
昭和43年に初代吉田玉男さんに入門され、「約半世紀かけて『女』から『男』へと変わります」と記者会見でおっしゃった玉女さん。
襲名披露狂言は師匠の代表作「一谷嫰軍記」。
月半ばで一部二部入れ替えがあったのですが、千穐楽第二部を拝見しました。
四月文楽公演 第二部
2015年4月26日(日) 4:00pm 国立文楽劇場 5列センター
「靱猿」
太夫: 豊竹咲甫大夫 豊竹睦大夫 豊竹始大夫 豊竹咲寿大夫 竹本小住大夫
三味線: 鶴澤藤蔵 竹澤團吾 鶴澤寛太郎 鶴澤清公 野澤錦吾
人形: 吉田文昇 吉田勘市 豊松清十郎 吉田玉翔
前日、「祝祭大狂言会」で観たばかりの演目。
会場に着いてから気づくという(笑)。
基本的なストーリーは同じながら、詞章をはじめいろいろ違いもあって興味深かったです。
文楽の方が展開が早くて情緒的な部分はかなり割愛されている印象。
太郎冠者と猿曳とのやり取りとか、猿曳の逡巡とか、猿曳や大名がえーんえーんと泣くのもナシ。
大名が猿が踊る真似をして無邪気に舞う、というところもありませんでした。
その代わり、最後は猿曳が舞っていましたが。
さすがに重力とは無関係に軽々と飛んだりくるくるまわったりする人形のお猿さんは可愛さ格別でした。吉田玉女改め 二代目吉田玉男 襲名披露 口上
舞台中央に吉田玉男さん。
下手から竹本千歳大夫、桐竹勘十郎さん、吉田和生さん、玉男さん、豊竹嶋大夫、鶴澤寛治さん。
その後ろに大勢の涼やかな揃いの肩衣をつけた皆さんが控えていました。総勢20名くらいかしら。
千歳大夫さんが進行。
「先代玉男師匠のところで可愛らしい男の子が身のまわりの世話をしていて、『師匠の息子さんですか?』と聞いたら『いや、文楽好きや言うて、ちょっと預かってんねん』とおっしゃっていた子が・・」とエピソードを披露してくださった寛治さん。
とても自然体で素敵でした。
玉男さんと同期入門の勘十郎さん、和生さんの言葉も温かかったです。
勘十郎さんは「初めて会ったのは玉男くんが中学1年、僕が中学2年の時。これからもよき友、よき仲間、よきライバルとして」と。
それから48年。芸を極めるということ(もちろん他の仕事もそうですが)は本当に長い道のりなんだなぁと改めて思いました。
主役の玉男さんはずっと平伏したままでひと事も発せず。
ここが歌舞伎の襲名披露との最大の違いかな。
襲名披露狂言 「一谷嫩軍記」
熊谷桜の段/熊谷陣屋の段
太夫: 豊竹靖大夫 豊竹咲大夫 竹本文字久大夫
三味線: 竹澤宗助 鶴澤燕三 鶴澤清介
人形: 吉田玉男 吉田和生 桐竹勘十郎 吉田玉勢 吉田幸助 吉田玉也 吉田玉輝
当代玉男さんの熊谷、和生さんの相模、勘十郎さんの藤の局という同期の三人万全の配役。
玉男さんの熊谷次郎直実がすばらしいのはもちろん、相模と藤の局の二人もとてもよくて、この物語は直実や義経、弥陀六といった男たちばかりでなく、女性の物語でもあったのだなぁと感じました。
歌舞伎では何度も観ましたが、文楽で観るのは初めて。
口上で和生さんが「藤の局を制札で抑える型も先代の工夫と伺っています」とおっしゃった型など、文楽ならではというところも興味深かったです。
そんな玉男さんの熊谷は、勇壮で大きく、その一方で感情表現も細やかで、時折人形ということを忘れてしまいそうでした。
キリリとした表情で寡黙に(人形遣いさんはいつも寡黙だけど

勘十郎さんの藤の局は皇胤の母という高貴な雰囲気にわが子敦盛を思う母親の情が重なっていてとてもよかったです。
相模と二人で向かい合って話すところ、真横から観る藤の局の手の動きがとても綺麗で見惚れてしまいました。
勘十郎さんといえば激しい動きの役が多いイメージですが、こんなたおやかな動きもお上手です。
「熊谷陣屋の段」切三味線に燕三さんが登場されたのもうれしかったです。
病気から復帰されてから拝見するのは初めて。
まだ少し短い出番でしたが、変わらぬ響きを聴かせてくださいました。

太夫: 豊竹芳穂大夫 竹本津駒大夫
三味線: 鶴澤清馗 鶴澤寛治
人形: 吉田簑助 桐竹紋壽 桐竹勘壽 吉田簑二郎 吉田簑次
白河法皇の命を救った平太郎・お柳夫婦のもとに三十三間堂建立のために柳の大木を伐り出すと知らせが届きます。外の柳に斧が入れられると苦しみ始めるお柳は実は柳の毛身。お柳は自身の秘密を打ち明け、持っていたドクロを平太郎に渡し、わが子みどり丸に別れを告げ・・・。
初めて観る演目でした。ストーリーも知らなかったのですが、
緑の着物を着たお柳。
「柳の木を切り倒す」と言われた時「ハッ」とする仕草などから、「あぁ、この人は柳の精なんだな」とわかります。
「葛の葉」の狐と似た物語ですが、動物ではなく植物というところがより幻想的。
襲名披露狂言の後のおまけのような演目と思いきや、とてもおもしろく、ビジュアル的にも見応えありました。
しかも、お柳を遣うのは簑助さん、奥三味線は寛治さんという豪華キャストです。
簑助さんのお柳は相変わらず動きが美しくて細やか。
暖簾から顔を出しただけで、目が惹きつけられます。
わが子との別れを悲しむ母であると同時に愛する夫を思う女でもある何とも言えない色気が立ち上ります。
切り倒された大きな柳の木が運ばれていくところの津駒大夫の木遣り音頭もよかったな。
「熊谷」の後帰っちゃう人も目立ちまちたが、ほんとこれ、とてもよかったので通しで観てみたいと思いました。
どの演目も楽しくて全然眠くなりませんでした(笑) のごくらく度


