2015年06月09日

心から信じればそこが 「聖地X」

seichix.jpg2010年に初演された「プランクトンの踊り場」をタイトルも改め改訂したブラッシュアップ公演だそうです。
「プランクトン・・」の方は観ていなくて今回初見。


相変わらずSFというか心理ホラーというか、独特の不思議ワールドが展開するのですが、ちょうど1年前に観た「関数ドミノ」やさらにその前年の「片鱗」などに比べると、「コッワ〜」という感じは薄めで、笑いも多く温かみが感じられる作品でした。
おもしろかった!


イキウメ 「聖地X」
「プランクトンの踊り場」改題
作・演出: 前川知大
ドラマターグ・舞台監督: 谷澤拓巳  美術: 土岐研一
出演: 浜田信也  安井順平  伊勢佳世  盛隆二  岩本幸子  森下創  
大窪人衛  橋本ゆりか  揮也

2015年6月5日(金) 7:00pm ABCホール D列下手



物語: 親の遺産で暮らす自称“高等遊民”の山田輝夫(安井順平)が暮らす家へ、主婦である妹の要(伊勢佳世)が夫に嫌気がさして戻ってきます。
ある日 夫の姿を見かけて開業準備中のレストランに飛び込んだ要の前に現れたのは、携帯電話を失くし、仕事をしていたことも覚えていない夫の滋(浜田信也)でした。しかしその時「もう一人の夫」は東京で仕事をしていることがわかります。
その夫が現れたレストランでは、不思議な現象が重なってシェフの藤枝(大窪人衛)が心を病んでおり、オーナーの島(森下創)がことのいきさつを語ります・・・。


ドッペルゲンガー。
多分テーマとして一番に挙げられるのはこれ。
同じ人物が同時に複数の場所に現れる、それを第三者や自分自身が見る現象のことをいうようです。

要の前に現れた滋と同時刻に会社にいた滋。
この謎解きを中心に物語は展開します。

「もう一人の人間はその存在を信じる人の心がつくり出すもの。ただしある特別な場所で」
という仮説にたどり着き、それを立証しようとする輝夫たち。
ちょっとユーモラスな雰囲気の中で展開されるこの「実験」を、それこそ固唾をのんで見守る私たち観客。大河原くんがコーラを4本持ってキッチンから出て来た時の客席全体の「!!!」という感じ。
しかもそのコーラはペプシで、「大河原くんにとってコーラといえばペプシなんだね」というシャレたおまけまでついています。
「滋さん」「滋さん」とドアの向こうの姿が見えない「滋」に呼びかける由香里ちゃんと一緒に前のめりになって「出てこい、滋!」と心で呼びかける客席。

イキウメの作品は、無駄を極力削ぎ落したような舞台装置にも特徴がありますが、絞りこまれた登場人物にもそれはあてはまって、今回客演の二人(橋本ゆりか・揮也)が演じた役は、登場した時には主筋にはあまり関係のない役のように思わせておいて、後半でまるで私たち観客目線の代表のような存在になることに、ヤラレタ!と思いました。


そうして「謎」が解明されて、吹っ切れたように離婚を切り出す要の心情が興味深かったです。
夫の行状に腹を立てて家を出た要は、口では離婚すると言いながら、それでも多分、気持ちは揺れていたのだと思います。
だから、夫が迎えに来るのではないかと少し期待もしているし、来ないことに苛立ってもいます。
そんな要の心が生み出したもう一人の滋。

分離した二人の滋と会うことで、滋という人間の本質を知り、次の人生に進む決意をする要。
人って、多かれ少なかれ他の人の一面しか見ていないし、見せていないのかもしれない、と思いました。私の隣にいる人のことだって、自分では理解しているつもりでも本当の姿は・・・。
そんなことを考えると本当に怖いのは人の心で、やはりこれは心理ホラーか、とも(笑)。


前川さんがつくり出す物語は、何気ない日常の中にぽっかり口を開けている別の世界があって、人々は無意識にそこに足を踏み入れてしまい、混乱し、また戻ってきた時には世界は少し違って見えたりする・・という切り口だと思うのですが、それが本当によくハマった作品だと思います。
またそれを体現する役者さんたちが皆とても上手い。

安井順平さんの輝夫は、「仕事もせず親の遺産で暮らしている」ところが、「地下室の手記」のニートくんと重なっていて笑っちゃったけど、彼よりかなり建設的で常識的かな(笑)。
ギャグを言おうとかわざと笑わせようとか決してしていないのに醸しだされるユーモア。
伊勢佳世さんの要との本当の兄妹のような掛け合いもこの作品の聴きどころでした。

そして浜田信也さんの滋。
二人(・・厳密にいえば三人)に分離した滋を見事に行き来していました。
声色はもちろん、ちょっとした仕草や表情まで微妙に違う-別人ではないので全く違ってしまわないところがミソであり難しいところだと思うのですが、そのあたりのさじ加減も絶妙。
携帯電話を失くした滋2が自分の携帯に電話をしたら会社にいる滋1が出て、話しながら舞台上から姿を消すことなく二人が入れ替わる鮮やかさ。
その演出、演技の両方にシビれました。


最初と最後は同じ場面。
すべてが終わったレストラン跡の更地に大きな石を置き、その石にしめ縄をかけると、人はそこに神の存在を感じるようになって、ここが「聖地」のように思われてしまう・・・。
不思議な力を持つパワースポットや超常現象が起こる場所は確かにあるけれど、
「この世に起こる不思議な出来事は、人の怖れを鏡のように写したもの」という前川さんのメッセージがここにも。



いつの間にか音もなく壁が突き出ているような舞台装置(美術:土岐研一)もすばらしかったな のごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 1383 わーい(嬉しい顔) vs 1386 ふらふら)
posted by スキップ at 23:13
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