辿りつけないという(笑)。
土田さんは、「芝居は観てなくて戯曲だけ読んだ」
ということでしたが、さすがの読み込みぶりと鋭いツッコミでした。
開口一番、「ものすごく上手い。大変おもしろかった」とおっしゃっていました。
以下は印象に残ったことをピックアップ。

配布されたプロットの完成度が高くて驚く土田さん。
脚本の前に書くプロットですが、
前川さんはここで作品の6割ぐらいまで仕上げる(台詞も含めて)。
プロットの他に、各キャラクターのエピソードを時系列に書くこともするそうです。
対して土田さん
ほとんどアドリブ書き。
以前、「一人の犯人」という作品を書いた時、犯人を知らずに(決めずに)書いていた、と。
■ 語り
カタルシツの作品なので、「語る」ことについてが話題のポイントに。
「全員が語る必要があるか?」という土田さんからの問いかけに、
「ある人はこれとこれを知ってて、ある人はこれを・・・お客さんだけが全部知っている、というのをやりたかった」と前川さん。
これ、私、この作品を観た自分のブログの感想に
「彼ら(劇中の人物)には謎のままだけど、観ている私たちは全部わかった」
な終わり方。
と書いたのですが、まんま前川さんが意図したことにハマってるじゃん!と改めて思いました(笑)。
戯曲の語りの部分で、
「 」 がある台詞は聞き手がいない → 客席に向かって話している
「 」 がない台詞は相手に向かって言っている そうです。
土田さんは、
「語りにする必要なかったですね、この作品」
と前川さんに言わせたかったそうで、あれこれ角度を変えてツッコんでいましたが、それは叶わず(笑)。
「映像だと一人の役者にフォーカスしてアップで表情を捉えたりするけど、演劇は映像と違ってアップができない。それが演劇の面白みだと思っている。語りを使うことは映像的じゃないかな」と。
これに対して前川さんは
「『藪の中』(『羅生門ね』と土田さんの注釈入る)のイメージが最初にあって、(『藪の中』の登場人物の)5人が語ることを聞いて想像してお客さんがわかる、みたいにしたかった」
■ 時間の経過
大輔が美和子に車で送ってもらって一旦家に帰った後、また妹と交番にやってくるのは同じ日。
その時間の経過はそれでいいのか?
佐久間は車を盗まれてから交番に行くまで道に迷ってた?(笑)
これは土田さん さすがのツッコミでした。
ここは稽古中に役者さんたちの間でも議論になったところだそうです。
私、言われるまで思ってもみなかったな。
■ 「語る室」で何をやりたかったか
わからないんだけどわかる、というのがやりたい。
「知らないことも感じることができる」みたいな。
霊媒師・佐久間の言った「記憶のプールにアクセスする」のようなことかな?
・・・ここ、ワタシ、お芝居観た時も少しわかりにくかったなぁ、そういえば、と思いながら聴いていたら、次の前川さんの言葉でストンと肚に落ちる思い。
この物語は何も解決していない。、
子どもがどこかで生きていることを美和子は知らないけど、生きているという事実が美和子に何か影響を与える、ということがあったらいい。
「それでいいのよ。私たち、知っているんだから、そのことを。十分だと思わない?」という佐久間の台詞。
この「私たち」を言わせたいために語りにしたようなもの。
■ 劇作について
前川さん: おもしろいな!と思ったことを、おもしろいね、と言いたい
土田さん: 僕は腹立つことを書くのが出発点。
あいつが観たら傷つくだろうってこと書かない?
僕なんか台本渡したら劇団員に「ごめんね」って言われたことある。
「あれ腹立ってたんだね」って。
「自分は度量が狭いので、知って嫌になった人が何人かいて、前川くんはその一人」と土田さん。
→ この度量が狭い発言、以前にも何かのアフタートークで若手の劇作家と話した時言ってたな(笑)。
オカルトっぽいものは今後もやっていく?
「イキウメについてはそのつもり。昔からSFやオカルトが好き。
今興味あるのは、シェルドレイク仮説」
この他にも、
暗転多いのダサいと言われて暗転する時に明かりつけてみた とか
チェルフィッチュの岡田くん(岡田利規さん)が出て来た時、「おはようございます」と言われて「すみません」って言った
とか、土田さんのおもしろ自虐ネタ?も散りばめつつ、2時間弱のトークはあっという間でした。
土田さんは役者としても舞台に立つ方なので、声も大きく口跡がよくて聞き取りやすかったのに対して、静かにボソボソ話す前川さんは聞き取れないことも・・・このあたりも個性の違い際立っていました。
最後に前川さんが「聞いていいですか?」とおっしゃって、
「この芝居(語る室)観た人はどれくらいいますか」と客席を見渡すとたくさんの手が挙がりました(もちろん私も張り切って挙手しました)。
あまり表情を表わさない前川さんですが、その時は少しうれしそうにふっと微笑まれたのが印象的でした。
こんなバトルならいつでも歓迎 のごくらく度


