2015年09月24日

瑠璃色の月 「NINAGAWA・マクベス」

ninagawamacbeth.jpg紫黒の闇に浮かび上がる赤姫の拵えの三人の魔女
満開の桜の木々が動き、花びらが降りしきるバーナムの森
マクベスの命が途絶えた刹那 緋色から瑠璃色へと鮮やかに変わる月

どの場面を切り取っても一幅の絵のよう。
ため息が出るくらい美しい舞台でした。


「NINAGAWA・マクベス」
原作: ウィリアム・シェイクスピア
翻訳: 小田島雄志 
演出: 蜷川幸雄
舞台美術: 妹尾河童 
照明: 吉井澄雄 
音楽: 甲斐正人 
振付: 花柳寿楽
衣裳: 辻村寿三郎 
出演: 市村正親  田中裕子  橋本さとし  柳楽優弥  瑳川哲朗  
     吉田鋼太郎  沢竜二  中村京蔵 ほか

2015年9月19日(土) 1:30pm シアターコクーン 1階 XC列(3列目) 上手
 


蜷川幸雄さん演出の「マクベス」は、以前、唐沢寿明・大竹しのぶのマクベス夫妻で観たことがありますが(調べたら2001年でした。14年も前かぁ・・・遠い目)、こちらのジャパネスクバージョンは未見。
1980年 平幹二朗さん主演で初演され、蜷川さんのヨーロッパデビューとなった作品で、今回17年ぶりの再演だそうです。

「将来、国王になる」という魔女の予言を信じた将軍マクベスが、妻にそそのかされて国王を殺害。王座に就くものの、臣下の報復により破滅していく・・・という血塗られた野望の物語が、台詞や人物設定はそのままに、日本の安土桃山時代に移して、仏壇を模した舞台装置の中で展開されます。


まず最初に挙げたいのはその研ぎ澄まされたような舞台の美しさ。
上述した通り、扉が開けられ、紗がかかったような障子の向こうに三人の魔女が浮かび上がった時、息を呑む思いでした。
衣装、装置、照明、舞台上の配置、そしてもちろん役者さんたちの隙のない佇まい・・・すべてが完璧に一枚の錦絵でした。

この「息を呑む」ような瞬間はその後何度もやってきて、バンクォー暗殺の場面しかり、再度魔女を訪ねる場面しかり。
あの桜舞い散るバーナムの森は美しくまたどこか哀しくて、マクベスが惑わされたのは魔女ではなくてこの桜だったのではなかったかとさえ思いました。
そしてその最たるものが、瑠璃色の月。

緋色の鈍い光を放つ月を背に立つマクダフ
そのマクダフの振り下ろす刀にどっと倒れるマクベス
まさにその刹那、一瞬にして鮮やかな瑠璃色へと移る月
その凍れるような美しさ蜷川さんのシェイクスピア作品は数多観てきましたが、この作品はさすがに気合入りっぷりが際立っています。
それはキャスティングにも表れていて、蜷川さんが信頼を寄せる役者さんたち・・その一人ひとりが意気に感じ信頼に応えて、緊張感を保ちつつ質の高い舞台をつくり上げています。
口跡よい役者さんたちのチカラの入った演技で「マクベス」の名台詞の数々を存分に味わうことができる幸せ。


この作品に描かれるマクベスは、悪心や野心より心の弱さが先に立っている印象を受けました。
それは、悪役を演じてもどこか愛嬌を失わない市村正親さんの個性のなせるワザか、蜷川さんが意図した演出なのかはよくわからないのですが。

弱い心ゆえに魔女の甘言に乗ってダンカン王を暗殺し、
自分を脅かす存在を恐れるあまり盟友バンクォーを亡きものにし、
そんなふうに道を踏み外し続けるマクベス。
誰も信じることができず、孤立し味方は去り、
自死した妻の打掛けを抱きしめて泣き、その打掛けを身にまとうマクベス。

末期の混乱は、何と闘っているのかさえもうわからなくなってしまったかのよう。
あの予言さえなければ、あの予言につけ込まれる心の弱ささえなければ、と思わないではいられません。
そんなマクベスと、先王への忠誠という大義に加えて、妻子を殺害された怒りに烈火の如く燃えるマクダフの雌雄は闘う前から明らか。
もしかしたらマクベスもそれを望んでいたのかもしれないとさえ思えました。
マクダフの剣に倒れたマクベスが、体を丸めてまるで母の胎内で眠る赤ちゃんに戻っていくような姿だったのもとても印象的でした。

市村正親さんはこれがマクベス初役だそうですが、一人で舞台を支配する力はさすがです。
野心と弱さ憐れさを併せ持ち、時に痛々しく感じられることもあるマクベスは、人間味にあふれ、どこか愛おしい。

そのマクベスを「そそのかす」夫人は田中裕子さん。
楚々とした雰囲気の彼女のどこにあの強靭さが潜んでいるのかと驚くようなレディ・マクベス。
そんな強さと、心を病んでしまった後の哀れさとの落差。
ダンカン王暗殺の時、王座に就いた時、マクベスと手に手を取ってひらひらと舞うように着物を翻して奥へ駆けて行く後ろ姿が目に焼き付いています。

「吉田鋼太郎の本気を見た」なマクダフ。
妻子が殺されたことを知らされ、「そんな時に家を離れていたとは」と
血を吐くような慟哭は、聞いているのが辛くて耳を塞ぎたいほど。
マクベスと最期に対峙する時の怒りの向けようは鬼神のごとし。
橋本さとしさんの偉丈夫で殺陣もカッコいいバンクォー
瑳川哲朗さんの威厳あるダンカン王
柳楽優弥くんの前を見据える強い瞳のマルカム王子
ほんの一場面ながら存在感を示した沢竜二さんの門番
・・・ほんと、キャストはみんなよかったな。

マクベス夫人が奏でるチェロをはじめ、「レクイエム」などのクラシック、鐘の音、聖歌、そこに重なる声明や読経・・・和洋が融合した音楽も印象的でした。

最初のうちこそ、「見た目は和風なのに役名や国の名前はそのままなのね・・」などと思っていたのですが、物語が進むうちにそんなことはすっかり忘れていました。
人間の生き様を描くのに洋の東西は関係ない・・・シェイクスピアの普遍性を改めて示された思いです。


この作品、いつもの「蜷川シェイクスピア」だとばかり思っていて「大阪公演あるでしょ」とのんびり構えていたところ、ホリプロだし東京でしかやらないんじゃん!と気づいたのは一般発売も近くなってから。危うく見逃すところでした。
原作、演出、役者、舞台美術、照明、衣装、音楽・・・それらのすべてが高い一点に集中してピタリとハマって昇華した舞台。観客としてそれを観る喜びを感じさせてくれる作品。
見逃さないでよかった、東京まで観に行った甲斐があったと心から思える舞台でした。



「人のいのちは歩きまわる影法師、哀れな役者にすぎぬ」 by マクベス のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1439 わーい(嬉しい顔) vs 1441 ふらふら)
posted by スキップ at 23:38
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